第4話 いつか僕らが許されるなら
「ねえ、何処にいるのかな。」
「探そう。俺らで。」
「見つかるかな。見つけられるかな。」
「大丈夫。きっと俺らにしか見つけられないよ。」
「そうかな。そうだといいな。」
「そうだな。俺らはやれるべきことを今はやろう。」
「うん!絶対に迎えに行く!はやく、はやくあいたいな。」
「あぁ、そうだな。聞き出さなきゃな。あの日突然居なくなった理由を。」
15歳のあの日、「セイラちゃん」の事があってからの僕は不用意に近づく人間に能力を使いまくった。高校生となり入学式を目前とした春休み終了まで残り3日間という頃には僕は其れをはじめから僕のなかにあったかのように当たり前に使っていた。それまでの、中学生の能力を発揮した間際の夏〜秋は地獄だった。知らず知らずの間に僕が触れ、願った人間たちの記憶は瞬く間に消えていった。僕はいつしか「天才」と呼ばれるようになった。そして漱石家は問題続きとなった。
元々、亡くなった母が大企業の娘だった。そして娘が亡くなった今、それは父のものとなった。経営は母が亡くなった頃から悪い方へ傾いていた。実際とても良くなかった。それを母の家族は父に全て押し付けた。父は僕を守るために必死に会社を建て直した。ひとりで。父のお陰で僕らは相も変わらず今も裕福であった。そんな大企業の「社長」の父と「天才」と呼ばれるようになった僕。放っておく人なんていなかった。「セイラちゃん」事件の次は僕の誘拐事件だった。僕は金目当ての奴らに誘拐されたり、はたまた僕自身に興味の沸いた研究者達に狙われた。はじめは優越感が僕を支配していた。だから、誘拐事件なんて怖くなかった。必ず助けてくれる父と頭のキレるアミ、そして僕の大切な双子がいたから。友人達もその子たちの両親も目の色をかえて僕に近づくものが増えていった。
「千草くんって元々かっこよかったけど最近ますますかっこいいよね!」
「千草くんは頭も良くてお利口でとっても素敵な子だわ!」
「千草くんとは仲良くしておきなさい。」
それだけなら許せた。
「あの千草くんのお父さんはいま独り身なの?イケメンでとっても紳士よね〜!どんな方がタイプなのかしら?」
「ねえ、あの双子達は何なのかしら?どうしていつも千草くんの傍をうろついているのかしら。鬱陶しい!」
なんて声が次第に聞こえてきた。増えていった。嫌だった。僕のせいでこんなことになって、大切な人たちを気づつけてしまっている。限界だった。僕は何も信じられなくなっていた。能力にいち早く気づいたアミにばかり強くあたってしまっていた。時には泣きじゃくってしまっていた。そうして眠りについていた。
地獄だった。毎日が苦しかった。一日が酷く永遠かのように錯覚した。僕は中学受験を終え、高校が決まった3月、呆気なく壊れた。
「どうして俺なんだ?どうして俺だったんだ?この能力はどうして僕を選んだんだよ.......」
ずっと寝室から出なくなっていた。面会を許したのはアミだけだった。
「チグサ、無理はしないで。俺に何でも話してくれよ。俺はずっとチグサの傍にいるよ。」
アミだけが僕を理解してくれると思った。アミは何も言わず傍に居てくれた。
「チグサ、今日はケーキとかも作って見たんだけど一緒にどうかな。チグの好きなレモンパイだよ。」
「.......アミは僕の執事か?」
「あはは!千草が望むなら。ずっとお傍にいますよ。マイロード。」
なんて冗談にも乗ってくれた。アミと話すときだけ僕の心は落ち着いていた。
そうして僕は大切な人たちを遠ざけた。そうしたら失うものは何も無いし何より傷つけることはないと思った。毎日双子たちは僕の家へ訪れていたとアミに聞いた。父ももちろん心配していた。しかし僕は父にすら会う気にはなれなかった。そうして薬はひとつ、ふたつと増えていった。僕はもう何も考えていたくなかった。
「ん......朝、か。眩しい。朝だ。アミは?いつも起こしにくるのに。あ、そうか、今日はアミは朝から忙しいとかだったか。」
春休みになり1週間が過ぎた頃のそれは突然だった。
バンっ !
と勢いよく開かれた寝室の扉からは見覚えのあるふたりが現れた。
「「チグ(チグちゃん)!!!!!」」
同じ顔、ただ違うのは性格、話し方、性別、名前。いや、それだけ違うなら十分ではあるが。
「どうして、ふたりが?」
「ふふ、やっと、やっと会えた!!!メエ!よかったね!チグちゃんだよ!!」
「あぁ、みえてる。俺にも。チグだな。」
目の前のふたりは泣いた。喉がきゅっとした。僕はふたりの顔を見れなくて大きなミルク色の布団を被った。
ばふんっ!
「うっ、おも、い!」
布団の上から僕に重みがかかった。
「ねえ、チグちゃん聞いて!私たちのこと!受験終わって卒業してわたしモデルを始めたの!」
「俺は歌を。」
「そしたらね、私たちたくさんの人に見てもらえたの!それでね、お仕事たくさんなの!これから忙しくなるけど、私たちがあなたを守っていける!!これからはわたしとメエがチグちゃんの盾となる!」
コウちゃんの何処までも通る華やかで綺麗な声が僕を殴った。僕は目を覚ましたんだ。
「え、...........」
「あはは!チグちゃん、ボサボサだー!」
「ふふ、チグ、髪の毛やばいよ。」
ケラケラと笑うコウちゃん、普段キリッと顔を崩さないメエちゃんまでもが笑っている。
「う、うわ、う、ぐっ、うあああぁん!!!!!」
止まらなかった。ふたりの事を誰よりも知っているつもりだった。だから、僕は泣かずにはいられなかった。ありがとうもごめんねもきっと違った。すごいね、さすがだねよりももっとふさわしい言葉があるはずなのに僕はそんなふたりにおくる言葉を持ち合わせてなかった。
「あはは、は、は......う、うあ、うわああぁん!!」
「ふ、う、うう......」
ふたりも泣いていた。3人で声をあげてわーわー泣いた。ふたりは僕のために自分達が表に立ち、僕を霞ませ盾になろうとしてくれている。僕はこの日、決めた。ふたりを守ると。ふたりを傷つけるものは許さないと。そして父さんとも向き合う事を決めた。
それからもうひとつ、僕はこの能力と付き合っていくことを決めた。
そうして僕はこの能力を大切な人たちのために使えるように考えた。力を使えば使うほど僕の体は蝕まれた。でも、苦ではなかった。大切な人を守れる、と信じて疑わなかった。これが僕の原動力だった。僕は一人称をかえた。「俺」から「僕」へ。これと言って理由はない。ただ、別の僕になりたかった。あの弱い僕は捨てたかった。忘れてしまいたかった。
そして僕は守る術を身につけた。
入学した高校は3年間、順調だった。全てが上手くいっていた。能力を有効活用していった。コウちゃんとメエちゃんの陰で僕は生きていた。どんどん有名になるコウちゃんとメエちゃん。そして「普通」な僕。
僕らは3人で幸せだった。父さんとも仲良く暮らしていた。大きな家で使用人も雇わず、相変わらず2人で。本当に幸せだった。これがずっと、ずっと続けばよかった。それで、それだけで僕は十分よかった。十分すぎる幸せだった。ずっとずっと僕はこのあたたかい陽だまりに居たかった。
許されるのなら、ずっと。
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