第3話 家族

アーチボルド家の執事であるブライアンは、今日も屋敷を見て心の中で嘆く。


1年前、跡取りであるアランがポットに入り、奥様が長女であるブレンダを出産した。


難産だったらしく奥様は出産を終えて体力が尽きてしまいお亡くなりなってしまった。


それからは当主であるアドルフは変わってしまった。


毎日、酒を浴びるように飲み、平民の女性を半ば拉致して奴隷のような扱いをしている。


政務も最低限しか行わず領内はどんどん荒れていっている。


奥様が命を懸けて産んだブレンダ様にも思うところがあるのか、かかわろうとしない。


1年前のアランが起きていた時と比べ屋敷の治安も悪化し、空気も悪くなってしまった。


以前は使用人も楽しくアーチボルド家に仕えていた。


ブライアンが廊下を歩いていると、物陰に隠れて使用人たちがお喋りをしている。


若い男女だ。


男女ともに最近仕え始めた新人だが、誰も見ていないことをいいことにさぼっている。


「いいだろ?」

「でも、見つかったら」

「平気だって。どうせ誰も見ていないんだ。ちょっとぐらい問題ないさ」


男がメイドの手を引いてどこかへ連れ込んでいく。


以前仕えていた使用人達は当主の豹変についていけなくなりやめてしまった。


中にはアドルフに襲われてやめてしまった者のいる。


すべてはカーリー様がお亡くなりになってしまってからの出来事。


かつての面影がない伯爵家を悲しむブライアンだが、今日はアランの目が覚める日だ。


「アラン様、ブライアンでございます」


「どうぞ」


アランからの入室の許可が下りブライアンは今の伯爵家の変わりようをどのように伝えるか悩みながら部屋に入る。


ちょうど目が覚めたようで、ポットから上半身を起こしてこちらを見ている。


「おはようございます。アラン様」


アランは変わってしまった屋敷の空気を感じているのか顔が強張っている。


「あぁ。おはよう。」


子供にしては随分と偉そうにブライアンに問いかけた。


「随分と屋敷の様子が変わっているようだがどういうことだ?」


ブライアンはこの問に対してすぐに答えることができなかった。

まだ5歳になったばかりの子供にこの1年間の変遷を使えるには内容が辛すぎる。


そんなブライアンの様子を見抜いたような目でアランは


「いい、正直に話せ。屋敷の空気を感じればとてつもない”なにか”がったということぐらいはわかる」


アランが覚悟をもってこちらに問いかけ、ブライアンは事実を伝える。


「そ、そうか。母様が。父様が豹変してしまい、妹は血族と会わない中育っていると」


「その通りでございます」


そして、ブライアンは当主から預かっている書類をアラン渡す。


――sideアラン


その内容とは、爵位や領地、その他の権利を俺に譲渡するものだった。

――まだ5歳の子供に全ても譲り渡す?


「ブライアン、これはどういうことだ」


普通、何か悪事を働いている者は自分が持っている権力を手放すことはない。

もしなくなったら身の破滅が待っているからだ。


それなのに伯爵家を丸ごと俺に譲渡するだと?


おかしい。こんなことがあるはずがない。


俺の疑問に気づいたのかブライアンは言った。


――母様は体が弱く俺の時も生死の境をさまよってどうにか出産したらしい。


――父様は母様に依存レベルで執着しておりもし母様が死んでしまったらどうなるかわからなかったとこ。


自分がいつ死んでもおかしくないと知っていた母様は父様と相談し、もし母様が死んで父様が豹変した場合、アランに伯爵家を譲ることを記した書類を作っていた。


もちろん、皇帝にも了承してもらっている。


そして、俺は父様が豹変してしまったので伯爵家を継承したとういうわけだ。


言われてみれば納得できる。


いつも父様は母様の近くにいて母様だけには笑顔を向けていた。


息子の俺には母様が笑顔を向けて愛しているから、仕方なく愛しているように見せていた。

というのがなんとなくだが前世を思いだす前の俺が感じていた。


よし、まずはやることをまとめよう。


まずは、妹に会おう。


生まれたのは俺がポットに入っているときだ。


俺は兄だからな!会うのが当然だろう。


そのあとは、屋敷を移そう。

父様は母様と暮らしたこの屋敷と出ていたくないだろう。


「ブライアン。ブレンダに会いに行く。案内しろ」


「かしこまりました」


ブライアンに先導されながら廊下を歩いていると起きた時から感じていたが1年前と比べて屋敷が変わっていた。


以前なら掃除が行き届いていたところにはほろりが貯まり、見たことない顔の使用人は仕事をさぼっている。


変わりようにうんざりしていると、どうやらブレンダの部屋についたようだ。


こんこん


「ブライアンです。アラン様をお連れしました」


ブライアンが開けたドアをくぐり、部屋に入る。


ベビーベッドのそばには乳母だろうか、一人のメイドがベビーベッドのそばに立っている。


「アラン様、おはようございます。こちらがアラン様の妹君であるブレンダ様です」


「あぁ。おはよう。この子がブレンダか」


ブレンダが将来、性悪女になるとは思えないぐらいとても、かわいらしい赤ん坊だった。


銀色の髪に空色の瞳。


俺が父様とそっくりなように、ブレンダは母様とそっくりだ。


これは父様が母様と重ねて合わなくなるのも納得だ。


今世の両親も前世の両親のようによく思っていた。


父様は変わってしまい、母様死んでしまったが大好きだった。


今の状況ではブレンダを守るしかない。


俺はそう決意しブライアンに指令を下す。


「ブライアン。別の屋敷を手配してくれ。ここは父様のために残すが俺とブレンダは新しい屋敷に引っ越す。それと同時に屋敷の使用人で使えないのは全員解雇しろ。引っ越しに合わせてやめてしまった使用人をできるだけ連れ戻し、足りない分は新しく雇え」


「かしこまりました。すぐに取り掛かります」


そういうと、ブライアンは代理の執事を残し退出した。


「それで、お前。名前は?」


ブレンダのそばにいるメイドの名前を聞く。


「セラでございます」


「そうか、セラか。じゃあセラ、さっきの話を聞いていたな。引っ越しをするからブレンダの引っ越し準備をするように」


「かしこまりました」


そのあと俺は自分の部屋に戻り、これからのことについて考えていた。


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第4話は4月14日18:00に予約投稿しました。

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