新人編

第一階層 辞表と自慢話

会社を辞めた翌朝



なんてすがすがしいんだろう。

朝がこんなにも清々しくて幸せだなんてっ!

生きててよかったーー!


と思えるのは最初の一週間だけでした。

その後は、自分の貯金の残高やら雀の涙の退職金に驚愕して急いで新人攻略者用のダンジョンへ向かう準備をする。


新人用のダンジョンは、マサとヒカルも一緒にいた。

マサはどうやら知人に先輩攻略者がいたようで、そこのチームに入ったみたいだ。

ヒカルは女性中心のチームに入ったようだ。


そして俺は・・・。


未だに一人でダンジョン攻略をしている。

かれこれこの新人用ダンジョンに来て2週間ほど経過した。


ゴブリンしか出現しないので、思ったほど難易度は高くない(と思っている)。

会社を辞めたおかげで無駄に力を籠める事もなくなり朝一から昼過ぎまでゴブリン狩りをして、

その後早めに帰宅。

その後家で筋トレという生活にも慣れてきた。


何よりも新人だとしても攻略者として、独身生活なら普通に食っていけそうだなと実感が湧いてきた。


今日は自分の一週間の頑張りを称えて、

ギルドに並列してある食堂で軽く飲んでから帰る予定である。

独身男の小さな楽しみである・・・。


生ビールでのどを潤してふぅ・・。

と静かに楽しんでいると掛け声と同時に隣の椅子に座ったのは先ほど知り合ったマサだ。


研修説明会でたまたま隣に座り、歳も近いこともありよく話をするようになった一人だ。

マサは身長180cmほどの大柄で元々はスポーツ関係の仕事をしていたそうだ。

大柄な体格と濃い顔立ちで、細かいことは気にしない性格も含めて色々と豪快な奴だ。


豪快でがさつな性格であるが最低限のマナーはあると信じている。

俺自身もそこまで人見知りしないのではほどほどに親しい仲になっている。


「リュウは今日の稼ぎはどんなもんよ?」

まだ返事もしていないのに、にやにやと上機嫌にマサが唐突に聞いてきた。


「まあ、3万ぐらいかな。マサはどんな感じ?」


「そんなもんかー?俺はだな、へっへっへ・・・」

鼻で笑いながら勿体ぶっているマサ。


「勿体ぶっていないで早く言えよな。」

聞いたわりには直ぐに言わない面倒な奴だなと思いつつも、いつもの自慢だろうと俺は思った。


「まあまあそんな顔するなって、俺は4万超えたぜ、お前ももっと頑張れよ!」

にぃと歯を見せて豪快に笑いながら、俺の背中をバンバン叩いている。


予想していた通りだった。

マサの分かり易い性格に呆れつつ背中の衝撃を我慢していた。


なかなかの強さで叩かれてるため若干痛みを感じていると、イケメン登場。


「マサさん、そんなに強く叩いてリュウさん痛がってますよ。」


そんな状況を助けてくれたのは優男の「ヒカル」だ。

彼の後ろには三人ほど女性がいて、きっとヒカルのチームメイトなのだろう。

俺らが男とわかって、ヒカルに挨拶するとどこかへ行ってしまった。


ヒカルは俺らと同い年なのだが童顔なので年下にしか見えない。

身長180cmほど、スタイルも抜群でイケメンだ。まあ、元モデルだったというのは納得できた。

性格も良いのでギルド関係者内でも既にファンクラブまであるそうだ。


「おう、ヒカルも戻ってたか、そっちはどうよ?」


マサの興味がヒカルに移り、俺への攻撃も中断され助かったと一息つく。


「そうですね、今日は少し調子が良かったですね。」

さわやかな笑顔を絶やさず、はぐらかした感じで返答しつつテーブルを挟んだ形で俺らの前に座った。


「誤魔化しやがって実際はどれぐらい稼いでんだよ、教えろよー、減るもんでもないしよ。」

ずいっとマサはヒカルに顔を近づけて問いただす。


「まあまあ、そうですね、今日は少し調子が良かったのでたしか4万ぐらいです。」

さすがに強面のおっさんに顔を近づかれ、押しに負けてしまったようだ。

ヤレヤレと言いたげに返答するヒカル。


「そうかそうか、調子が良かっただけかっ!俺と同じだな

 リュウも同い年で同じタイミングで研修を卒業したんだからもっと頑張れよな!」

その返答で満足したのか、がっはっはと豪快に笑いながら俺の背中をまたバンバンと叩きつつ、俺とヒカルに励ましにと自身の自慢の話を続けている。


俺の背中への攻撃は収まったが、次はマサの自慢話が収まらない、

たかがゴブリン相手にどれだけドラマチックな戦闘をしていたんだ?と思えるほど

壮絶なストーリーを話している。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る