黒色明晰夢

ルルルルルルル

何も見えない暗闇で、少女は何を見た?

少女が起きた。真っ暗な空間で、静かに目を覚ました。いつから寝ていたかは思い出せなかったが、そんな事は少女にとって意味を成さない。座っていた、と思っていたけどいつのまにか立っている。そう眠りから覚めかけた頭で考えたが、まぁ足が勝手に立とうとしたんだろうと、考えるのをやめた。

ここはどこだろうと辺りを見回したが、ただ黒黒した闇が、果てもなく、何もなく広がっている。少女は家にこんな場所があったかしらと考えたが、自分は知らないことの方がずっと多いことを思い出し、歩いてみる事にした。

一寸歩いても、しばらく歩いても、ただ深淵が広がるのみ。少女はせめて、紅茶でも飲みたいと思った。

すると、闇の中に紅茶があった。しかし良くみると、紅茶はどこにもなかった。

暗くて何も見えない。少女は考えた。ならば私が見たいと思った景色を見る事ができる、と。少女はまた紅茶と、綺麗なティーカップと、白い可憐なガーデンテーブル、彩る薔薇園、並ぶ使用人を思った。なかなか悪くないとほくそ笑む。しかしまだ足りない。少女は闇の中で何も見えない事をいいことに、好き放題の景色を描いた。真っ黒なキャンパスに書く、極彩色の願望。それはキャンパスをはみ出し、あたり一帯に飛び散るのだが、ここは常闇。誰も咎める人間がいない事に、少女は気を良くした。


さて、いくら妄想でも喉は潤わない。そろそろ行こうかしらと目を閉じた。


少女が起きた。木造のゴミ屋敷で、静かに目を覚ました。いつから寝ていたかは思い出せなかったが、そんな事は少女にとって意味を成さない。あぁ立って紅茶を飲まなきゃと思ったけど、いつのまにか力なく座っている。そう眠りから覚めかけた頭で考えたが、まぁ足が勝手に座ろうとしたんだろうと、理解したが、納得はしなかった。


「私は紅茶を飲むの。とびきり美味しいハロッズのダージリンを」


常闇も、ゴミ屋敷も、少女の前には同じキャンパスに見えた。塗り替えるだけの絵具は持っている。少女はゴミをかきわけ、ドアを開け、駆けていく。

その瞳には、自由の灯火があった。

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黒色明晰夢 ルルルルルルル @Ichiichiichi

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