雨を噛む
鳥唐 揚介
第1話
都会の夜の公園は、思っているより暗くない。誰もいない公園のブランコに座り、空を見上げてみる。都会の夜空じゃ星は見えない。ギラギラと光る人々の生み出した光が、星の光をかき消してしまう。せっかくの快晴だというのに、見えるのは欠けた月だけ。見えなくて良かったとも、少し思ったけど。
どうして言ってしまったのだろう、どうして我慢出来なかったのだろう。分かっていたくせに。言わなければ、このまま親友で居られたことくらい。何を勘違いしたんだろう、あんなに一緒にいて自分がその対象に見られていないことくらい分かりきっていたのに。ああ、考えるだけで吐きそうになる。
「ごめん、そういう対象として見れないよ」
うん、分かってた。君が恋をしていること、その対象が私では無いこと、そしてその対象に私は絶対になり得ないということ。それでも私は、きっとどこかで期待していたんだと思う。親友として過ごした日々が、私の心を狂わせたんだ。あの時、すぐに冗談だと言えていれば、まだ親友で入れたんだろうか。あの時の、君の言葉が耳を離れない。ああすれば、こうしていればと考える私を、君の言葉が殺していく。
あんなにもスッパリと断られたというのに、私の心はまだ君を求めている。でも、これ以上君に関わったりはしないだろう。できない。私は自分からだけでなく、君からも親友を1人奪ったんだ。取り返しは付かない。ゆっくりと家に向かって進めていた足取りが、君との思い出がひとつ浮かぶ度に重くなっていく。
いつだって、私は君と一緒だった。年越しの瞬間は地球に居たくないね。なんて君は子供みたいなことを言って、手を繋いで0時にジャンプしたんだよね。君は何気なくそうしたんだろうけど、あの特別な時間に君と手を繋いで、私はずっと胸が高鳴っていた。
星が好きだった君は、流れ星を見る為に私を夜の山に呼び出して、2人仲良く風邪を引いたりもした。君は空に見とれて気付いてなかったと思うけど、私はずっと星を見て目を輝かせている君を見ていたんだ。
最愛の君が、他の誰かに抱かれると考えただけで心がぐちゃぐちゃになるが、君が幸せなら、それでいい。そう思えたら、どんなによかっただろう。本当に愛しているから、愛しているのに、君の幸せを願えない。どうか私を許さないでいて欲しい。伝えたことで、君に傷跡を残してしまったかな。でもそれで君が私の事をずっと覚えていてくれるなら、それもいいかもしれない。そう思ったけど、君の恋が成就したら、私の付けた傷も消されてしまうだろう。
「……帰ろう」
私は死ぬ勇気なんて持ってない。だから私は明日からも生きていく。今は帰ろう。そして、部屋の君の写っている写真は全て、見えない所にしまっておこう。君に貰った物も、一緒に。少しずつ君のいない生活も慣れてくるのだろう。でも、忘れることは出来ない。ああ、星が見えなくてよかった。きっと空を見る度に君を思ってしまうから。
今はただ、快晴の夜空の下、頬を伝う雨を噛み締める
雨を噛む 鳥唐 揚介 @Karaage0
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