第拾壱階層 血と魔法 

「あるじーどうしたー?」


考えろ・・・。


「あるじー、血くれろ。そしたらあれぐらいのヤツならイッパツだー。」

足元でぴょんぴょん跳ねているソフィアにようやく気が付いた。


「ソフィアはアイツを倒せるのか?」


「あるじの血をいっぱいもらえればヤれるっ!だから血くれろー。」


「まあ、ありがとうな、元気付けてくれて・・・。」

優しくソフィアの頭を撫でてやる。こんないたいけな幼女に心配されては男が廃る。

ここは俺がビシっと決めないととこん棒を握りしめる。


「むぅー、あるじシンジてくれないのなら・・・。」

そう俯いて急に走り出した。


「ん?おい!?どこ行くんだぁー!!」


「おいっ!?そこのデカブツっー!!」

オーガに向かっていくソフィアこと幼女は見た目よりも速く、距離が思ったよりも縮まらない。

子供特有の高い声が響き、オーガがこちらに振り向く。


怖え・・。デカい上に顔めっちゃ怖え・・・。オーガ、まさに鬼や・・・。

ガクブルしそうになりながらもようやくソフィアを抱きかかえ、180度回れ右をする。


そして、走りだした。


そう、俺は逃げだした。


後ろでは、大きな足音が聞こえる。その足音で余計に恐怖心が煽られる。

足音でしか分からないが、どんどんと近づいてくる。ちらっと後ろを見るとオーガがさっきよりも近づいてきている。


「ひぃぃ――!!」

俺はさっきよりも死に物狂いで走る。もうこの命尽き果てるまで走り抜く気持ちだ。


「あるじーニげなくていいから、血くれろおぉー。」

俺の走っている振動で拙い会話がさらに拙くなっている。こんなかわいい子がかわいい声で話していても言っている内容はなかなか物騒だ。



もう、ここまでかぁ、ここはもうソフィアに賭けるしか・・・。そう思いつつも足は一生懸命動かせ続ける。


「もう、なんでも好きにしてくれ・・・。アイツを倒せるなら好きなだけ飲んでいいぞっ!」


幼女とは思えない邪悪な笑顔でニヤリと笑い。

俺の首筋にかぶりつく。


オーガは俺が走る速度を緩めていき、とうとう足を止めオーガに振り向く。もうコイツらはあきらめたと思っているのか余裕の表情で近づいてくる。

俺はもう走り疲れ、地面に倒れそうになりつつも肩で息をするだけで精いっぱいだ。

ただ、さっきから絶体絶命の危機で緊張しっぱなしなのだが、なんとも言えない快感だけが首筋から伝わり続けている。しかもなんだか次第に力も抜けてきた。



グゴォー!!


肌がピリつくような、大きな咆哮を上げオーガは拳を振り上げる。



「五月蠅いのぉー。」

いつの間にか俺が抱きかかえて、首筋に噛みついていたソフィアがいなくなってた。


俺の前には中学生ぐらいの女の子が立ち、オーガに立ちふさがる。

その子はソフィアと同じような格好で銀髪の綺麗な髪、そして背中には立派な蝙蝠の羽が付いていた。


ソフィアなのか・・・。

少し女性らしい身体つきが後ろからでも見てわかる。大胆に開かれた背中には綺麗な肌が、小さくが形のよいぷるんとしたお尻、そしてすらりと伸びた脚・・・。

血を吸われ過ぎたせいが、頭もぼんやりとしている。

ただただ、俺はそんな少し大人になっているソフィアを見る事しかできない・・。


「契約通り。主はそこで休んでて。」

大きくなったソフィアが優しく俺に声を掛ける。


「散れ。」

呟きながら片手を薙ぎ払うソフィア


オーガは振り上げた拳をソフィアに向かって振り下ろす。しかし、その拳がソフィアに当たることはなかった。


「っ!?」

拳を上げたまま、動かなくなったオーガ。

薄っすらと切り口から血が垂れはじめる、ズルりとオーガの顔がズレた。

そして、ダムが決壊したかのように勢いよく血を吹き出しバラバラとオーガが崩れていく。



「あるじー終わったよー。」

パタパタと嬉しそうに歩み寄ってくるソフィアに呆気に取られている。

先ほど、中学生ぐらいだった身体は、今では普段通りの幼女に戻っていた。


「あ、ありがとう。少し休んだら戻ろうか。」


「はーい、ツカれたからちょっとネムるねー。おやすみー。」

と、自由過ぎる行動で目を擦っている。


ソフィアが霧になり、俺へと向かってくると消えてなくなった。耳にチクりとした感覚があったので俺の右耳を触ると耳の上端だろうか、耳輪に何かイヤリングのような物が付いている。

何だろうと触ってみるが、金属のような感じだけどな・・・。


『あっ、、、あるじ、そんなところキュウにサワッちゃ、ダメ・・・。あっ・・ん。』

脳内に直接ソフィアの声が聞こえ、驚いてビクっとした。何が何やらどこから突っ込んで良いのか分からない。

「ご、ごめん、そんなつもりじゃなかったんだ。」


『あるじならもっとサワってもいいけど、やさしくしてね・・・。』


「いや、邪魔して悪かった。ゆっくり休んでくれ。」


『このカイショウナシっ!!』


そう言って、静かになった・・・。

何が何やらどこから考えて良いのか分からない。考えたところで答えが出るとも限らないしな・・・。

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