第3話 クリスマスローズ、嘘つきの明日へ
「クリスマスローズ?誕生花.....?」
「うん、お誕生日おめでとう。誕生花のクリスマスローズ。俺の大切な花なんだ。」
「…わたしの誕生花...綺麗!男の子なのにお花が好きなんだね、ありがとう。クリスマスローズだっけ?大事にする!」
「ふふ、偏見だよ。男でも花が好きなやつぐらいいる。俺は花が好きだし、花柄のお洋服を着てる女の子とかすき。」
「…!!!な!いきなり!?その情報はずるいよ!!!千花!」
「あはは、ねえ、クリスマスローズの花言葉ってなんだと思う?」
「チグちゃーん!買い物、行くよー!」
「こら、コウ、あんまりうるさくするなよ。」
「「あっ」」
「あぁ、どうも。千草に用事?」
「水瀬さん!こ、こんにちは!相変わらずいい匂いがしますね...」
「こんにちは、水瀬さん。千草は自室ですか?」
「こんにちは、花城双子のおふたり。
ふふ、いい匂い?...ありがとう。千草は部屋に居ると思うよ。そうだ、今日はふたりの誕生日なんだってね。おめでとう。」
「あっ、ありがとうございます!」
「ありがとうございます。」
「それじゃあ、俺は仕事があるので。ふたりとも、どうぞごゆっくり。そして素敵な一日を。」
「水瀬さん、やっぱりかっこいいね!メエ!」
「...俺は少し水瀬さん苦手。」
「へ?どうして?水瀬さん、イケメンだしいつもいい香りがするよ?」
「なんだそれ...」
パタパタパタ…
と廊下から話し声と足音がする。静かな何も無い通りに花が舞うようだ。父とふたりで暮らすにはあまりにも広すぎる家に休日のこんな朝早くに来るのはアミか双子達だろう。父さんは毎朝早く仕事へ行ってしまう。アミはさっきいつもの薬を渡しにきたから、あぁ、きっとふたりだ。まあ僕は足音でふたりだってことがわかる。
「ふふ、」
なんだかそれが嬉しくてひとり笑ってしまった。
「「…」」
「…」
「え、ええええ!?」
僕が幸せを噛み締めているとふたりが僕のいる部屋の扉の前にいた。扉は開いていた。
「い、いつから?いつのまに?」
「「ひとりでにチグ(チグちゃん)が笑ってるところから。」」
あ、あ、ア、アミめ〜〜〜〜〜!アミはたまに扉を閉め忘れたりと抜けているところがある。ちょっぴりドジっ子なんだろうな。なんでも出来ちゃう人なのに。でも、そこが僕は好きだ。なんだか人間らしくって。
「そ、そんなことより!コウちゃん、メエちゃん、お誕生日おめでとう!!!」
僕は照れ隠しに勢いでテーブルの上にあったふたつのクリスマスローズの花束を手に取った。
「わあ!!クリスマスローズだ〜!!綺麗!いつもありがとうチグちゃん!とっても嬉しい!」
「今年もありがとう、チグ。」
「ふふ、今年もふたりにはやっぱりクリスマスローズだよ。ふたりの誕生花だもん。.....クリスマスローズはね、戦場へ行く騎士が恋人へ贈った花なんだ。『私を忘れないで』って」
小声で誰にも聴こえないように僕はそっと零した。案の定、ふたりは気づいていない。
「あ!今年は僕の家で誕生日のお祝いだよね!夜には必ず帰ってくるって父さんも張り切ってたからさ!とりあえず、買い物に行こっか!」
僕は突然声を張って言った。ふたりのビクッとした仕草がみえた。
「うん!!今日はたくさん買ってもいいよね!?」
「うん、たくさん買おうね。」
「二人ともちゃんと食べきれる分だけだぞ。」
「「はーい!」」
僕らは3人で街へ出掛けた。
僕と双子達は毎年、一緒に誕生日をお祝いしてきた。お祝い会場は互いの自宅をかわりばんこに。今年は双子達の誕生日に僕の家。僕の誕生日には双子達の家。僕の誕生日のときは彼らが必ずおめでとうといってケーキを一緒に囲んでくれた。毎日忙しい父も僕の誕生日の日は必ず夜が深くなる前に家へ戻ってきてくれた。コウちゃんとメエちゃんの両親の柊さん、菫さんもお祝いしてくれた。僕は本当に幸せ者だと思う。年に一度の大切な日にひとりじゃないから。そして今年のコウちゃんとメエちゃんの誕生日ももちろん、いつものみんなでお祝いする。会場は僕、漱石家で。
「美味しそうなものもたくさんであぁ〜選べない!!」
「コウ、言い忘れたが材料を買うだけだぞ。」
「!?...あ!そっか〜、今年はメエとチグちゃんのお手製料理、バースデー編!だもんね!!」
「ふふ、上手く出来るといいね、メエ。」
「そうだな、チグ。今日は俺らの父さん母さんたちは帰ってくるのが遅いから、俺らでやらなきゃな。」
「主役なのに悪いな、メエ。アミを呼ぼっか?そしたらメエも休める。僕らにご馳走は任せて。」
「ふふ、ありがとうチグ。でも、大丈夫。俺は料理するの好きだから。特別な日に大切な人達に振る舞えるなんて幸せだよ。それから水瀬さんには水瀬さんの事情があるだろ?」
「メエちゃんには本当に敵わないよ。それにそうだな、アミはいつもなんだか忙しそうだ。きっと今日も何かある。今日は特に朝はやく帰っていったからな。」
なんて会話をしながら僕らは、チーズやお肉、にんじんやトマトといった野菜にパン屋さんにも行き、パイ生地にアヒージョようのバケットなどを買い込んだ。そしてシャンメリーも。それから、父さんたちへ普段よりもいいワインを。
「よぉ〜し!たくさん買ったし、ご馳走楽しみー!」
たくさん買い込んだ僕らは帰宅した。広間の大きな時計の針は16時を刺していた。
「では、これより料理を始める。チグ、」
「待って!わたしも手伝う!ふたりだけにやらせるのなんか悪いし、えっと...」
「「.....コウ?」」
「な、なに!わたしだって!」
そう言って頬が少しピンク色になったコウちゃんが愛おしく思った。今年もこうして大切な日にふたりと過ごせることが幸せだな。
僕らはメエを中心に本日の夜のご馳走様を三人でせっせと作っていった。
「あ!!!ケーキは!わたしたちのお誕生日ケーキ!買ってないよね!?忘れた !どうしよう!まだお店やってるかな!?」
ほとんどのメニューを作り終えた頃にそう言って慌てふためくコウちゃんがいた。
「ふふ、大丈夫だよ、コウちゃん。言い忘れていたけど今年のケーキ担当は僕の父さんなんだ。」
「え!樹さんが!?」
「きっとそろそろだよ。」
「だだいまー!!!みんな!」
「あ!樹さん!!」
僕ら三人は玄関まで走る。長い長い閑静だった廊下を。
「おかえり、父さん。」
「千草...ただいま!」
「樹さん!おかえりなさい!!」
「おかえりなさい。樹さん。」
「ただいま!コウちゃん、メエくん。」
「あ!!ケーキだ!!」
「買ってきたよ〜!さあ、お祝いを始めようか。」
「父さん。でも菫さんと柊さんがまだだよ。」
「二人は遅れてしまうから先にって連絡が来ていたよ。明日埋め合わせをするとも。」
「そっか、メエ、しょうがないね!」
「ああ、そうだな。しょうがないな。」
「ふたり共、大丈夫?」
「なにいってるの、チグちゃん。チグちゃんも樹さんもいるし、ママとパパが遅いのなんて慣れっこだわ!」
「え.........」
「チグ、俺らは寂しくなんてないよ。特に俺はコウとチグのお世話もあるからな。」
「ちょっとメエ!お世話ってなによ!!」
「あ、そ、そっか...?。」
寂しいんじゃないのか、どこかずっと不安で不思議だった。母親を幼い頃に亡くし、仕事で帰りの遅い父親の僕はひとりというのは慣れっこだったがコウちゃんとメエは?お誕生日に、年に一度の大切なこの日に親がいないなんて寂しいに決まっているのに...。
何も言えずに固まる僕にコウちゃんとメエちゃんは何も言わずにそっと手を繋いでくれた。
「ふふ、ふたりとも、夜も深い、今日は泊まっていきなさい。」
「「「え!」」」
「樹さん!ありがとう!」
「ありがとうございます!」
「さあ、お祝いをはじめようか。」
父さんはふたりにバレぬよう、僕をみてウィンクをした。.......ありがとう、父さん。双子は花のように笑っている。僕もつられて笑った。花のように、そうであったらいいなと強く思った。
さあ、ふたりのお誕生日をお祝いしよう。
お誕生日おめでとう、 香、茗。
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