第8話 帰還

――内戦が始まって3カ月。


俺は仕事に忙殺されていた。


早朝から領主としての仕事を行い、食事以外での休憩がない。


寝ていても2日に1回はどこかの領が襲撃してきて飛び起きる。

襲撃がなかった日も人を殺したことが原因か悪夢をよく見るようになった。


最近はまともに寝た記憶がない。


ブレンダも俺の負担を減らそうと頑張ってくれている。このままではみんな疲弊して行政が機能不全に陥ってしまう。


頼みの綱であるアイも容量ギリギリでフル稼働しているから頼れない。


父様に頼ってみたが「カーリーの元に行けるのなら俺は手伝わん」と言われ、それから何度か屋敷を訪ねたが門前払いだった。


アーチボルド家には味方がいない。母様は父様に召し上げられ、平民から貴族になった人だ。そしてアーチボルド家の分家はいない。正確にはいたんだが、戦国時代に入ってから各家が独立してしまった。


分家当主たちは野心溢れる人だったからチャンスと思ったのだろう。


分家には領の中でも辺境と言われる田舎を領地として運営を任せていたから大きな痛手にはならなかったがこちらの事情を深く知っている者たちが敵になったのは痛い。


帝都から逃げ出して3日経過したときにアイは「3カ月後ぐらいからは男爵家などの領地が小さかった家が経営難に陥って帝国内でも有数の経済都市だったアーチボルド家に助けを求めてくるでしょう。その家を味方にすればいいのです」と言っていた。


それからは軍備を整えたり経済が下落しないよしないよう調整したりと忙しい毎日だったから忘れていた。


平和だったころを思い出していると面会希望の貴族が来たみたいでブライアンではない執事が慌てて入ってきた。


面会を求めてきたのはルドルフ男爵だそうだ。

この人は帝国国境にて他国から侵略されたときに目覚ましい活躍をし、1代で男爵まで上り詰めた人だ。


とりあえず話は聞くことにし、応接室へ移動した。


「この度はお時間を取ってくださりありがとうございます。アラン殿」


そう挨拶をしたルドルフ男爵は40代(前世基準)だったはずだが、年齢を感じさせない見た目をしている。軍で成り上がったのか威圧感がすごい。


「ああ、あなたほどの方が頼ってきたのだから無碍にはできまいよ」


そして話を聞いてると、軍の指揮や戦争には才能がったらしいが領地経営などの政は向いてなかったらしい。さらに彼の出世をよく思わなかった貴族が根回しをしたせいで荒れ果てたときを与えられたそうだ。


よくそんな土地で3カ月も守ったな。


要するに俺に仕える代わりに領を助けてほしいそうだ。


幸いこの領からルドルフ男爵領は近い。そして、ルドルフ男爵は戦争のプロだ。


こちらにもメリットはあるが裏があるか気になる。俺はこの3カ月の間、助けを求めてきた家を助けようとしたがすべて罠だった。


戦争は人をここまで変えるのかと驚いたよ。


他領は戦争の影響を受けて治安が悪化している。


アーチボルド領は幸い治安の低下も起きず領民達は以前と変わらない生活を送れている。


アーチボルド領軍は精強な軍といえるが優秀な指揮官が不足していた。ここでルドルフ男爵が俺に仕えることでより強い軍隊に成長できるだろう。


断る理由がない。問題はルドルフ男爵領が寂れている領だということだが、1つの領ぐらい支援できる余裕はある。


ここは受けて軍隊を強化するほうが先決だろう。


「これか言うことを受け入れるのなら、ルドルフ領についても安心してもらっていい。そのかわり、あなたは俺の軍に入ってもらい指揮してもらう。そこで他の軍人や俺の信頼を勝ち取った場合は軍のトップに立ってもらう。それでいいなら受け入れよう」


「そういうことなら私を使ってくれかまいません。我が領をよろしくお願いいたします」


そういうとルドルフ男爵は頭を下げた。


先程の話によるとルドルフ領はかなりまずい状況のようだから契約書を用意し、すぐにでも救援を出さないとまずい。


俺は傍に立っている者に契約書を用意させ、ルドルフ男爵と契約をした。


内容としては


1.アーチボルド家はルドルフ領の運営を支援する。


2.両家はそれぞれが自衛戦争を行う場合支援を行う。


3.ルドルフ家はアーチボルド家に仕える代わりに領民の生活を一定まで保証する。


この3つを主な条件として契約を交わし、1度ルドルフ男爵は領へ帰っていった。


今は領軍が精強なおかげでしのいでいるが、このままではいずれ体力が尽きてしまう。その前に領地を広げるか領内の経済を発展させて軍事に力を入れても倒れない今以上に強い財政を艇に入れる必要がある。


領地では開発が進んでいるが領地面積の半分も開発できていない。

開発には人がいる。領民はもうすでに手に職をつけて暮らしている。そうなると、難民や亡命者を受け入れてこの人たちを開発に回すのがいいだろうか。


国境管理局に問い合わせて当主御前会議で議題に上げよう。


開発を進めたいが人が足りないというのが問題としてこの前に上げって来たばかりだからな。



ルドルフ男爵が仕えてからしばらくたち、領軍は今まで以上に複雑な作戦行動を行えるようになった。


男爵の令嬢がアーチボルド家にある領学校に通っている。この学校はアーチボルド家に仕えている者の子供たちから一般の領民達までが通っている学校だ。


俺も本当なら帝都にあった幼年学校に通っているはずだが、帝都が他国に占領されたせいで通えなくなった。


その代わりに領内に作ったのがこの学校なのだが、作った後に気づいた。領主が通ったら大騒ぎだし、暗殺されたら大ごとだ。そもそも学校に通っている時間がないという理由もある。


そんな理由で俺が通えていない学校に通っている男爵令嬢はうまくクラスに溶け込んでいるようだ。貴族は令嬢一人しかいないので浮いていないかどうか心配だったが問題なかったようだ。


そんな中で暮らしていると嬉しいことがあった。


日ごろ政務に忙殺されていた中であったことだから喜びも大きかった。


それは師匠たちから俺の身を心配する内容の手紙が届いたことだ。師匠たちは辺境も辺境の場所に住んでいるみたいで戦争の影響を受けることなく過ごしているそうだ。


俺は師匠たちは腕がたつから巻き込まれていないか心配だったが安心した。


ブレンダも最近政務の手伝いに慣れてきたようでうまく回している。



そんな戦時中だと感じることができない平和な日常のなかでその日常が崩れる時が近づいてきていた。


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読んでくださりありがとうございます。

4月19日 18:00に予約投稿しています。

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