第10話 帰り道
田中くん、建山くん。わたげさんを送ってあげてと鏡屋先生がお願いする。すると2人はすぐさま
「いいっすよー」
と返した。とりあえずクラブやラブホに連れていかれないことを祈るばかりである。私たち3人は3階のボウリング場をエスカレーターで下り、ポイントワンを後に…
しなかった。2階のゲームセンターに立ち寄ったのである。
「ゲームセンター行こうぜー!!」
そう田中くんがいうなり、UFOキャッチャーで遊ぶ男2人。何してるんや寄り道して。とくそ真面目一家で育った私は思ってしまうのである。取れるはずもないのになんでこんなことにお金を浪費するんだろうと考えている私が老成してるのだろうか…。
「なーんかわたげちゃんつまんなそうだねー」
田中くんが私の表情を見るなり言う。
「ゲームセンター嫌なの?」
建山くんがそう聞く。
「いや、嫌いなわけじゃないんだけどね?慣れていないって言うだけで」
言い訳をしても行きたくないオーラが出まくっていることに気が付かない私に、田中くんは諦めて
「まぁ今日はやめるか」
と言って、駐車場に行き、建山くんの車に乗った。建山くんの車は4人乗りのコンパクトな軽自動車で、車体は丸いフォルムのオフホワイトである。個人的には自動車免許を取ったらこんな車に乗りたいなぁと1人で考えてた誰にも言えない小心者の私です。
お見苦しくてごめんなさい。
「バイトはしてるの?」
そう田中くんが聞く。
「バイトはオーキャンしかやってないよ」
と私が言う。私の通う大学はオープンキャンパススタッフを行うと給料が出る。そんな仕組みで6月辺りから雇ってもらっていたのだ。
「逆にオーキャンやるの!?」
と驚かれたのだった。地元で働かないのかと田中くんに聞かれた私は、地元で働きたくないと言い切った。そう私が言うと、田中くんは「あるあるだねー」と笑った。
「俺と建山は、通信出身なんよ。だから俺たちも地元が嫌な気持ちは分かるわけ。わたげちゃん、通信出身っしょ?」
田中くんがドヤ顔で話す。だが通信出身であることは、鏡屋先生以外に言っていないはずだ。
「確かに私は通信出身だけど、誰から聞いたの?」
と私が問い正す。
「安藤会長」
田中くんが笑顔で言った。
「……は?」
つまり、鏡屋先生は安藤会長にバラしたということになる。
「口の軽い教員と会長なんだなぁ、本当に。鏡屋にしても安藤にしても」
普段は冷静沈着な私も、今回ばかりは抑えきれず毒を吐いた。
「わたげちゃん口悪いよ。あと先生にも会長にも悪意はないからやめてあげて」
と建山くんに言われるぐらいにキツい話し方だった。
「せっかくだから会長と副会長のバイトの職業を教えてあげるよ」
と田中くんが提案してくれた。聞きたいと私は身をより出す。どうやら、安藤会長はコンビニメインで働き、土日は結婚式場のバイトをしているそうだ。山口副会長もコンビニで働いているそうである。
「そうなんだ…」
私は安藤会長と山口副会長の活動量の多さに、放心状態になっていた。そして私は、中学時代の思い出を頭に浮かべていた。
「ほら、着いたよ、T市駅」
建山くんはT市駅のロータリーに車を停めてくれながら、そう言った。
「ありがとう、2人とも」
そう言って、私は手を振りながら、見送った。
投げ放題から1ヶ月後。私は鏡屋先生の研究室を訪れた。
「わたげさん、いらっしゃい。どうしたの?」
「投げ放題のスコア表をください」
と私が言うと、鏡屋先生は
「ごめんね、ポイントワンは不親切だからスコア表は言わなければ出してくれないんだよ」
と教えてくれた。スコア表をくれないボウリング場があるのかと驚いたが、本当にそうみたいである。
「じゃあ、ボウリングで高得点をとる上でのアドバイスをください」
と私は言った。すると、鏡屋先生はこう言った。
「まずはヘッドピンに当てよう。ヘッドピンに当てなければストライクにはならないからね。1ゲーム中ヘッドピン外すのを2回までに抑えるとかね」
と自分が目指しやすい目標を立ててくれる。鏡屋先生のそういうところが、私は好きなのだ。
「アドバイスありがとうございます。では、失礼します」
私がドアに手をかけると、鏡屋先生がスコア表なくてごめんねーと謝っていた。いいんですよ、と言い、私は研究室を後にしたのだった。
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