異世界憑依転生者の結末
@tenzituosusuki
異世界憑依転生者の結末
魔王が虚をなでるように杖をふるうと、濁流のような業火が俺に降り注ぐ。
体に感じる疲労から、回避が間に合わないことを悟り、迫りくる痛みに目を瞑る。
「主の御手よ! 彼の者を災いから護り給え……ッ!」
背後から声が聞こえると共に、俺の眼前に光の障壁が現れる。
それすらも燃やし尽くさんとばかりに燃え盛る炎を、左右へ逸らすことでしのぐことに成功する。
「助かった! ありがとうマリエラ!」
『聖女』マリエラは、その言葉に返す力もないのか、やがて溶けるように光の障壁が消えると、どさりと崩れ落ちる音が耳に届いた。
「もう援護は期待できないか……」
俺は手に持った銃を軽く確認すると覚悟を決めたように魔王を見据え、駆け出した。
「いい加減諦めたらどうだ?『勇者』よ」
魔王は呆れたように俺に向かってそう言いながら、杖を振るい無数の風の刃を飛ばしてくる。
俺は致命傷を避けるように、左腕を盾にしながら突き進んでいく。
風の刃が腕に触れた瞬間、腕が真紅に濡れた。
まるで沢山の刃物の中に腕を入れたような、腕全体を這い回るような痛みが襲う。
「その体をあまり傷つけたくはないのだがな……」
魔王はこちらを見ながら呟いた。
「ハッ! 生憎、痛みには鈍くてな!」
傷だらけの腕をだらりとたれ下げながら、俺は変わらず前へ前へと進んでいく。
魔王は杖を前方に突き出すように向けると、杖の先端が透き通るような淡い蒼色に輝いた。
そこから創り出されたのは氷の槍。無駄な装飾は一切なく、その形状からただ貫くことのみに特化されていることが一目で察せられる。
氷の槍が作り出されるや否や、槍はノーモーションで前方、俺にむかって発射された。
一直線に、音速に肉迫するとも思える速度で迫る槍に、俺は即座に回避を諦め、迎撃えと切り替えた。
「喰らいやがれッ!」
俺は槍に向かって銃を構え、引き金をひくと、吸い取られるような脱力感を覚える。
乾いた破裂音と共に打ち出された弾丸が炎を纏い、槍へと突き進んでいく。
『魔法弾』。俺の知識によって作られた武器、拳銃。その弾丸の発射と共に魔力を纏わせることで威力を大幅に引き上げるという、俺が創り出した質量をもった魔法。
弾丸と衝突した氷の槍は、しかし弾丸に触れると共に融解する結果に終わる。
「どうだ!これが俺の力だ!」
「黙れ『勇者』、お前はもうしゃべるな」
魔王は不愉快そうにそう言った。
「……ッ!?」
すると魔王は続けて氷の槍を、今度はその数を十へと増やして俺に向かって発射した。
俺は致命傷になり得るいくつかだけを打ち落とすが、落としきれなかった槍が体を突き裂いた。
痛い。
「チィッ! 効かねえよ!」
「痛いか?」
魔王がこちらを向いて問いかけた。
「ああ? 効かねえっつって……」
「黙れ。……もう一度言う、痛いか?」
痛い痛い痛い痛いいたいいたいいたい!
「苦しいか? 辛いか? 憎いか?」
「お、お前、なに言って……」
「黙れ『』、私はお前に聞いているんだ」
魔王はこちらを……『ぼく』を見ながらそう問いかけた。
「助けてほしいか?」
突然、俺の体が動かなくなった。
「ありがとう、魔王様。ぼくを見てくれて」
自分の口が、勝手に動くことに恐怖を感じると同時に、今世では感じなかった刺激が全身を襲った。
体中を走り回る激痛に叫びそうになるが、刳り抜かれたような脱力感がそれすら許さなかった。
「ありがとう」
頭に触れる、鉄の感触に気付いた瞬間。
俺は再び、死の痛みを思い出した。
異世界憑依転生者の結末 @tenzituosusuki
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