肉と肉と時々よだれ

「さぁさぁ冷めないうちにめしあがれ!」




 その声を皮切りに椅子に座っているみんなが己の取皿を持ちながら肉へと手を伸ばす。


 みんな腹が減ってたのだろう、取った肉を喰らうなり無言になっている。




 おめー!それは取りすぎだろーが!!


 うるへー!!早いもん勝ちだぁ!!




 そうでも無かった。


 おお、いけねぇ。俺も取らねば無くなっちまう。




 肉の塊に次々と手を伸ばされる圧倒的な光景から我に帰り自分とシラタマの分の肉を得る為に彼等に続く。


 様々な調理方法の肉に分けられているがとりあえず全種類の肉を取りまくる。


 味わうのはとりあえず俺とシラタマの分を確保してからだっ。




「よしよし、とりあえず全種類取れた。ほれシラタマや、好きなのをお取り」




「ふにゅー!」




 頭から降りて食事モードへと切り替わったシラタマが嬉しそうに答える。


 箸を構えて万歳をする姿がとても和む。


 ああ、よだれが落ちてる。危ない所だった。




「どれどれ俺もこのローストビーフっぽいのを……」




 す、と箸で肉を持ち上げる。




「おお、旨そうな脂の輝き」




 普通では有り得ない、肉汁と脂を纏ったローストビーフ。


 厳密には牛では無い為、ビーフと言うには語弊があるがそれはこの際どうでもいいか。


 様々な調理方法がされてるが故の特製ソースとも言える肉汁が付いたソレを口の中へと放り込む。




「ぅん〜」




 柔らかい、そして広がる豊潤な香りは食欲を加速させる。




「うんまっ!これうんまっ!」




 様々な肉汁、調味料が混ざった特製ソースの塩気が程よく、脂っこい事は全く無く、飽きさせない素晴らしい味わいに仕上がっていた。




「ふにゅにゅ!にゅやや!!」




 なんか良く分からない言語をシラタマが発しているが美味いらしい。


 照り焼きのような肉を食べて興奮している。




「美味いか。どれどれ今度はこの燻製された方を……待て、あの短時間で何故燻製が…まぁ良いか」




 ここは異世界なのだ。常識は捨てるに限る。


 美味ければ良し。常識えいやっ。




 常識を放り投げて燻製された肉を口へと放り込む……んん、良い木の香りがまた素晴らしい。




「かー、こっちも美味いなぁ!なんの木の匂い何だろう?まさかあのトレントか?」




 あり得ないとは言えないな。


 トレントだとしてもやっぱり燻製は美味いな。




「姉貴!それは我の肉だぞ!!」




「早いもん勝ちだ愚弟め!変わりにこの酒をやろう」




「…仕方ない。許してやろう」





 うわヴィレットちょろい。ちょろすぎる。


 姉御の食ってる肉は何だろうか。鶏皮の盛り合わせに見えるな。




 おめー!その肉ばっか食ってんじゃねぇ!


 うるへー!この肉は俺んだ!


 バルムさ〜ん。僕達ケバブ食べたーい。


 あらヴェイロちゃん。良いわよー。ちょっと待っててねー!


 ランさん済まないが二人分頼めるか?


 はい、大丈夫ですよー。


 すまんがコレで一つ頼めるかね?


 わぁ、久しぶりに見ましたそのきのこ。ちょっとお待ち下さいねー。




「うーん、賑やか。声だけで分かる人が結構いるな〜」




 バルムさんの他にも一人来てるっぽいね。


 お手伝いさんかな?つーかケバブて。




「ふにゃ!ふにゃにゃっ!」




 おかわりを所望する!と言わんばかりに空っぽになった皿を持ち上げてシラタマが鳴いた。


 味わっていたらもう全部食われていて俺は泣いた。くぅ……!




「おのれいつの間に…」




「にゃっ!」




 はよっ、と鳴くシラタマ。おにょれ大喰らいめ…いやコイツの事言えんか。


 ああ、そうだ。




「折角飯作ってくれる人居るしなんか作ってもらうべ、なぁシラタマさんや」




「にゅややや!!」




 めしぃ!と言うかのように頭の上に空皿、右のおててに箸。

 そしてお目々を逆八の字にして叫んだ。




 凄みが全く無い。寧ろ可愛い。


 誰だコイツを連れて来たのは?俺だ。







 さてさて、親バカもかました所で屋台?の前にやって来ました。




「飯を所望する。肉を山盛りだ」




「にゅやー!」




 両手を広げて右手に箸を構えながら良い声で頼む。


 シラタマも全く同じポーズだ。


 よこせー!と言ってる事は何となく伝わるだろう。




「あらカナタちゃんいらっしゃい。モートンのお肉はお気に召して?」





 すぱぱぱっと手際良く調理しながらバルムさんが答えた。


 この姿にスルーとは…こやつ…できる。




「美味かったが殆どがこの毛玉の腹の中である。我肉を所望する」




「にゅやっ!」




「おめーが一番食ってたろうが。ていっ」




「ふにゅあぁ〜」




 軽〜くでこぴん。目を細めながらうああ〜とふよふよ揺れる。


 全く効いてないだろうが良い反応をしてくれた。


 分かってやがる、可愛い奴め。




「美味かったなら良かったわ〜。はい、コレ食べて少し待っててね〜」




 かたん、と置かれる何かが盛り合わされたお皿。


 肉ときのこの盛り合わせ…かな?




「安心きのことお肉のニンニク醤油バター和えよ〜」




 やだ絶対美味しいに決まってるじゃない。


 そして渡したのはヴァサーゴさんだな。声聞こえたし。




「見つけたのはカナタちゃん達でしょ?ヴァサーゴさんから聞いたわよぉ?あたし達も久しぶりに見させてもらったからサービスしちゃう♪」




「あざぁーっす!まてシラタマよだれを垂らすんじゃないぞ」




「…!…じゅるっ」




 危ない所だった。このきのこはコイツの好物だからな。


 もう少し遅ければ生暖かい液体が顔面を伝う所だ。


 危ねぇ危ねぇ。




 とりあえず食い尽くされる前に俺も頂くとしよう。


 肉と薄切りにされたきのこを一緒に口の中へぽい。




「…う〜ん、分かっていたけどコイツは美味い」




 ガツンとくるニンニクとバター醤油の香りに肉の程良い脂身が出す甘味と香り。


 肉は柔らかく、きのこはもきゅもきゅとして良い歯応え。


 これは一瞬でシラタマに食い尽くされる味だ…今のうちに堪能しなくては。




「にゅやや!!ふんにゅ!ふんにゅ!」




「あだだだ!おめーさっき肉全部食ったろ!この飯は少しぐらい食わせろ!」




 講義の声を上げながら俺の髪を引っ張るシラタマ。


 ぐおお!もう少し!負けるか!




「喧嘩しないの。はいお待ちどうさま!モートンの炭火焼き盛り合わせよぉ♪」




「「わーい(ふにゅー)」」




 いかん、俺達もちょろすぎる。


 ヴィレットの事言えねーわこれ。




────────────

カナタ


「肉うめー」




シラタマ


「にゅやー」




バルム




「良い笑顔してくれるわぁ。ねぇ?」



???



「いやあの僕はその…えへへ」

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