第1話 略歴

話はボウリングからかなり逸れるが。





私が覚えている、男女間の苦い思い出。小学校1年生の頃、下校中小さなお米屋の前で、私は幼なじみに口づけた。その話は今も周りが覚えているほど周りの人にとって強烈きょうれつだったのだろう。ことあるごとに嘲笑ちょうしょうのネタにされていたのだから。

小学生の私は、肉食系女子だった。やりたいことがあるなら行動すればよい。そう思ってきたが、年を重ねるごとに相手の立場を考え、行動を制御するようになっていった。

あくまでの個人の見解だが、男女間では、恋愛観が全くと言っていいほど違ってくる。男というのは、恋愛というものに無頓着むとんちゃくであり、好意があってもなかなか表に出さないものだ。逆に女性側はなんとかして振り向いてもらおうと、あの手この手を使って関わろうとしていく。そりゃあ分かり合えないわけで。



そんな嘲笑ちょうしょうのネタにされていた私が中学校に入って恋愛をする… なんてことは不可能であった。自分に自信がなかったからである。元々活発ではなかったが、男の子が話しかけてくれるときがあれば、普通に対応していた。男に対してときめきを感じない体質なので、男の子と仲良くなることは苦にならなかった。しかし、そうなると黙っていないのが同性である。「好きな子を取らないで」と言いがかりをつけるのだ。私の家系は元々、男女交際に関して鈍感なほうで、もしかしたら知らない間に好意はもたれていたのかもしれない。だが、恋愛に対して興味がない私にとっては、不要なものであった。これを私は「泥沼の9年間」と呼んでいる。



高校は、地元の人が通わなそうな通信制女子校に入学した。そこでは、様々な価値観や生き方をしている女性たちと出会ったんだ。

中学の間不登校だった女の子、自分の軸がハッキリしている女の子、そして小中の時のように恋愛に積極的でアタックしていく女の子…。もちろん、自分の好きなものに熱中する女の子や全日制高校を退学してアルバイトに励む子もたくさんいた。



そんな高校生活の間で、特に仲良くなった女の子2人がいたんだ。女子校のプラスアルファのプラン、「進学講座補習塾」で出会ったことがきっかけである。

「わたげちゃん、中学って通ってた?」

そうやって私に聞くのは岡本夏希おかもとなつき、通称お夏である。

「通ってたよー」

「じゃあ、編入生?」

「ううん。中学卒業してそのまま通信」

「そうなの?変わってるねー」

お夏は声をあげて笑った。

「じゃあ、お夏は?」

「中学は通えてたけれど、高校は部活で浮いちゃって退学したんだ」

えへへ、とお夏は悲しそうにほほえんだ。そっか、と私も返す。

「2人とも何話してんの」

そう私たちに話しかけたのは久嶋梓ひさじまあずさ、通称あず嬢である。

「中学に通ってたかどうかって話」

とお夏。

「N市に住んでいた中学時代は通ってたけど、T市に引っ越してからは本当に通えなかったなぁ」

あず嬢は大爆笑しながら話してくれた。



この2人とは、高校を卒業してもたまに連絡を取り合うほど仲が良い。この話にもちょくちょく登場することになる。

皆様々な事情を抱えて入学してくる高校が通信制というもので。小中の閉鎖された場と比べて、人間関係は格段と良いものだった。男性がいないので恋愛やウワサになることもなかったし。高校を卒業するまで、私たちはファッションやメイクの話をしながら平和に過ごしていた。



そう、高校を卒業するまでは。

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