ゴブリンダンジョン-4

 ゴブリンが住まう洞窟ダンジョンの最奥に鎮座せしは、【帝王】の名を冠した存在。

 帝王は決して玉座から動くことはなく、気に入らなければ下僕とて容赦なく殺し、根城に入り込んだ害獣どもを生きて還すことは断じて許さず。

 帝王の元へと辿り着くことが出来た存在は、今まで誰一人として居らず。雄は悲鳴をあげさせることなくその場で容赦なく殺し、雌は下僕たちの愛玩具として犯してから殺す。帝王の領域テリトリーに侵入せし存在は、その時点で死すことは確定しているのだ。


 慈悲など知る由もない独裁者は遂に今日、鎮座する玉座から動くこととなる。


 帝王の前に現れたのは、何ともちっぽけな存在ものたちだった。その存在たちへ、帝王はまずここまでたどり着けたことに賞賛を送る。

 そして、その存在たちが己が前で死ぬことを許し、下僕たちへその存在を始末するように指示を出す。

 帝王が座りし玉座の両側の入口から現れるのは、帝王の軍の中でも特に戦闘に長けた下僕共だ。


 帝王の下僕共と侵入者たちの体格差は比べるまでもなく歴然のものである。

 しかし侵入者たちは己が下僕共を前にしても尚、一切の怯える様子がない。あぁ、実に面白い。


 勇敢な侵入者たちに敬意を表し、苦痛なく一撃で仕留めるよう下僕どもに指示を出す。


 ーーしかし、結果はどうだ。

 帝王の下僕どもは侵入者たちに一切の傷を与えること無く、その殆どが死に絶えた。さらには、残った1匹の下僕はその侵入者たちに怯え、帝王に救いを求める始末。


 あぁ……気に入らない。


 帝王は救済を懇願する惨めな下僕に腹が立ち、己が剣で叩き殺す。

 周りにいる小さき下僕共も侵入者たちに怯え、暗闇から1歩たりとも動かない。


 己が下僕はこんなにも脆弱だったのか。そんな、ひ弱なものたちを従えて王になっていた気がしていた己が何とも惨め。実に、実に腹立たしい。

 さらにはこんなちっぽけな侵入者如きに、己が動かなくてはいけないという事実にも腹が立つ。


 帝王は玉座から腰をあげると、その存在たちを見て思う。この帝王を動かしたちっぽけな存在たちこそ、己が下僕に相応しいのではなかろうかと。

 帝王が軽く脅えさせれば跪くに決まっている。そしてこの存在たちを手に入れる。


 帝王はその鼻で空気を吸い込みーー。


 ーー何故だ。何故、このちっぽけな存在たちはひれ伏さない。それどころか、己と戦おうとしている様にも見える。己が下僕どもは己が脅しに失神し、使い物にならぬ。


 何故だ。何故こうも上手くいかない。あぁ、気に食わぬ。実に気に食わぬ。心の内からふつふつと湧き上がるこの感情を一体何処にぶつけよう。

 そうだ。居るではないか。己が下僕どもを殺し、己に挑もうとするちっぽけな存在たちが。


 帝王は剣を肩に担ぐと、ゆっくりとその存在に向かって歩き始めた。




 ◇◇




 小鬼の帝王ゴブリン・エンペラー

 その名の通り、ゴブリンたちの帝王として君臨せしモンスターである。その強大な力故、中にはゴブリンだけでなく魔豚オークすらも従える個体もいるのだとか。

 単体でAランク冒険者パーティに匹敵する程の強さを誇り、強靭な腕から放たれる一撃は巨大な岩をも容易く粉砕する。

 その凶暴性故、複数のパーティで討伐することをギルドが義務付けている程だ。もちろん、例外も存在する。例えば、Sランク冒険者パーティが討伐に向かっただとか。Sランク冒険者が暇つぶしで討伐しただとか。例外と言うよりは論外に近い。


 折角なので、Sランク冒険者パーティとSランク冒険者の違いについても触れておこう。

 Sランク冒険者パーティというのは、Sランク級モンスターと渡り合える実力を持っているパーティ(複数人グループ)のことであり。

 Sランク冒険者というのは、その1人でSランク級モンスターと渡り合える実力を持っている者の事である。


 ちなみに、主人公たちのパーティはCランク冒険者が2人いるため、Cランク冒険者パーティとなっている。



 ゴブリン・エンペラーは玉座から立ち上がると、突然咆哮をあげた。


 GUAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!


 鼓膜が破れんばかりの音圧に、3人は思わず耳を塞ぐ。

 また風圧も凄まじく、膝を曲げて体勢を低くしなければ、壁まで吹き飛ばされてしまうだろう。

 しばらくその咆哮は続くと、ケモ丸はゴブリン・エンペラーを見る。


 ゴブリン・エンペラーは様子を伺うようにして、こちらを見ていた。

 奴が何を考えているかは分からない。だが、奴の目は明らかに、自分たちを下に見ているようなそんな気がした。

 ケモ丸はその視線に、少しばかり腹を立てる。腰の木刀の柄を握ると、いつでも戦闘へと移行できる体勢をとる。

 こびとんとツキミを見れば、2人とも戦う準備は出来ているようで、こびとんは弓を、ツキミは御札を両手に持っていた。


 ゴブリン・エンペラーは手に持っていた大剣を肩に担ぐと、こちらへと歩き始める。

 ゴブリン・エンペラーが一歩足を前に出す度に地面は小さく揺れ、重量感を感じさせる足音は壁を反射して空間内に響き渡る。


 こびとんは限界まで弦を引くと、光の矢を放った。

 それはゴブリン・エンペラーの頭部に突き刺さると、爆発を起こす。しかし、足音は一向に鳴り止む気配はない。

 爆煙から現れたゴブリン・エンペラーの顔には傷1つ負っていなかった。

 それを見てこびとんは軽く舌打ちをする。


「ちっ……無傷かよ。こうなったら……」


 こびとんは羽根を展開すると、空中に浮かび上がり、下にいる2人に話しかける。


「ケモ! ツキミ! 時間稼いでくれ!」

「どれくらいだ?」

「んー……2分!」

「ちなみにお前さんの考えに勝算はあるのか?」

「やってみないと分かんね!」


 それを聞いたケモ丸は、ニヤリと笑みを浮かべる。


「一か八か……か」

「ケモ、おまえこの状況楽しんでない?」

「まさか〜」

「ぜってぇ楽しんでるだろ……」


 2人はそんな会話を終えると、ゴブリン・エンペラーを睨みつける。


「ツキミは奴の弱点を見つけてくれ。それまで儂が奴の相手をする」

「おっけー! 1分で見つけてやるよ!」

「任せたぞ」


 ケモ丸は居合の構えをすると、瞬きする間も許さぬ程の速度で、一瞬にしてゴブリン・エンペラーとの距離を詰めた。

 ケモ丸は走っている最中に地面を強く蹴ると、ゴブリン・エンペラーの顔面前まで飛び上がる。


 たとえどんなデカブツと言えど、その存在が生物であれば、攻撃が通る箇所は皆一様に決まっている。それは顔面である。しかし、先程のこびとんの矢を効いていないこと見るに相当皮膚が硬いのだろう。ただ顔面を殴るだけではダメなのだ。

 ケモ丸が狙うは鼻。ライオンの雌が狩りをする時、獲物を確実に仕留めるために狙うのは鼻なんだとか。

 鼻とは陸上に住まう生物全てが持つ呼吸するための器官であり、どの生物もこの弱点を顔の表面に露出させている。


 どうやらそれは異世界の生物も同じようで、ケモ丸はゴブリン・エンペラーの鼻目掛けて木刀を突き刺した。


 GYAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!


 あまりの痛みに、ゴブリン・エンペラーは鼻を手で抑えながら、後ろによろける。

 ケモ丸は突き刺した木刀を抜くと、華麗に地面に着地する。


 ゴブリン・エンペラーは鼻を押さえていた手を見ると、その掌には大量の血がついていた。初めて見た己の血に驚愕し、それと同時に己に傷を与えた存在に初めての感情を覚える。

 自分の視点よりも遥かに下にいる小さき存在に痛みと傷を与えられたことに、ゴブリン・エンペラーは激怒した。


 GUAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!!


 己が身を怒りに任せ、天井に向かって咆哮を上げる。空気は激しく揺れ、足元の地面は抉れる。

 床に転がる石はゴブリン・エンペラーから放たれる熱を受け浮かび上がり、洞窟内は小刻みに振動し始める。


「これは……」


 ケモ丸は振動する洞窟を見て、危機感を覚える。この洞窟は崩壊しようとしているのだ。

 逃げるべきか……。いやしかし、ここで儂らが逃げれば、外で待つおなご達や街のもの達にまで危険が及ぶかもしれん。


「……何としてもここで奴を仕留めなければ。それも早急に……」


 ケモ丸はそう呟くと、弱点は見つけられたか聞くべくツキミの方を振り返る。


「ツキミ! 弱点は見つかったか!?」

「もう少しで見つかりそう!」

「あとどのくらいだ!?」

「15……いや20秒!」

「了解した!」


 ケモ丸は頷くと、ゴブリン・エンペラーを真っ直ぐと見据える。

 ゴブリン・エンペラーの身体は先程までの苔むした石のような色とは違い、全体的に黒ずみ、胸元は紅蓮に染まっていた。さらには頭頂にあった小さな角も、水牛の角ような形に変わっている。


 GUAAAAAAAAA!!!!!!!!!


 ゴブリン・エンペラーはケモ丸に向かって怒りを吠えると、大剣を振りかざしながら突っ込んでくる。

 その速度は、その巨体には見合わないスピードで距離を詰めてくる。それに驚いたケモ丸は硬直していると、ゴブリン・エンペラーはケモ丸の脳天目掛けて大剣を振り下ろす。

 それにケモ丸はハッとすると、後ろに飛び退き、それを紙一重で回避する。


 速い……っ!


 ケモ丸はゴブリン・エンペラーを見ると、奴は地面に深く斬り刺さった大剣を引っこ抜いていた。

 大剣が抜けると、ゴブリン・エンペラーはそれを肩に担ぐようにして構え、空いている手を地面につき、今にも走り出さんとすべく体勢を低くする。


「どうやら、出し惜しみをしている場合ではなさそうだな」


 ケモ丸は身体の内側に力を込めると、溜め込んでいた妖力を解放した。

 ケモ丸の口は大きく裂け始め、肉食獣のような低い唸り声を鳴らしたかと思えば、全身の筋肉が微かに震えているのが見て分かる。

 ゴキッと骨が外れたかのような鈍い音がすると、骨格は見る見るうちに変わっていきーー気づけば、ケモ丸は完全なる獣人と化していた。

 細い目にピンとたった耳。腕や脚には毛が生えており、尾はいつもよりフサフサとしている。

 その姿は狐の獣人のような見た目をしていた。全身の大半を占めるのは黒い毛並みに覆われており、腹や腕先などには純白の毛が生えている。目尻の部分だけには赤い毛が生えており、それは祭りの時によく見た狐の面を思い出させる。

 そんなケモ丸の身体からは、青紫色のオーラが放たれていた。


 ケモ丸はヴルルルルと喉を鳴らしながら、ゴブリン・エンペラーを鋭く睨むと、地面スレスレまで体勢を低くする。

 ゴブリン・エンペラーはそれを見て、割れんばかりの声を叫ぶと、地面を抉るようにして蹴る。

 とてつもない速度で突進してくるゴブリン・エンペラーを見て、ケモ丸は両手両足で地面を蹴り飛ばす。


 二体は真っ向から互いに、互いの重い一撃を受け止めると。二体は同時に後ろによろけ、体勢を立て直すと、そこから大剣と木刀の激しいぶつかり合いが始まる。

 金属と金属がぶつかり合うような、耳に刺さる高音が洞窟内に鳴り響く。


 それを見て、ツキミがボソリと呟く。


「あれ……ほんとにケモ丸だよな……?」


 ツキミがそう呟くのも無理もない。先程まで人間と似たような姿をしていた者が突然、目の前で獣のような姿へと変化すれば誰であれその光景に目を疑ってしまうだろう。


 ケモ丸とゴブリン・エンペラーは互いに力を込めると、強大な力同士は再びぶつかり合う。

 その鳴動にツキミは思考から現実に戻ると、ゴブリン・エンペラーの弱点を探べるべく、空に飛ばした御札に意識を向けた。さっきまで無かったゴブリン・エンペラーの胸の中心は白熱電球のように白く光り輝いていた。

 それを見た瞬間、ツキミは直感的にこれが弱点なのだと理解する。ちなみに、ツキミが御札を介して見る景色は、まるで赤外線カメラのような見え方をしている。


 ツキミは弱点を見つけたことを、宙に浮くこびとんに知らせる。


「こびとん! 奴の弱点は胸の中心だ!」


 それを聞いたこびとんは、少しだけ安心した顔をする。


「異世界の生物でも心臓はちゃんとあるんだね……。これでようやく仕留められる!」


 こびとんはキッとゴブリン・エンペラーの胸元を見ると、弦を限界まで引っ張り、光の粒が巨大な光の矢を形成すると、こびとんは呪文のようなものを唱え始める。


「天を駆ける生命よ、地に脚を着きし生命よ、海を泳ぎし生命よ。森羅万象等しく、宇宙樹の根元へと還らん。【ユグドラシル・リフレイン】」


 詠唱を終えたこびとんは、限界まで引いていた弦を離す。光の矢は細く鋭利に尖り、ゴブリン・エンペラーの胸の中心へと飛んでいく。

 それに気づいたケモ丸は、サッと横に飛び退くと、光の槍はゴブリン・エンペラーの胸の中心を綺麗に抉った。


 ゴブリン・エンペラーは自分の胸元を見ると、自分の胸に大きな風穴が空いていることに気づく。そして、意識が遠のいていく感覚を覚えーー帝王は地面の味を知ることとなった。


 倒れたゴブリン・エンペラーを見て、こびとんは唾を飲み込む。


「やったか……?」

「おいまて! それはフラグ……」


 ツキミがそこまで言いかけると、一度倒れたはずのゴブリン・エンペラーは再び立ち上がり。そして天に向かって叫ぶと、ツキミへと襲いかかる。


「しまっ……」


 ツキミが後ろに避けようとするが、それはあまりにも遅く。

 ゴブリン・エンペラーがツキミの目の前まで来るのに時間はそこまで要らず、僅か数秒でツキミの元までたどり着いた。

 ゴブリン・エンペラーは前屈みのまま大剣を振り上げると、ツキミの頭部に狙いを定める。


 GUAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!


 帝王は目の前にいる小さき存在の命を奪った事を確信して、雄叫びをあげると剣を振り下げる。その瞬間、帝王の視界は突然、宙を舞った。

 再び、大地が己が視界に近づいてくると、そこで帝王は完全に意識を失った。


 ツキミは後ろに飛び退くが、間に合わないことを悟り目を閉じる。


 ボトリ。


 と大きな物が地に落ちる音がした。

 ツキミはそれに目を開くと、目の前にはケモ丸が立っていた。彼の純白の毛並みに、赤い血がこびりついている。


「……あ、ありがとう。ケモ」

「どういたしましてだ。そうだツキミよ、1つ頼まれてはくれんか?」

「な、なに……?」

「儂を外まで運んでくれ」

「ん? あぁ、うん。それくらいのことならいくらでも……」

「……感謝する」


 ツキミの言葉をそこまで聞いてケモ丸は感謝の言葉を述べると、ケモ丸の姿は段々と元の姿へと戻っていき。

 そしてケモ丸は気を失って、地面にパタリと倒れた。

 ツキミは頼まれたとおり、地面に倒れたケモ丸を背中に担く。


「それじゃあ、戻ろうか。こびとん」

「うん、そうだね」


 こびとんは小さく頷くと、羽をしまい、地面にふわりと降り立つ。それを確認してから、ツキミは外へ向かうべく歩き出す。

 すると、洞窟内にカタカタと音を響き始めた。それにこびとんは周りを見回すと、洞窟は小刻みに震えているのが見て取れる。


「ね、ねぇ、ツキミ?」

「これ、急いだ方が良さそうだね」


 2人はそう言うと、駆け足で洞窟の出口に向かう。

 帰り道にゴブリンの死体はないため歩きやすいが、何せ足元が暗く。途中途中で転けそうになるが、なんとか出口の前まで辿り着くことが出来た。


 出口から射し込む明かりに、2人は歓喜の表情を浮かべると、さらに足を速める。

 こびとんは一足先に洞窟の外へ走って出ると、こちらに振り返って手を振ってくる。


「頑張れツキミー! ケモを落とすなよー!」

「あんにゃろう……」


 ツキミは笑顔で手を振でてそう言ってくるこびとんに、ニヤッと笑ってそう呟くと、少しだけ足の速度を速める。


 あと少しで出られる。そう思った時、洞窟の天井から危機感を感じさせる鈍い音が聞こえてきたかと思えば、ツキミの頭上にある天井が崩れはじめた。


「な……っ!」


 避けようにも、ケモ丸を背負っているツキミはこれ以上の速度で走ることは出来ない。

 どうしようと考えている間にも、崩れた天井はツキミの頭目掛けて落ちてくる。

 ツキミはそれをただ眺めることしか出来ず、呆然としていると、崩れた天井はツキミの目の前でピタリと止まった。


「……無事か?」


 声がする方を見ると、コバルトが崩れ落ちる天井に手を向けながらこちらを見ていた。

 これだけの質量を全て片手で止めているのだろうか。流石は元ラスボス、ほぼ魔力がないと言っていてもこれ程のことを容易く成すとは。


「どうした? ツキミ」

「あ、いや。なんでもない」

「ならば早く出ろ。長くは持たんぞ」

「あ、あぁ」


 ツキミは背負っているケモ丸を一度、上に持ち上げると、洞窟から外に出た。

 洞窟の入口前には、白い丸テーブルと日傘が置いており、その白い丸テーブルにはいくつものティーカップが置いてある。

 丸テーブルの中央にはお茶菓子もあり、助けた女性たちはそれを美味しそうに頬張っている。


 後ろで岩が落ちる音が聞こえると、そこに洞窟の入口は既になく。瓦礫の山だけが残っていた。

 コバルトは上げていた腕を何度か振ると、空いている椅子に座る。すると、女性たちは一斉にコバルトに話しかける。

 それを見て、こびとんは心底羨ましそうな顔をしていた。耳を傾けると、「なんであのロリコンに……」などぶつぶつと呟いている。


 それにツキミは苦笑する。近くの木陰に気絶しているケモ丸を下ろして一息つくと、そこへシャーロットが寄ってくる。


「どうしました?」


 目の前に来たシャーロットに聞くと、シャーロットは頭を下げる。


「ありがとう。私たちを助けてくれて」

「い、いやいやそんな。気にしないでください」

「そしてすまない。あなた達が命をかけて護ってくれたにも関わらず、あのもの達は……」


 そう言ってシャーロットは後ろの女性たちを見る。女性たちはワイワイと騒ぐようにして、コバルトと楽しそうに話している。


「いいんですよ。コバルトは多分、しみじみとした空間が嫌いで、ああしてるんでしょうし」

「そうか……?」

「はい、きっとそうです。それに俺もあんまり、しんみりとした空気感ってのは嫌いですし」

「それはすまないことを……!」

「そ、そんな、謝らないでください!」


 そんなふうにシャーロットとツキミも、ワイワイと話し始める。

 そんな中、ひとり取り残された感に浸っていたこびとんは隅っこの方で、地面に絵を描き始める。


「はぁ〜、いいよどうせ。俺は一人だってやっていけるし? 別に寂しいとかそういう訳じゃ……」


 そんなことを呟いていると、コバルトが声をかけてくる。


「おい、こびとん! 貴様もこちらに来い! この者たちの話はタメになるぞ」

「……!」


 こびとんはそれに嬉しそうに振り向く。そうだね! この世界の情報を知るには、この世界の住人に聞くのが1番! いやぁ、やっぱコバルトは分かってるなぁ〜!


 こびとんはそれはそれは嬉しそうに、スキップでコバルトの元まで来る。コバルトは近くに来たこびとんを脇を抱えると、膝の上に乗せた。

 それにこびとんは疑問を覚える。あれ……? なんか子供扱いされてるような……。


「何この子、可愛い〜!」

「頭撫でてもいい?」


 女性たちはこびとんにそんなことを聞いてきた。

 あ……これ、いいかも。ありがとう、コバルト。俺を子供扱いしてくれて。普段なら許さないけど、今回は特別に許しちゃう。

 こびとんは女性たちに言われるがまま、頭を撫でられる。


「幸せそうだな。こびとんよ」

「うん……ちょーしあわせ」


 こびとんは頬を緩ませながら、コバルトの声に答えた。


 ケモ丸は目を覚ますと、目の前の平和な光景に目を点にする。そこにいる者たちは先程までの激しい戦闘を忘れたかのように、楽しそうに話していた。


「まったく……」


 ケモ丸は「はぁ……」と息を吐いて微笑むと、今はその光景を見守ることに決める。


 そんな感じで、4人は無事にクエストを達成するのだった。

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