第14話 決闘
「ようわたげ。今日は良い試合をしような」
安藤会長は私がグランドボウルに入るなり私を出迎えてくれた。彼女はニーハイにメイド服と、ずいぶんと派手な格好だった。
「とてもお似合いですね、そのメイド服」
私は彼女に震えながら言うと、
「わたげんも戦闘服やな」
と返答が返ってきた。実は、私も決闘のために動きやすいジャージを着て望もうという作戦に出ていたのだ。
「決闘の内容は……ボウリングですか?」
「当然やで」
今回は決闘のため、普段のサークルとは違い、経費を抑えるためにも2ゲームのアベレージで勝負を決める。父親と投げていたときは2ゲームか多くても3ゲームしか投げていなかったので、私にとっては好条件である。
「今回は美々香と星さんに見届け人として来てもらったから」
ぱっと後ろを振り返ると、カメラを回して楽しんでいる山口副会長と若干引いている星さんが立っていた。
「負けたら脱退、脱退♪」
そう言って山口副会長は現場をパリスタグラムに上げていた。優しそうな見た目とは裏腹に意外と腹黒い彼女をみて、私は心のシャッターが閉じてしまった。
対して星先輩は不安そうな表情。
「星先輩、仕事は大丈夫なんですか?」
私が彼を気にかけると、
「無茶を言って仕事を休んできた」
といい、彼は笑顔を作った。何もそこまでしなくても……と私は思った。とりあえず、安藤会長と私はボウリング用のMY靴を履き、決闘の準備をした。
先行は私。1フレーム目の1投目に9本倒し、良い滑り出しで始まった。すると、安藤会長が外れろー、外れろーと私に呪いをかけ始めたのだ!
「これは会長としてやっていい行為じゃないだろ」
と星先輩がツッコむ声が聞こえた。そのサポートが、私にとってはありがたかったのだが……
「おーっと、星さんがわたげんを擁護している!えこひいき、恐るべし!」
と山口副会長は大きな声で実況を始めたので、安藤会長の機嫌を損ねてしまった。
私はスプリットはなかったが、安藤はスプリットが多く、1ゲーム目は私が118点で、会長は92点だった。
2ゲーム目に入る前に、私はお手洗いに行き、ヨントリーの烏龍茶を飲み干した。
現場に戻ると、私の画面上の名前がオタサーの姫となっていた。そして、安藤会長はそのままとなっている。
「なんですかこれ」
私がそう言うと、星先輩が語ってくれた。
「山口副会長の仕業だ。俺は止めようとしたんだぞ?」
そう言って、星先輩は大きくため息をついた。
2ゲーム目も、順調にスペアを出す私。安藤会長は不調気味といったところだった。
「よし、じゃあルールを儲けようか」
そう山口副会長はいった。
「どんなルールですか?」
私が聞くと、
「負けたら即退会というルールやで?今会長をやっていてもそれは関係なしな」
そう言って、山口副会長は鼻で笑った。
「お前、親友のウチのことも裏切る気か…」
と安藤会長はため息をついた。
「もう、星さんあげるからさ、こんな決闘やめへん?」
言い出しっぺなのに泣き言を言っている安藤会長。
「じゃあ、退会の件は、どうなるんですか?」
そう私が問うと、
「星先輩に決めてもらうわ」
と山口副会長は言い、その件を聞いた。
すると、とんでもない答えが返ってきた。
「俺は、わたげちゃんに会長になってもらいたい。後輩に優しくできないのは、会長失格だと思う」
「退会するわ」
安藤会長は、速やかにLINEのボウリング同好会グループから抜け、山口副会長もそれに続いた。
「えっちょ待って」
「それがわたげちゃんの望みだろ?」
そう星先輩がニヤリと笑う。
「……」
辺りに沈黙が続く。
「会長、大変だけど頑張ってな?ま、ウチには劣るだろうけど」
と安藤会長は私を睨んだ。
「星さんとお幸せにねー!」
山口副会長は安藤会長を介抱しながら、陽気な声で私たちに手を振り、去っていった。
これで、良かったのだろうか。
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