第拾七階層 悪魔憑依

俺の後ろでは、何やら喚きながら追いかけてきている。残念ながらどんどん近づいてくるのがわかる。なんせこのダンジョンは洞窟みたいになっているので声が響く。


「キーキャーーキャーーキャッキャッキャー」

笑っているのか叫んでいるのか分からないが耳障りで嫌な声だ。



「はぁはぁ、あ、あるじー、はぁ、はぁ、もっと優しく・・・。」

雑に抱きかかえているせいかソフィアの息も荒い。


「こんな時に紛らわしい事を紛らわしい風に言ってんじゃないっ!!」

仕方ないのは分かるがこんな危機的場面でそんな事は言わないで欲しい。


その直後、俺の肩に衝撃と痛みが走ったことで歩みを緩めてしまった。

そして、目の前には真っ赤なゴブリンソルジャーがニタニタと笑っていた。


くそぉ・・・、追いつかれたんじゃなくてまさか追い越された。

肩を視界の端で見てみるとレンタル防具がぱっくりと切れていて傷口から血が流れている、遅れてジンジンと肩の痛みがくる。

ソフィアの抱えている方じゃなかったのでソフィアに怪我がなかったのが不幸中の幸いか、ゆっくりとソフィアを下ろす。


相手を観察してみると見た目はゴブリンソルジャーに似ているが色は赤い、大きさはさほど変わらないが自身の身の丈ほどの巨大な鎌を肩に担いでいる。

講習で聞いていた稀に出るっていうレアモンスターか・・・。くっそっ・・・、本来なら出会いたくもないし、戦いたくもない、だが逃げたくても相手の方が速いので逃げれない。


戦うにしても既に負傷している俺には手に余りそうなので、早速ソフィア頼みか・・・。


「ソフィア、俺の血飲んで良いぞ。アイツを倒してくれ。」


「いただき・・・、じゃなくてショウチした。」

ガブリと首筋にかぶりついてくる、いや傷口があるんだからそこから飲んで欲しいんだけど・・・。


赤いゴブリンは余裕なのかニタニタしたままこちらを見続けている。


数秒後ソフィアが俺から離れ黒い霧に包まれる。

目の前にはオーガの時と同じぐらい、大体中学生程度まで成長したソフィアが立っている。まだ見慣れない身体と顔に少しドキリとするのは欲求不満なのか自分に少しがっかりする。


「散れっ!」

美幼女から美少女になったソフィアが手を振るう。


次の瞬間、赤いゴブリンが消えた。先ほどまでいた場所から突然移動して、巨大な鎌を大きく振りかぶりソフィアの頭上にいる。咄嗟にソフィアを俺の方へ引き戻し、間一髪鎌を避ける。巨大な鎌がさっきまでソフィアが立っていた地面に突き刺さる。


一瞬動きが止まったので、赤いゴブリン目掛けてこん棒を叩きつけようとしたが、ひょいっとバックステップで簡単に避けられた。


既に小さくなっているソフィアは驚いた表情だが悔しそうだ。何せオーガを一撃で倒せるぐらいの協力な魔法を避けられたんだから仕方ない。


ソフィアにもう一度血を飲ませて魔法を放ってもいいが、次も避けられると厳しい。俺の血も一日に何回も吸われると厳しい。


ここは悪魔憑依っていうのに賭けるか・・・。

悪魔をイメージする。出来る限り負の感情を胸に秘める。会社の上司や後輩を思い出す。思い出しただけでもイライラする。


「悪魔憑依」

つぶやくとソフィアが黒い霧になり、そして俺の周囲に集まってくる。



「あるじっ、まだココロのジュンビが・・・、いきなりガッタイするなんて、ヤサしくシて。」

俺の脳内にソフィアの色っぽい声が聞こえる。俺にしか聞こえないからいいけどまだ戦闘中なので勘弁してほしい。いったい今の状況がなんなのか分からないが、悪魔召喚しかり悪魔憑依も俺の常識なんてものはアテにならない事が多すぎる。


そして視界の霧が晴れる。力が漲ってくる。そして目の前の赤いゴブリンを見ると衝動的に壊したくなってきた。視界は赤くなり欲望が沸き上がる。欲望が俺に壊せ壊せと囁きかける。


ふと、赤いゴブリンが先ほどまでの余裕の表情が消え、こちらを睨んでいる。そして、跳躍し天井を蹴り壁を蹴ってこちらに向かってくる。不思議ださっき見たよりもえらく遅く見える。

全く見えなかった動きが今では細かく見えている。巨大な鎌を振り上げフェイントをかけて、狙いは俺の足元のようだ。

俺は赤いゴブリンへと一歩踏み込む、一瞬で間合いが詰まり赤いゴブリンは驚きの表情をする。そして俺はその表情目掛けて拳を叩き込んだ。



ドッパーンッ!



俺の拳が赤いゴブリンの顔面が触れ風船が割れたかのように爆散した。

どちゃりの首から下が地面に落ち、ゆっくりと光になっていく。そして俺は徐々に力が抜けていきその場にへたり込む。


ソフィアがいつの間にか俺のそばにいて恥ずかしそうにモジモジしている。

どうやら、あのソフィアでも悪魔憑依は恥ずかしいみたいだ・・・、理由は分からないが。合体という表現は止めるように釘はさしといたが誰かの前で言いそうで不安だ。

とりあえず、目の前転がっている赤く透き通った魔石を見ながらソフィアの頭を撫でつつ気持ちを落ち着かせた。

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