冒険者の街-1

 冒険者のアルダム

 高さ約30mの城壁に囲まれ、15の円筒状の塔によって防衛網を構成している。

 非常に強固な城壁を持つことで非常に有名であり、これは森から溢れ出た魔物モンスターや魔獣の為に作られたと言われている。

 この都市まちは、ルータス新王国の四大貴族がひとつ「ルクセンブルク辺境伯家」の元に統治されている。



 噴水のある広場を中心とした露天は、昼特有の活気に満ち満ちており、威勢のいい声で道行く人を呼び止める。

 年齢のいった夫人が商人と交渉をしつつ良い食材を探し、肉の焼ける匂いに釣られた青年が串肉を購入している。

 そういった様々なものが混じりあい、空気に匂いがついていた。

 そんな露店を左右に眺めながら、ケモ丸は石畳で整備された広場を歩く。時折、こびとんとツキミが売り子に呼び止められているが、先頭を歩くコバルトはそんな2人を待つことなく何処かへと歩き進んでいく。


 ケモ丸は後ろの2人を気にしつつ、コバルトの後を歩いていると、コバルトはとある露店の前で立ち止まる。


「先程はギルドまでの道案内と串肉、助かった」


 コバルトが話しかけたのは、串肉を炭火で焼いている人間のおじさんだった。

 頭には白いタオルをハチマキのようにして巻いており、白いシャツに汗が滲んでいる。


「お? さっきの青髪の兄ちゃんじゃねぇか! なぁに、良いってことよ! 人助けっちゅーのは回り回って自分に帰って来るからな」

貴殿きでんに何かあれば、必ず我が助けになることを約束しよう」

「そいつぁありがてぇ話だ! ところで、もうギルドには行ったのか?」

「今から行くところだ」

「そうかそうか! 気をつけて行けよ!」

「あぁ」


 コバルトは短く返事をして立ち去ろうとした時、串肉屋のおじさんが右手の親指を上に突き出して、グッジョブマークをこちらに向けてきた。コバルトはそれを見て、おじさんの真似をしてグッジョブマークを返してからその場を後にする。

 ケモ丸がコバルトの後を追おうとすると、おじさんはケモ丸にもグッジョブマークを向けた。

 ケモ丸も、コバルトと同様に、グッジョブマークを返すと、コバルトの後を追うようにして歩き出す。


「なぁ、あの熱血そうな方とはいつ会ったんだ?」

「ケモ丸らが到着する前、あの者にベニシュラの甲殻を換金出来る場所を聞いてな」

「ベニシュラ……あの熊の鎧か」

「うむ」

「それを換金出来る場所というのが、さっきお前さんらの話にも出てた"ギルド"。で合ってるか?」

「その通りだ」


 ケモ丸の問いに、コバルトは首を縦に振った。

 その時、後ろから2つの足音が近づいてくることに気づいたケモ丸は、後ろを振り向くと、ツキミとこびとんが駆け足でこちらに来ていた。

 2人はケモ丸の元まで来るや否や、ツキミが空気を大きく吸って強引に息を整えると口を開く。


「2人ともどこ行ってたのさ」

「すまぬな。コバルトと共に、儂らに串肉をくれた方の元へ行っていてな」

「あ〜、あの大きい串肉! あれ美味しかったぁ〜」


 こびとんは串肉の味を思い出してそう言いながら、頬を両手で抑える。

 そのこびとんの反応は分からんでもない。腹が極限まで減っていたあの時に、串肉を頬張るというのは中々に良い気分だった。

 あの串肉の味は早々、忘れることはなかろう。ケモ丸は、門前での記憶を遡りながらそんなことを思う。


 人混みの中をかけ分けながら進んでいく4人は広場を後にし、石畳の大通りへと差し掛かる。

 広場と比べ、多少人は少ないが、それでも人とすれ違えば肩がぶつかることが何度かあった。

 大通りの左右を見れば、服屋やカフェ、雑貨店など、色々な店が軒を連ねて並び立っている。さらにほ、ガス灯らしき街灯も立っていた。

 これを見れば、この世界の文明がどれほど進んでいるかが分かる。

 恐らくこの世界、地球では近代あたりの技術力は持っているのだろう。ましてや、魔法なんてものも存在する世界だ。もしかすると、地球より優れた技術もあるかもしれない。


 街並みを見る限り、中世あたりかと思っていたが……。などとケモ丸が考えていると、突如立ち止まったコバルトの背中にぶつかる。


「着いたぞ」


 ケモ丸が前を見ると、巨大な造りの西洋風の建物があった。

 コバルトは建物の前にある数段の階段を昇り、木でできた扉を勢いよく押し開いた。


 コバルトよ……お前さん、迷惑というものを知らんのか……。


 ケモ丸はそんなことを思いながら、その建物の中へと入っていった。



 



 冒険者ギルドの一階は酒場になっており、まだ昼間なのにも関わらず酒場は大いに賑わっていた。しかし、コバルトが扉を開いてすぐ、その賑わいは静まる。

 酒場の奥にはカウンターがあり、そこには数人の女性が座っている。その女性たちは皆、見たことの無い衣装に身を包んでいた。


 女性たちの前のカウンターの上には名札らしきものが置いてあるが、その文字を読むことは出来ない。

 そもそも、何故この世界の住人たちと日本語で会話が出来ているのかが謎である。


 ケモ丸がそんなことを考えていると、ツキミが肩をトントンと叩いてくる。


「そんな難しい顔してどしたの?」

「……いや、少し考え事をな。顔に出ていたか」

「おん。物っ凄い考えてる顔してた」

「実は気になったことがあってな……。何故この世界の者達は皆、日本語で会話が出来ているのかとな」

「それ俺も気になる」


 ケモ丸とツキミが話していると、こびとんが頭を覗かせるようにして二人の間に入り、会話に割り込んでくる。


「あー……それは多分……」


 ツキミは何かを知っているようで、何か迷っている様子で人差し指で頭をかいていると。そんなことを知る由もなく、コバルトはカウンターへと歩き始めた。

 ツキミはそれに気づくと、「あくまで俺の予想だけど、それでいいなら後で説明するよ」と言って、コバルトの後ろを歩き始めた。


「仕方あるまい。また後で聞くとしよう」

「そだね」


 ケモ丸とこびとんは短く会話を終わらせると、ツキミの後に続いた。


 カウンターへと向かっている最中、ケモ丸は周囲を見る。

 そこにいる者達は、何の素材で作られているのか分からない鎧に身を包んでいたり、長い杖を持ってローブを纏っていたり、多種多様な格好をしていた。

 その光景に、まるで日本のイベントのようだな。えーっと、名前は確か……コミケだったか? などとケモ丸は考える。


 そんなコスプレみたいな格好をしている周りの者達は、まるで珍しいものでも見るかのようにして、こちらを見てきた。

 物珍しいのは儂も同じなんだが、この世界ではどうやらあの格好が普通らしいな。と、ケモ丸はこの世界の文化を少しだけ理解する。


 ちなみに、そこには獣人や人間はもちろんのこと。他にも、一見人間のようにも見えるが耳が長いーーこびとんと似たようなーー種族や、背はこびとんよりも小さいものの非常にガタイが良く、筋力がありそうな見た目をした種族。骨格は人間と似ているものの、皮膚ではなくトカゲの鱗に覆われている種族など。地球では絶対にお目にかかれないであろう種族がいた。


「この世界は面白いな」

「ふふっ、そうだね」


 ケモ丸がポツリと呟いた言葉に、こびとんが微笑みながら返事をした。

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