18話 リベンジ
『レベルアップ! Lv.3 → Lv.5に変化しました!
Lv.5 HP 15/42(+7) MP 8/11(+3)
攻撃力11(+1) 防御力9(+2) 魔法攻撃力3(+1) 魔法防御力5(+2) 速度8(+1)
Crown Point を18入手しました。』
夕暮れ時。
太陽が傾き、空を赤く染める中で、俺とフィアは遺跡の前で火を囲んでいた。
夕飯である。
獲ってきたイノシシと山菜、フルーツを串焼きにして火で炙る。
今回はウサギ肉を使わなかった。ウサギの肉は数日間の熟成を行うのが一般的である。
ちゃんと寝かせれば、よりおいしいウサギ肉が食べられるだろう。
焚火の火で今日獲ったものを焼いている間に、昨日作った縄文式の燻製窯をフル稼働させる。余ったヘビ肉と今日新たに手に入ったイノシシ肉も燻製にする。
そして、イノシシ肉とか山菜が焼けるまでの間に、俺はステータス画面を弄って自分のレベルを上げていた。
「レーイチローのシェアリーの窓見てもいい?」
「あぁ、いくらでも」
「えっと……え? レベルが3から5……?」
フィアが身を寄せ、俺のステータス画面をじっと眺める。
そして小さく目を見開いていた。
今回は一気にレベルを2上げた。
ベースポイントが貯まっていたのだ。やはりアリジゴクを倒した際のポイントが大きかった。
「……レーイチロー、昨日は確かにLv.1だったんだよね?」
「あぁ」
「すごい……。二日でレベルが4も上がるなんて。レベルが高い相手ばっかりに挑んでたからかな? 貰えるベースポイントが多かったのかも……」
フィアが驚きながらぶつぶつと呟いている。
俺は肉をひっくり返して焦がさないようにしていた。
「凄いことなのか?」
「……低レベル帯では、レベルアップに必要なベースポイントの量は少ない。だから、有り得ない話ではないけど……でもやっぱり普通じゃない」
「そうか」
まぁ、確かに端から見ると無茶をしているのだろう。
Lv.3の状態でLv.10のモンスターには普通挑まない。そうするしかない状況だったから何とかしたが、俺だって好き好んで格上と戦っているわけじゃないのである。
「…………」
思い返せば、得られるベースポイントにばらつきがあるように感じる。
たくさん手に入れられたのは、ヘビの戦いとアリジゴクの戦いだ。
逆に、敵のレベルがあまり変わらないのに、罠に掛かったウサギから得られたベースポイントは大分低かった。
どこに違いがあるのか。
それは恐らく『経験の差』かもしれない。
テレビゲームだったら敵を倒せば経験値が貰えるが、このポイントはまさしく文字通り『経験値』なのかもしれない。
ヘビとアリジゴクを倒す時はまさに命懸けだった。何か間違えれば、死んでいたのはこちらだった。
しかしウサギは運よく罠に掛かり、苦も無く倒すことができていた。
戦いの経験を積んだという意味で、ヘビの時にたくさんベースポイントが貰えたのも不思議ではなかった。
「ねぇ、Lv.5だったらクラウンポイントも十分に貯まってるんじゃない? クラスを取得しておいたら?」
「そうか、クラスっていうのもあったな」
フィアに声を掛けられて、考え事を中断する。
昨日のヘビ肉をかじりながら、ステータス画面を操作する。
『クラス;――
現在の保有クラウンポイント;38
習得可能クラス;
《剣士》;必要クラウンポイント・30
《闘士》;必要クラウンポイント・60
《狩人》;必要クラウンポイント・50
【特別項目】
《宝剣》;必要クラウンポイント・120』
なんか【特別項目】っていうのが足されている。
宝剣のレベルアップ項目だ。これを上げていくことこそが、宝剣祭の勝利に繋がる重要なファクターなのだろう。
……いや、この戦いには参加しないけどさ。
それに結構必要ポイント数が多い。手が出ない。
「なんか取れそうなクラスあった?」
「《剣士》が30ポイントで取得可能だな」
「クラウンポイントは実質有限で、消費するとやり直しが効かないポイントだから、自分の資質とか職業とか、成長の方向性が決まるまで貯めておくって人も多いけど……」
「いや、今の俺らに必要なのは即戦力だ。ここで使う」
少しでも自分の戦闘力を上げておきたい。
ちょっと《狩人》が欲しい気もしたが、俺は《剣士》を習得した。
『クラス《剣士》を獲得しました。
ステータスボーナス;
HP 15/45(+3) MP 8/11
攻撃力13(+2) 防御力11(+2) 魔法攻撃力3 魔法防御力5 速度10(+2)
Skill《ストロングスラッシュ》を獲得しました。
Ability《能力上昇・剣》を獲得しました。』
「ふむ……」
クラスを取得すると、ステータスが上がってスキルを獲得した。
Skill《ストロングスラッシュ》。
状況と名前からして、どう考えても剣を使うスキルだろう。強力な一撃、って感じのスキルかな?
後で試し撃ちをしてみよう。
それと、Ability《能力上昇・剣》。
アビリティだから、能力、ってことかな?
スキルのようにその時その時に発動するものではなく、常時効果を及ぼす能力、と考えるのがいいかもしれない。
つまり簡潔に言うと、俺は剣を扱う能力が上がったということだ。
「上手くいったみたいだね」
「あぁ。スキルを手に入れたのが大きいと思う。戦略の幅が広がりそうだ。俺はこれまで《深呼吸》しか持ってなかったからな」
「む……」
別に他意は無かったが、少しフィアがむくれてしまった。
そうだった。
《深呼吸》はフィアの剣の能力の《ホワイト・コネクト》によって手に入れたものだった。
初めて宝剣の能力で獲得したものが、なんか微妙なスキルだったのだ。
「そうだった! 私はリベンジをしたいんだった! さぁ、レーイチロー! 魔物の肉を食べるのです! そして有能なスキルを入手して、私の剣の凄さを思い知るが良いっ!」
「あー、はいはい……」
フィアがばっと立ち上がり、大きな声を出す。
彼女の剣の能力は《ホワイト・コネクト》。
彼女曰く、色々と条件が揃うと、相手の能力やスキルを自分のものに出来るという。
その条件の一つが、倒したモンスターを食べるというものだった。
「さぁ、早く早く!」
「はいはい、慌てない慌てない……」
良い感じに焼けてきたイノシシ肉を取り、頬張る。
ジビエ肉の特徴は高タンパク低カロリーである。
野生の中で育っているため、余計な脂肪が少ないのである。栄養価も高く、効率的にタンパク質を摂取したいアスリートが好んで食べたりもする。
ただ、つまり肉が筋肉質のため、固かったりもする。
噛み応えがあると言えば、良い言い方であるが。
それと、やはり肉の臭みが取り切れていない。
正しく処理したジビエ肉は臭みも十分に取れるのだが、今ここには道具も無ければ、保存場所も無い。
まぁ、これはこれで自然の中のお肉の特徴と言ったら特徴なのかもしれないが。
あー、でもやっぱり調理の環境を整えたい。
「うん、新鮮でおいしいね」
そんなイノシシ肉をフィアがおいしいと言いながら頬張る。
なんていうか、純粋な子である。
高級フレンチとかに連れて行ったら、この子どうなっちゃうのだろう。
『Blade Ability《ホワイト・コネクト》発動
HP 20/46(+1) MP 9/12(+1) 攻撃力14(+1)
Skill《興奮》を獲得しました』
「お……」
そんなことを考えていたら、フィアの剣の能力が発動した。
ステータスのアップと、新たなスキルを獲得した。
「どう……?」
「今確認する」
シェアリーの窓を操作して、今手に入れたスキルの詳細を調べてみる。
『Skill;《興奮》
〔暴走〕状態になる』
「…………」
「…………」
画面を見ながら、二人で無言になる。
〔暴走〕状態。
なんていうか、あまり魅力を感じない。
むしろ、デメリットしか感じない。
罠を仕掛けたり、色々な手段を用いる戦闘スタイルで戦っている俺にとって、理性が無くなってしまうのは大きなマイナスポイントのように思える。
俺は両腕を交差して、大きなバツを作った。
「ナシで」
「もおおおおおおおおおぉぉぉぉぉっ……!」
二回連続で微妙なスキルを獲得してしまい、フィアが強く嘆く。
しゃーない。
低レベルのモンスターが、めちゃくちゃ強力なスキルを持っているはずないのである。もし持ってたら、俺たちはそのスキルで殺されている。
やっぱり、この《ホワイト・コネクト》スキルは中・上級者向けのスキルなのだ。
「いや、まだだ……。まだだよ! 今日倒したモンスターの中で、食べられる食材はまだ残っていたはず! そうっ……! ウサギの肉を出すんだよ!」
「えー、ウサギの肉は熟成させたいし、食材はなるべく備蓄させておきたいんだが」
「だまらっしゃい! このまま引き下がれますかい!」
フィアが地団駄を踏む。
彼女のプライドが、この中途半端な結果を許そうとしていなかった。
でもなぁ。
必要以上に食料を消費しようとするのは、サバイバル生活において大きなリスクであると思う。
確かにヘビ肉がまだ大量に余っている。
だが、例えば怪我を負って狩りが出来ない日が続いてしまったら、それだけで新しい食料を得られる機会が完全に無くなるのだ。
だからやはり、食料の備蓄はどうしても必要になるわけで……
「ん?」
その時、俺の中でひらめきが起こった。
「どしたの? レーイチロー?」
「…………」
無言のまま、俺は立ち上がる。
ゆっくりと歩き、とある物の傍に近づいた。
フィアは言った。
食べられる食材はまだ残っていたはず、と。それはウサギの肉である、と。
しかし、ほんとにそうだろうか?
俺は、一応運んでおいたスライムの死骸を持ち上げた。
「ん? なにしてんの、レーイチロー? スライムなんか持って?」
「…………」
俺はある種の覚悟を以って、フィアの方に振り返った。
「……これ、食えないかな?」
「え゛っ……?」
その瞬間、彼女の顔が引き吊るのを、俺は確かに見たのだった。
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