第五章 彼は勇者ではなく
第29話 砂漠都市・ダグバータ
グリーン・パレスを通過し、海峡を渡る。海の上に通された橋を渡ればそこは、見たわす限りの砂漠だった。
「若様。ここから先にありますのが砂漠の国。赤の民の住まうダグバータでございます」
「助かるよ、ハゲ丸」
《おいおいオレサマにも感謝しやがれこのもやしっこが》
「透弥。この剣抜いても良いか?」
《ギャアアア!! 止めろッ! 止めろって!》
黒炎丸が喧しく話すようになったことで、より一層メンバーが混沌としてきた。特に莉花と黒炎丸が仲がよさそうで万々歳である。
一同は砂漠に訪れてからキャラバンのらくだに乗っていた。お金を渡すと困っていると分かってくれたのか日雇いで仕事をしつつダグバータまで案内してくれることになった。
今のところ、山賊を五組ほどのしている。少し楽しかったのは内緒だ。
そんなこんなのうちにダグバータに付いてしまった。少し寂しい気もするが、仕方なく商人と泣く泣く別れを済ませて一行は都市の中に入ったのだが。
「……すごいな」
「ああ。津の国とは違うが……」
とても、賑やかだ。
町には無数の出店が出揃っていて、赤い髪の人々が果物や金品宝石肉野菜食器……なんでも売っている。中には楽しそうに値切りをしている人々も見受けられた。
砂岩と、砂の街。
乾いた都市。
「ここでは、どうするんだ?」
「そうでございますね……簡単に言えば、身支度を整えます」
アーノルドの言葉に莉花と透弥は首を傾げた。
「何でだ?」
「簡単です。ワタシ達はこれから迷宮に潜るからです」
「……は?」
セオが指を指した遥か果て。砂でできたピラミッドのようなものがちょこんと見えた。なんとなく、嫌な予感がする。
「四つ目の宝【砂の絹織物】はあの陽炎の迷宮の奥底に封じられております」
「はああああ!!?」
***
陽炎の迷宮。
この世に残された唯一の神遺物。神が作った純然たる神遺物はこれのみとされている。他のものは何かとひとの手が入っているとも。
その力は絶大で、一つの異界だ。
内部は無数の陽炎と呼ばれる魔物、と呼ばざる終えないような未知の生命体が出てくる。そして勇者ロベルトは何を思ったのか五宝の一つである砂の絹織物をここに隠したのだ。
透弥は剣を握ったまま駆け抜ける。
「くそっ」
悪態をつきつつ、陽炎を切り裂いた。ブレイブが後ろで両手剣を振り回して凪ぎ払う。
「申し訳ありません」
「いや、いいんだけど、さすがにこの数は多かねぇか?」
迷宮に入ってすぐに、落とし穴に落ちた。
穴はそれぞれ繋がっていた先が違い、透弥が合流できたのはブレイブだけだった。ブレイブら陽炎の持つ武器を拳で破壊する。
「多い、ですね。四桁は下らないかと」
「……それはブレイブ流のジョークか」
「まさか」
「だよなぁ……」
改めて剣を握り直す。次の瞬間、地面を蹴った。空中で水晶を作り出すと地面に向けて打ち込む。数匹の陽炎は断末魔も上げずに霧散した。
更に剣に魔力を注ぐ。
これはセオと何度か練習した技だ。
「はぁあああ!!」
黒い炎が沸き立つ。切り裂いた陽炎は霧散した。凪ぎ払い、討ち滅ぼす。そうして広場一杯の陽炎がなくなる頃には二人も疲れきって背中を会わせていた。
「ぐえええ……もうこんなのは勘弁だ」
「同意ですね……ですが、あれはただの魔力の塊なのでここから先もいるかと思います」
「うは……聞きたくなかったなぁ」
二人は砂の上に倒れている。
「……なぁ、ブレイブ」
「はい」
「お前はどうして、俺に忠誠を誓ってくれるんだ?」
ブレイブは黙った。答えを探してるわけではなさそうだ。どちらかと言うと、答えたくないみたいだった。
「まあ無理に答えてほしい訳じゃないけどさ」
「貴方が、私を殺さなかったからです」
「え?」
ブレイブは薄青の髪を指で弄ぶ。その目はどこかを悲しそうに見つめていた。
「龍族の戦いにおいて、敗北とは死を意味します。何より自分より強い相手に喧嘩を売れば死は免れません。龍族は戦いが好きですから……死ぬまで戦います。ですが、貴方はそれをしなかった」
近衛兵である以上、喧嘩を売らざる終えない状況は多々ある。それが例え格上だったとしても。だけど、ブレイブだって、死にたくない。
「勿論、生き恥を晒すと言うのも知っています。けれどもあの場において、貴方は私にそれを許した。殺すことはしないと……それを私は人間が言う思いやりなのだと理解しました」
その時からです、とようやくこちらを見る。
「貴方は呪いに侵され、いずれ龍となるでしょう。ならば、忘れないでください。貴方は龍としては龍王を越えます。そうしたら……貴方が、次の王となるでしょう」
勿論もしもの話です、と前置きをして彼は話す。
「もし、貴方が龍の冠をその額に戴き王になりましたら……どうか、私を傍においてください。貴方の騎士として、その最後まで忠実にお仕えいたします」
「……もしも、俺が人に戻ったら?」
「その時は、貴方様の龍として仕えましょう。龍は一生に一人、主を持ちます。他のものにとっては偉大なる龍王ドラゴニアス様ですが、私にとっては生涯ただ一人、貴方様でございます」
真摯に目が透弥を見ていた。思わず反らしたくなる程、まっすぐな目。
「……ありがとうな」
「ええ。私こそ、このような身の上で我が儘を申しましたことを申し訳なく思います」
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