第12話 比較と嫉妬

「それって、同級生と同じ高校に行きたくなかったから選んだのか?」

星先輩が聞く。

「そういうことですよ」

私がそう言うと、彼は

「この話と今現在は何が関係あるのか?」

と問う。

「自分の中の容量の大きさの違いです。特にこれは、会長、副会長と私の完全なる違いです。私は中学3年頃、スクールカウンセラーから『全日制の高校では絶対につまづく』と忠告を受けました。結果今こうして大学に通っているわけですけど」

「けど?」

「その忠告は間違ってなかったって思うんですよね」

「お願いだからこれ以上自分を卑下するのはやめてくれ!」

星先輩はそう言って、真剣な眼差しで訴えていた。

「……え?」

「わたげちゃんが通信とか劣等生だとかどうでもいい。君が今大学で頑張っている。それだけで十分じゃないか」

「……」

「何が言いたいんだ?」

私の心を見透かしたように星先輩は私に問いかける。

「会長と副会長が、羨ましいです」

私がこう呟くと、

「よく言えました」

そう言って、彼はニヤリと笑った。







「まさか、それを言わせるためだけに呼んだんですか!?」

「そうだよ」

「そうだよって…」

私は星先輩を見ながら、ガクンとうなだれた。いや、こんな私の闇のような心を見透かされていたなんて、正直恥ずかしいったらありゃしない。

「もっと吐いていいぞ」

「まだ言わせる気ですか!?」

「溜まってるんだろ?」

「……会長と副会長が講義を楽勝って言ってこなして、それに見合うだけの成績を取って、しかも課外活動までして、学祭の実行委員までやって、一人暮らしで。勝ち組じゃないですか?」

「……」

星先輩は、少し沈黙して、その後ポツポツと話を始めた。

「どんなに活動してても、成功できるとは限らないよ」

「え?」

「俺は会長と副会長みたいにいっぱい課外活動とか一人暮らししてたけど、行き着く先はブラックだったよ。」

「そうだったんですか」

「だから俺は転職活動しているんだ」

そう、星先輩は話してくれた。







「正直、鏡屋先生があんなんだから、やってられないだろ?」

「そうですね。会長と副会長には避けられていますし、それなのに仲良くしろと強要してくる鏡屋先生はタチが悪いですね」

ボウリング同好会に入って、鏡屋先生の嫌な一面を知ってしまってガッカリしている気持ちもないわけではない。

「少しは吐けてスッキリした?」

「……まぁ、そうですね」

「なにかあったらまた話聞いてやるよ」

そう言って、2時間話したのち、私たちは解散した。話したあとはどこかすがすがしさがあり、私の中の焦りが消えていた。

また、自分のペースで頑張ろう。そう私は思いながら、電車の中で自己啓発本を読んでいた。

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