キナの想い
アルドとエイミは合成鬼龍にのってサルーパにやってきた。
アルド「とりあえず酒場で情報を集めるか?」
アルドとエイミが酒場に向かい始めたその時、世間話をする女性二人とすれ違った。
女性1「この前村の外れでキナが野草を摘んでいるのを見たよ。」
女性2「キナが?まだこの村の近くにいたのかい。厚かましい。よく居座れるもんだねぇ。」
アルドとエイミは足を止めて、鬼気迫る勢いで女性たちに詰め寄った。
アルド「なぁ!話中悪いが、キナっていう人のこと知ってるのか!?」
女性は怪訝そうな顔をして後退りする。
女性1「な、なんだい。キナのことを知らないもんはこの村にはいないよ。あんたら奇抜な格好をしてるし旅の人かい。」
エイミ「えぇ、キナっていう人を探しているの。居場所を教えてもらえないかしら。」
女性2「なんだって?!そんなもん知らないね。あの裏切り者を探してるなんで、あんたら魔女の手先かい?出て行け!」
女性が声を張り上げると村人たちが何事かと集まってきた。
アルド「ここはまずい。エイミ、いったんここを出よう。」
アルドはエイミの手を引き、チャロル草原へと走った。
しばらく走って、アルドとエイミはゼーゼーと息を吐きながら立ち止まった。
エイミ「はぁ、はぁ。キナが恨まれているっていうのはミナが言ってたことと同じね。やっぱりこれが真実なのかしら。」
そう言って肩を落とすエイミ。
アルド「エイミ、、、。」
「あの、、、旅の方ですか?村だったらあっちの方ですけれど。」
可愛らしい声が聞こえる。振り返るとそこには見たことのある人物が立っていた。アルドたちはその女性の正体を一瞬で確信した。
アルド「君、、、キナだろ?」
彼女はリナにそっくりだったのだ。もちろん年は違うが、面影があった。
キナ「はい、、、?私のことを知ってらっしゃるのですか?」
アルド「黒い首飾りのことで君と話をしたくて探していたんだ。」
アルドの一言でキナの穏やかな表情が一気に変化した。
キナ「シーカ!!シーカのこと知ってるの!!?」
キナのあまりの剣幕にアルドは言葉を見失ったが、エイミが彼女を宥める。
エイミ「ごめんなさい。シーカ、のことは知らないけど、私たちあなたに話を聞きたくて来たの。村の人たちを見ても感じたけど、あなたのことで苦しんでいる人たちがいる。魔女と契約したっていう話、詳しく聞かせて欲しいの。」
キナは唇を震わせている。
キナ「すみません私、、、初対面の方に。誰も私の話を聞いてくれませんでした。聞いてくださるというのなら喜んでお話ししますよ。信じてくださるかは強要しませんから。」
そう言って笑った彼女の顔には悲しい影がさしていた。彼女は胸元に手をあてて、服の中に隠していた首飾りを取り出した。
エイミ「その首飾りは、、、」
それは間違えなく呪いの黒い首飾りだった。
キナ「本当はこれ首飾りじゃなくて腕輪なんです。」
アルド「腕輪?人間の腕に通したらすり抜けてしまうんじゃないか?」
キナ「はい。だってこれの持ち主は人間ではありません。魔物なんですから。」
キナは大きく息を吸い、話し始めた。
キナ「何年か前のことです。私は病気の父と二人暮らしで、あの晩は夜にしか花を咲かさないという闇夜草を探しに森の方へ行きました。。闇夜草は煎じて飲むとさまざまな病に効くらしいのですが高価なものなんです。夜に村から出ることは禁止されていましたが、警備されていない抜け道を知っていたのでよく抜け出して探していました。真っ暗で小さなたいまつでしか照らすことができない夜道でした。注意していたつもりでしたが、私は誤って指を毒のある植物のとげにさしてしまい、気が動転していました、、、」
キナ「ど、どうしよう。このままじゃ私死んじゃうのかな。」
キナが涙を流していると後ろでカサっとなにかが動く音がする。
魔物かしら、どうしよう。絶体絶命だと目を閉じたその時だった。
「なんでこんなところに人間の娘がいる?」
キナ「あ、、、村の方ですか?実は毒を持った植物を触ってしまって体が麻痺してしまったんです。助けを呼んできてもらえないでしょうか。」
「残念だが俺は村のものではない。これを傷口に当てろ。」
暗闇の中の人物は一枚の葉を渡してきた。
「それは消毒作用がある。お前が刺さった植物はすぐ解毒すれば軽い麻痺で済む。今解毒作用のある植物をとってくるから、傷口を押さえて待っていろ。」
それはぶっきらぼうだが、暖かく、優しい声だった。暗闇の中の人物はしばらくしてすり潰した植物を持って現れた。
「飲め。」
「ありがとう、あ、あなたは?」
彼は何も答えなかった。解毒薬を飲んでしばらくすると、キナの体は痺れがとれ立ち上がることができる状態に回復した。
キナ「あの、、、治ってきたみたいです。ほんとうにありがとうございました。」
「まだ軽く麻痺が残っているだろう。家に帰ったらたくさん水を飲んで毒を流せ。傷口もちゃんと酒で消毒しろ。」
キナ「名前を聞いていいですか?どこの村の方でしょうか。改めてお礼に伺います。」
「帰れ。わからないのか、おれは人間ではない。」
そう言って月夜に照らされた瞳は獣、いや魔物のものだった。キナは急いで村へ走ったが、ずっと助けられたことが忘れられず、次の日フルーツを持って夜の森に入っていった。
キナ「あのー!昨日の晩助けられた女です!お礼をしにきました。」
しばらく大声で叫んで森の中を回ると聞き覚えのある声がした。
「殺されにきたのか?女。」
キナは顔を輝かせて、魔物に駆け寄った。
キナ「探していました。昨日のお礼のフルーツを届けにきたんです。」
「殺されにきたのかと聞いてるのだ。この森は魔物と魔女の巣窟だぞ。」
「あなたがその魔物だって言うんなら怖くない。あなたは私の恩人です。人間だろうと魔物だろうと関係ない。」
まっすぐ言い切る彼女を見て、魔物は静かに笑った。
「とんだいかれた女がいたもんだ。」
二人は夜の森の中で笑い合った。
キナ「それからというとの、私たちは毎晩のようにあって、話をしたりいっしょにフルーツを食べたりして過ごしました。暗さに目が慣れてきて、姿はしっかりと見たけれど、彼は獣のようでしたが、半人半魔、異形な見た目をしていました。だけど怖くなかった。彼の心はどんな人間よりもあたたかいと知っていたから。彼は昔人間で強さを求めた代わりに魔女に魔物の姿に変えられたそうです。それ以来魔女のしもべとしてこの森で一人で生きてきた。仲良くなって人間の頃のシーカという名前も明かしてくれました。私も父親の病気の話をして、シーカは親身になって聞いてくれた。そうです、私はシーカのことを愛していたんだと思います。でもある晩のことです、、、。私はいつものように村を抜け出すための準備をしていました。そのとき
「魔女だーーー!!魔女が襲撃してきた!逃げろーー!」
その瞬間、村は魔物の侵略を許し、建物、畑全てを破壊され、村人も重傷を負いました。魔女はその戦いで致命傷を負い、森へ逃げたと聞きましたが、村の真ん中で見覚えのある姿が横たわっているのを見つけました。シーカです。」
キナ「シーカ!!シーカ!!」
彼女は血だらけのシーカに駆け寄り、その胸に泣きついた。
シーカ「キナ。守れなくて、、、ごめんな。」
シーカはそういうと、顔をくたっと傾け、動かなくなった。
キナ「シーカ!!いやぁーーー!!」
村人A「キナちゃん、なぜその魔物にすり寄ってるんだ。そいつは一番暴れていたやつだぞ。」
村人B「まさかキナちゃん、、、そういえば彼女、この前の晩家を抜け出しているところを見たよ。」
村人C「キナちゃんの家だけ、無傷同然じゃないか。もしや魔物とグルになったのか?!」
キナ「ちがうちがうわ!シーカはそんなことする人じゃない!」
村人D「人って、、、こいつ頭おかしいぞ。」
キナはあまりの事にその場で意識を失ってしまった。
キナ「目が覚めた頃には、シーカは村人たちに火炙りにされて、灰となっていました。残っていたのはこの腕輪の石だけ。それからどんどん悪い噂は広まり、証拠がないことから罰せられることはなかったけど、私と父は村の外れに住居を移しました。あれから数年、村は元に戻って復興したけれど、月日が経てば経つほどシーカのことがわからなくなります。信じていたけれど、私が抜け道を通って村から出ることを知っていたのはシーカだけ。彼が魔女に漏らしたとしか思えないんです。そんなつもりはなかったけれど、私は村を裏切った。これが真実です。」
アルドとエイミはあまりの真実に言葉をなくしていた。
アルド「話してくれてありがとう。キナの言葉信じる。」
エイミ「私もよ。」
キナはありがとう、と微笑んだがその目は暗く光はなかった。
アルド「でもキナ、君はまだシーカの形見を身につけている。彼を信じたい気持ちがあるんじゃないか?」
キナはハッとして首飾りを服の下に隠した。
キナ「ちがいます!そんなこと許されない。」
エイミ「自分に嘘をつかないで。」
アルド「俺たちは真実を知りたくて、君に会いにきた。でも君自身がまだ真実を見つけられてないんじゃないか?」
キナはアルドの言葉に目を見開いて、服の下の首飾りを握りしめた。
キナ「本当はシーカを信じたい、、、。でも彼はもういなくて、、、
グォォォォォ
突然背後から鳴き声がした。
アルド「こんな人里の近くに魔物か!」
エイミ「キナ!危ない!隠れて!」
二人はその魔物を間一髪のところで仕留めた。
エイミ「ふぅ、大事な話してるのに。キナ、大丈夫?」
キナ「え、えぇ。でもこの前村の人たちが話していたことは本当なのね。」
アルド「村の人たち?」
キナ「えぇ、水を汲みに村の近くに行った時に耳にしたのですが、最近魔物が多く出没していて村の近くをうろついてるらしいんです。村を襲撃した魔女が力を取り戻しつつあるんじゃないかって。」
アルド「そんな!大変だ!」
エイミは何かを思いついてキナの両手を掴んだ。
エイミ「魔女に話を聞きに行きましょう。」
キナ「魔女に!?しょ、正気ですか、、、。」
エイミ「もちろん。シーカが魔女に何を言ったのか、それを聞かないとあなたは一生彼のこと心から信じることができないんじゃない?一緒に行こう!」
キナは不安そうな顔をしていたが、エイミの手を握り返し力強く握り返した。
アルド「わかった!行こう、魔女の棲む森へ。」
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