第9話 投げ放題2
ズルいよ、鏡屋先生。私には我慢させて1人単独でボウリング始めるなんて!
私はそう思いながら時計をチラチラと見ていた。早く誰かと一緒に投げたいな。
そう思った時だった。
「遅れてすみません先生」
そう言ってやってきたのは、私をボウリング同好会のLINEに招待してくれた向野先輩だった。
「ちょうど良かった。わたげさんが退屈しているから一緒に投げてあげて」
と鏡屋先生は私と一緒に投げるように彼に求めた。退屈しているという言葉は余計だが、ゲームを始められるのはありがたい。
よーし、やるぞ!とやる気満々だった。
のは束の間、8ゲーム投げた後は腕が悲鳴を上げていた。そんな疲れている私に、向野先輩は
「ほら、お茶飲みなよ」
とドリンクバーからヨントリーの烏龍茶をついで私に手渡してくれた。たくさん投げればコツが分かって上手になるって鏡屋先生言ってたのに余計スコア悪くなるんじゃねーかと私は心の中で毒を吐いていた。
「わたげちゃんこんなに上手かったの?」
向野先輩は私を見て驚いた。
「ペーペーですよ、私なんて」
そう言うと、謙遜しなくていいよと向野先輩は笑った。私上手いでしょなんて言った日にゃ父親から雷を落とされるのが分かっているから自慢しないのである。
てか、肩が今にもぶっ壊れそうなんだが。
「スコア上がらんなぁ…」
1ゲーム100から115の間を行ったり来たりしている私は、スランプに陥っていた。
「親指の向きでカーブする玉か真っ直ぐ投げられる玉か分かれるんだよ」
と向野先輩が豆知識を教えてくれた。なるほど、こういうものがあったのか。面白いなと私は感じた。向野先輩は自己ベストを更新したみたいである。私は向野先輩の豆知識を定着させるために真っ直ぐ投げようと何度も10ポンドで投げるが、どうしてもカーブになってしまう。
「玉が重いんじゃないのか?」
無理すんなよと星先輩が隣のレーンから声をかけてくれた。
そういうことをするのは会長の役目だと思うのに…。
会長たちも出揃うが、反省の色が見られなかった。私の怒りはヒートアップし、
「せめて会長なんだから連絡ちょうだいよ…」
と私は目を潤ませて向野先輩に愚痴った。
「まぁ同好会だからね、仕方ないね」
向野先輩は苦笑いしながら私に言った。
「遅刻するのは構わないから、会長から連絡が欲しかったんですよ」
連絡すらくれないなんて私、嫌われてるのかなぁ、会長に…そう泣きながら、私はランチパックをほおばる。
「わたげちゃん、黒柳くんから連絡来てるよ」
と星先輩から教えてもらったので、LINEを見ることにした。
~本当に申し訳ない~
黒柳先輩は大急ぎでポイントワンに向かっているみたいだ。そして私はその件を鏡屋先生に伝えに行く。すると、彼からはこう返された。
「黒柳くんはg市から来てるんでしょ?1時間でこっちにこれないから引き返すように伝えて」
と。
「完全に人が来ないなら、俺が出す昼食代1人無駄になったんじゃないか」
星先輩は社会人なのでみんなにご飯を奢る役割になっている。しかし、1人来ないとお金は無駄になってしまうのだ。
「それはつらいですね」
私は社会人だからといってATM代わりにはしたくない主義なので、先輩の気持ちに自然と共鳴した。
そうこうしている間に、15ゲーム投げ終わり、私の腕は限界までたどり着いた。その後は鏡屋先生に帰らせて欲しいと頼む。
「えー、1人で帰れないよね、わたげさん。どうする?」
「どうしましょう」
「そうだー!田中くんたちに送ってもらえばいいよ!」
と鏡屋先生はいい案を閃いたかのように言った。あの時の記憶が頭をよぎる。クラブに行こうよというあの言葉…。
嫌な予感しかしない。どうしよう。
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