4ページ

さて、綸那は色が白い。これは遺伝的な問題もあるがそれだけではない。

綸那の周りにいる神原は陸上部、吉岡は野球部、颯太はサッカー部、ちなみに杏樹はサッカー部のマネージャーと屋外競技の部活に所属している。

しかし、綸那は一人だけ屋内競技、バドミントン部に所属しているのだ。

そのため、日光に当たる場面が少ない。だから、元々色が白いのだが、余計に色白が目立つようになってしまったのである。

そして、度々杏樹にも「緒方、色が白い!」とか、バド部の面々からも「緒方の隣には立ちたくない、色が白すぎて」と言われるようになってしまった。






   *   *   *


「相変わらず白いよね、かなちゃん。夏も終わるのに」


そう言って、シューズを履いていた綸那の隣に来たのはダブルスでペアを組んでいる落合オチアイ 詩織シオリ


ちなみに彼女の中ではきちんとかんなちゃんと言っているつもりらしい。傍から聞くとかなちゃんに聞こえるが。


「んー、遺伝だよ?しかも日焼けすると赤くなっちゃうし」


「でも焼けないんでしょ、いいなあ~」


「しーちゃんも白いと思うけど」


「かなちゃんほど白くはないもん~」


ずるい~と言いながら詩織もシューズを履く。綸那は先に履き終えていたのでそのままネットの準備をしようと立ち上がった。


「あ、三好先輩。お疲れ様で――」


「緒方、ちょっと!」


「えっ」


たまたま入ってきた部長の三好ミヨシ 琴葉コトハに何故か連行される綸那。


「……いってらっしゃ~い」


と言った詩織だけが残された。







綸那は体育館の二階に通じる階段の近くで三好に壁ドンされそうな勢い詰め寄られていた。


「緒方」


「はい…」


何か悪いことでもしたのだろうか、いや、そんなことはないはずなんだけど。


「神原 結槻が別れたというのは本当か」


「あっ……」


あ、それなんですね。そっちですか、そっちなんですね。


「本当ですよ」


ホッとした、何も悪いことをしていなかったみたいで。怒られるんじゃないかと思った、あの気迫。


「そうか。いや、花音がさ…」


あー、そういうことか。


最近別れた人、確か先輩だっけ。しかも三好先輩と同じクラスの。

たしか、ダンス部の松本マツモト 花音カノン先輩。松本先輩もたしか男性から人気のある先輩だし、そりゃ別れたら一気に広まるか。


「あー、はい…」


「神原最低ってずっと言ってるんだが、その何か知らないか?」


「いえー、何も……」


むしろこっちが気になるよ、あの先輩に最低って言われるってなにしたんだよ神原。


「だよなぁ…。花音曰く、祭りの日に別れたらしくて。」


「あ、先週の」


先週の土曜にあった花火大会。あの日なんだ、意外。


「そうそう。まあでも、知らないよなぁ。私達部活だったし」


「そうですね。神原が別れた日も初めて知りましたし。」


「すまないな、同じクラスの人間なら知ってるかもと思ってさ。」


「いえいえ。お役に立てず申し訳ないです、先輩」



そうして綸那は三好の尋問から解放された。





戻ってネットの準備を始めると、心配そうな顔の詩織が駆け寄ってきた。


「かなちゃん、大丈夫だった…?」


「うん、大したことじゃなかった。私も安心」


「よかった、凄い気迫だったから」


「うん~」


あははと笑うことしかできない。三好先輩の性格だ、友達を大事に思っているんだろう。だから、松本先輩に神原が何をしてしまったのか知りたいのだろう。場合によっては、神原は一発制裁を食らう可能性があるだろう。


確かに、私も杏樹がたぶらかされたら怒るかもしれないなと思いながら、三好先輩も大変だなとこっそり同情した。






   *   *   *   


閉め切った体育館の中で、シャトルが打たれるパーンという乾いた音、シューズが床に擦れるキュッキュッという音がする。



ダブルスは二人の息が合わないとできない。ローテーショがあるからだ。ローテーションにだってタイミングがある。

だから、綸那は感覚を研ぎ澄ます。点を決めるために、勝つために。音の中から見極める。呼吸を見て、相手を見て、ここぞという時を見極める。

そして、エースショットを決めるために跳んだ時、綸那はいつも思う。

もっと跳べる、ここで決める。絶対に。






「っは!」


「ありがと、かなちゃん。今のナイス」


「うーん、先輩に比べたらまだまだかなぁ」


入部して4ヶ月。先輩ペアにはまだまだ追いつけないけど、ペアとしてはだいぶ良くなってきたんじゃないかなって思う。だけど先輩ペアを見て痛感するのはやっぱりペアというもの、年月が大事だということだ。



綸那も詩織も中学からバドミントンをやっている。二人とも中学から試合には出たこともあるし、綸那も詩織も160cmくらいとポテンシャルは悪くはない。しかし、2人とも強豪校でやっていたわけではない。今だって、この学校のバドミントン部は強豪というわけではない。

だけど、そこそこバトミントンに打ち込めてはいると思うし、なにより楽しい。一回戦で負けようが、バトミントンができていることがなにより綸那は嬉しかった。




綸那は先輩ペアとの練習試合を終え、体育館の外で休憩していた。横には詩織が座っている。


「試合まであと1ヶ月だよ、かなちゃん」


「うーん、初試合だねぇ」


「1回戦、勝てるといいけど」


1回戦、勝てたら御の字な気もするけどと思いながら、相槌を打つ。


「んー、どうかなぁ。ま、でもとにかく頑張ろ」


そうだ、頑張るしかない。とにかく頑張らないことには始まらない。


「う、ん?」


詩織の怪訝そうな声。


「どしたの?」


詩織の目線の先には、同じく休憩していた神原がいる。ていうか、こっちに歩いてきている。


「げっ…神原……」


「かなちゃん、神原に失礼だよ」


失礼と言われても、さっきの三好先輩のこととか考えるとげって言いたくなるんです。


「マジそれな」


綸那の心中も知らず、詩織の発言に対して神原は同意する。


「で、お前はなんて顔してるんだよ」


神原の発言の原因は綸那がとても不愉快という顔をしていたからである。横に座っていた詩織からは見えなかったが。


「別に」


誰のせいで三好先輩に尋問されたと思ってるんだよ、とは言えない。しかも詩織がいる前では余計に。これでも詩織は神原に悪い印象は持ってはいないからである。


「てか、相変わらずお前白いのな」


「そうだよね、羨ましい~」


という神原と詩織の発言に


「遺伝!」


と何も言えない綸那は答えることしかできなかった。



「あ、私お茶買ってくる」


急に詩織が言う。気を利かせたのかはわからないが彼女は体育館の中に引っ込んでいった。


「いってらっしゃい~」


詩織を見送ると神原と向かい合う。


「で、なに」


「いや、そこにいたから」


「あっそ」


なんだ、そんな理由かよ。別に私じゃなくてもいいじゃん。


「体育館暑い?」


「うん、蒸される…」


「大変だな」


「そっちも、まだまだ外暑いじゃん」


「まあな。でも走るの好きだし」


「ふーん。いいなあ、体力合って」


こんな会話しかできない。今は幼馴染の緒方と神原じゃない。クラスメートの緒方と神原だ。誰が聞いているかもわからない。踏み込む気もない、だから聞けない。

先輩となんで別れたのって。



束の間の沈黙、それを破ったのは神原だ。


「一緒に走る?」


「えっ?いいの?!」


予想外のお誘いだ。そういえば、神原って毎朝走ってたんだっけ。私も受験までは神原と一緒に走ってたけど、受験を境に走らなくなったし。てか、神原ってまだランニング続けてたんだ。そうだよね、神原ってあー見えて意外と真面目だし。


今年の体育祭の部活対抗リレーで陸上部に負けたし、丁度いいかもしれない。


「いいけど、お前がいいなら」


「走る!」


「おっけ~」


へへっと神原が笑う。神原が笑ってるなら、それでいいかな。



神原は神原だし、誰に最低って言われても。私の知ってる神原が神原だ。



「あ、時間。じゃ、またな~」


陸上部の顧問の斎藤先生が呼びかけている。


「おう、また。部活頑張って」


「そっちもな~」


手を振って、神原は走っていった。



丁度その時、体育館の中から顧問の林先生が集合をかけた。

明日からのランニングを楽しみに、部活頑張ろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る