異世界-2
ーーそれからしばらくして。
着物の男のおかげで少年の気が収まり、俺を含む4人は少し開ける場所まで移動した。その後、ささっと自己紹介を終わらせ、これからどうするかの話し合いを始めようとしていた。
「それでは、これからの計画を立てていくぞ」
進行を始めたのは着物の男。
彼の名は『
黒い髪に黒い瞳、黒い着物に身を包んだ日本人のような見た目の彼だが、頭には狐の耳が生えている。腰の辺りからは尻尾が垂れており、尻尾の毛先だけが白くなっている。
いつも腰に刀を携えていたらしいのだが、あの眩しい部屋にいた時には既になかったらしい。
前の世界では下界を見守る仕事をしていたと言っていたが、よく分からなかった。ニートってことだろうか?
ちなみに、どっかの軍服の人の「名前が呼びづらい」という要望により、彼の呼び名が『ケモ丸』に決定した。
「はーい」
手を挙げてそう言ったのは、金髪の少年。
彼に特に名前はないらしく、少年に聞こえないように3人で話し合った結果、『こびとん』と呼ぶことに決まった。理由は、本人には言えないが背が小さいから。
彼はこの世界に来るまでは『
「よかろう」
そう言って偉そうに頷くのは、軍服の男。青く長い髪を後ろで結んでおり、深い海のような濃い蒼眼を持っている。
彼には色んな呼び名があるらしく、本人の意見で『コバルト』と呼ぶこととなった。彼いわく、これは彼の真名との事。
前の世界で何をしていたのかを聞くと、彼はこの世界の住人とだけ。それ以外は特に話してくれなかった。というより聞けなかった。
ほら、もしかすると何か気まづくなりそうなことになるかもしれないじゃん? 怖くて聞けないよね。
軍帽の紋章は何か聞くと「導かれるは魔。継がれるは帝。この紋は我であり、我はこの紋である」と難しそうなことを言っていた。
前半の言葉が少し引っかかったが、特に何も思いつかなかった。とりあえず、この紋章は彼を象徴するものなんだろう。ってことだけは分かった。
「それではまず第1目標は、人里に向かうことだ」
「おーけー了解」
ケモ丸の最初の方針に二つ返事で頷く。森の中は危険が山ほどある。早めに人里を見つけたいところだ。
「ちなみに人里の場所は?」
と、こびとんが聞く。
「さっき上空を落下している時に確認した」
ケモ丸はもう既に人里の場所を把握しているらしい。あの高高度からよく人里を見つけられるとは、物凄い視力だ。
3人が地面に座っている中、唯一石の上に座っているコバルトが、紅茶の残りが僅かとなったティーカップを皿の上に置いて質問する。
「ちなみにだが、その人里まではどれくらいかかりそうだ?」
「そうだな……」
ケモ丸は目を細めて、空を見上げて太陽の位置を確認する。
「……うーむ。今から移動を始めれば明日の朝には着くかもなぁ。とはいえ……」
ケモ丸は顎に手を当てると、何かを懸念しているのか考え始める た。
ケモ丸が何を懸念しているのか、それは考えずともわかった。
「食料だな」
「その通りだ。ツキミ」
ツキミ。俺は今、ケモ丸にそう呼ばれた。
なぜ名前ではなく呼び名で? と疑問に思う方もいるだろう。それは、皆の呼び名決めてたんだし、流れで決めちゃえ。ということで、3人が話し合った結果、『ツキミ』と呼ばれることとなった。
何故か宮司にも「ツキミくん」と呼ばれていたが、なぜ自分が『ツキミ』と呼ばれていたのか。未だに分からない。
もしかすると、この3人が俺の呼び名を『ツキミ』に決めた理由は、宮司が俺の事を『ツキミ』と呼んでいた同じ理由かもしれない。
などとツキミが考えている間に、話はいつの間にか終わっていた。
考え耽っているツキミの顔を覗き込むようにして、こびとんがツキミに呼びかける。
「ツキミ〜? 大丈夫?」
「……! あ、あぁ。大丈夫」
「そう? 何か考え事してたみたいだけど」
「ちょっとね」
そう言って3人を見ると、どうやら今から移動を始めるらしい。3人とも立ちながら、こちらを見ていた。
「ほら」
「あんがと」
こびとんの手を借りながら、その場に立ち上がる。
お尻の土を手で叩いて落とすと、それを確認してから、ケモ丸は人里までの説明を始める。
「それでは、今から人里へと向かう訳だが。まず儂らには食料がなければ水もない。幸いそう遠くないところに川が流れている。今日はまず、川を目指す。川原で1泊した後、明日の早朝、人里へと向かう。明日の昼過ぎには人里に到着できるだろう。良いな?」
「了解した」
「おっけぇ」
コバルトは小さく頷いて、こびとんは人差し指と親指でOKマークで応えた。
なんだろう、こういうのって探検してるみたいでワクワクしてしまう。
「了解しました!」
俺はビシッと敬礼をして、大きな声で返事をした。
こうして、俺たちは人里へと向かうべく、道無き森へと足へと踏み入れた。
慣れない森の中を歩くのはかなり体力を消耗するため、休憩を挟みつつ、森の中を進むこと約4時間。
体力に限界を感じはじめ、もうヘトヘトになっていたタイミングで、今日の目標である川へと無事に到着する。
俺は川原に着くと、腰を下ろして空を見上げた。
空はもう既に赤く染まり始めており、空高くを旋回するようにして飛んでいる鳥が、夕闇が迫ってきていることを報せてくれる。
「この世界にもトンビみたいな鳥はいるんだな」
そう呟くと、ケモ丸が隣に腰を下ろしながら話しかけてくる。
「果たしてあの鳥がこの世界でなんと呼ばれているのかは知らんが。儂らからしてみれば、あれは紛れもなく鳶だろうよ」
「そうだな……ん? あれ、ケモ丸は地球から来たの?」
「そうだが?」
「じゃあ、その耳と尻尾はコスプレ?」
「本物だが?」
「……?」
少なくとも俺がいた地球には獣人はいなかったはずだ。
昔はヴァンパイア狩りだとか魔女狩りが行われたらしいが、実際に魔女やヴァンパイアがいた訳では無いだろう。
もしかして、俺とは違う地球から来たのだろうか?
「言っとくが、お前さんがいた地球だぞ」
考えていることがバレてしまった。
俺がいた地球と同じということは、狼男だとかそういう伝承の存在は本当に存在していたということだろうか。
などとしばらく考えていると、ひとつ疑問が生まれた。
「ん? なんでケモ丸は俺と同じ地球から来たって言い切れるんだ?」
「それは儂がお前さんのことを地球にいた時から知っているからに決まっているだろう?」
「え……俺のこと知ってたって……どゆこと?」
「お前さんが会いたいと言っていたからな。お前さんの前に姿を見せようと思ったら、何故かあの眩しいだけの部屋に連れ込まれていたわけだ」
「え? 俺が会いたいって……?」
「あぁ」
「えーっと……あ、ん?」
思い当たる節があったが、果たしてそれが合っているか、ケモ丸の姿をよく見て確認する。
「……もしかして、尻尾ってそれだけじゃなかったりする?」
「今出せるのは八つだな」
「あぁ、はい。そゆことね」
それを聞いて確信した。ケモ丸はあの神社で祀られていた八尾の狐だ。
「驚かないのか?」
ケモ丸のその質問に、ハハッと乾き切った笑いで返す。
今日一日、驚くことがあまりにも多すぎたせいか、感覚が麻痺ってるんだろう。
仕方ないよね。だって、気づいたら変な部屋にいて、その部屋にいた女から「いらない」って言われて高度10,000mから落とされたわけだ。そんで落とされた場所にはドラゴンみたいなファンタジーな生き物がいる異世界。
そんな事が立て続けに起これば、そりゃ感覚も麻痺りますよ。
そんなことを思っていると、唐突にとてつもない眠気に襲われる。
疲れきっている俺に、眠気に対抗するだけの体力はなく。
「すまん、ケモ丸。寝るわ……」
「ん? あぁ、お疲れさん」
ケモ丸のその言葉を聞いて、ツキミは深い眠りに落ちた。
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