終章 及びに蛇足

第46話 それぞれの旅路

 水平線の彼方に飛んでいくクリスタル・ドラゴンを見送るのはセオ、莉花、アーノルド、ロベルトの四人だ。

「ったく、ずりぃよな、ブレイブは。自分は龍だからって一緒に行きやがったぞ」

「ほほっ。まあそういうでない。なんやかんや言いながらブレイブにとって透弥は確かな仲間じゃったのじゃろう」

「よく言うぜ。コノヤロウ」

 ロベルトはそう言うと岩の上から下りてきた。さすがは勇者。かなり堅牢な肉体だ。

「まあ、なんだ。ここでお別れか?」

「……そうだな。実は少しだけ私が話したいことがある」

 莉花は思う。あとはあの人がしなかったことをするだけだ。それで、もう終わり。お別れだ。

「……お前たちは、これからどうする?」

 莉花の言葉にロベルトは頭の後ろで腕を組んだ。


「そうだな……取り敢えずオレは透弥の家に戻るわ。あの村、オレのせいで獣に襲われた訳だし。まあそのあとは勇者としての役目を果たすため西へ東へ購いの旅でも続けるとするか。なにせ腐っても勇者なもんでな! ガハハハハ!」

 豪快に笑いながら、彼は当分己が死ねないことを理解していた。透弥からの余計な贈り物。つまるところ、さっさと死ねると思うなよと言うことだろう。


「ワタシは……そうですね。透弥様の村を経由してから沼に帰ります。チーチのせいで激しい被害を受けましたから」

 アーノルドはそう言うと微かに微笑んだ。行きはかなり忙しなくでてきたが、帰りもまた少し慌ただしいものになりそうだ。


「わしは、先に龍神の里に主に向かうかの。元よりそれが旅の目的でな……皆とは先に別れることになるの」

「そういやジジイはなんで旅してたんだ?」

「龍に召し上げてくれるという約束を果たしにな。そもそもわしは鍛冶師を辞めてからは商人をしており、そのフレアを打ったのもわしでの。つまるところその功績を称えて龍にしてくれるという約束だったんじゃ」

「げ」

 そんな凄いジジイだったのかよ、とロベルトは顔をひきつらせる。だが彼も龍になるというのならば透弥の傍にいるということか。


「……私も、透弥の故郷に行く。その後は国で余生を過ごすつもりだ。まあ、長いだろうな。私は死後、やはり龍になるのだし」

 莉花も話をした。それぞれ顔を見合わせた。

 途中までは一緒ということだ。来た道を変えるというだけだ。

「と言うことは、あれか。ちと少しの間お別れって訳か」

「なんだロベルト。お前は仲間外れだぞ。アーノルドは龍になるように私が手を回すからな」

「どんな!? つーかアイツもそんな困らねえか!? 全員で押し掛けるとかどうかしてんぞ!」

「わあ、魚人初の龍になりますね」

「……確かにな! 魚から爬虫類に進化だな! くそったれが!」

 ロベルトは地団駄を踏んだ。確かにロベルトは龍に召し上げられる予定がない。自分こそが透弥の親友だと自負しているのに。

「……縁故採用されねぇかな」

「縁故採用は古い制度だぞ」

 どう考えても自分は何かによっていじめられてるとしか思えない。まあでもきっと最後の最後でツンデレよろしく透弥ならどうにかしてくれるだろう。


 彼らはそう言いながら歩き出した。白国村での復旧作業は楽しかった。魔法と言う概念が無いからこそとても感謝された。

 そしてそのあと、一人、また一人と別れていった。


 アーノルドは国に戻り名誉大臣として末長く王に仕えていたらしい。彼の知恵はとても役に立った。彼らはもう二度と誰かに利用されることもなく、やがて世界の向こう側へと結界を構築し姿を消した。


 セオはみごと龍に召し上げられたらしい。土龍だと話してくれた。そして、寿命を全うし、先に龍神の里へと向かった。


 ロベルトは二、三年の間は白国村に腰を落ち着けていたが、やがてあの村を出た。きっと今もどこかで誰かを助けているのだろう。


 ……購いだと彼は言ったが。

 それは決して購う必要の無いものだ。アーノルドがかつて震える透弥に勇気付けられたように、もしかしたら逃げたロベルトに透弥は何かを見出だしたのかもしれない。


 時折、風の便りで何故だか透弥の名を聞く。それはあの万年腕白小僧のせいだと踏んでいるが……はてさて、事実は如何様にか。


 何にせよ、彼は死んだ。人としては死んだ。龍となった体を連れて飛び立ち、後には骨だけが残った。それを土葬し、津の国の海がよく見えるところに置いてきたのだ。


「……よし、これでいいか」

 あの村においてくるつもりはなかったし、あの少女に怒られてしまった。透弥はまだ死んでないと。

「……これで早くも未亡人か……ったく。どうしてくれるつもりなのだろうな、アイツは」

 十八で未亡人とは笑えない。

 要するに腹癒せなのだ、これは。


 人を置いていきやがってろくでなし。

 お前の思うように、簡単に人々に忘れさせてなるものか。将来的にも人々がその名を口ずさむようにしてやる。

 そしてようやく、お前の偉大さを世界が知るんだぞ。そうなってから謝ったって遅いんだからな。


〝世界を救った英雄 透弥。

      ここに永遠に眠る〟


 そう刻まれた墓石を残し、莉花は立ち上がった。


 そして月日は流れ――…………。



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