料理人〝バルム〟

「うわ来やがった」




 ぼそりとヴィレットが嫌そうに溢した。


 どれどれとその人物へと己の目をちらり。




「来やがったとは何よ来やがったとは。失礼ね」




 もー、と彼は頬を膨らませ、不満気に両腕を腰にやった。




 俺の目の前に見えるこの人物…そうだな、とりあえずインパクトすげぇんだが?




 全体の色は黒。白すぎる地肌の上に黒いワイシャツとスラックス。


 しかし、ベルトや黒い革靴などの装飾が桃色で彩られており、その独特な………いわゆるオネェ言葉も相まって凄まじいインパクトが脳に刻まれる。


 だがしかしその者は男前であり、黒いウルフヘアの刈り込まれたサイドがハート状のラインで書かれていようが関係無く似合っていた。




 顎髭もまた似合ってやがる…ちくせう、童顔の俺には到底到達出来ないモノをぉおおお!


 にしても白くね?俺の肌も白すぎるとは良く言われるけどそれより白い。




「バルム殿。お久しぶりです。遥々王都からよくぞいらっしゃいました」




「メシだけ黙って作ってろお前はこっちくんな」




 露骨かよ。と口には出さずに突っ込んでおく。




 綺麗に礼をするヴォルグとは対称にヴィレットは手を払いながら心底嫌そうに突っぱねた。




 ヴォルグは流石紳士だな。慣れもあるんだろうけど。


 ヴィレットに至っては…そーとー嫌なんだろうなー。


 それでもメシは要求する辺り『らしい』といっちゃあ『らしい』けど。




「あーらレトちゃん、アナタのご飯だけ鼻によっっく効く特製香辛料たっぷり入れた物にしても良いのよ?ヴォルグちゃんもお久しぶり、所でその見慣れない顔はどなた?」




 特徴的な高いような低いような声で彼はそう返事を返した。


 腕を組みながら右手を顎にそえるその姿はまさに女性のソレ。


 だがしかしがっちりとした肩幅、捲り上げられた腕から見える確かな筋肉は確かに彼を男だと主張していた。




 女性だったら大変艶(なまめ)かしいポーズなんだろうなー


 男前がやってるから唯のカッコ良く似合うポーズでしかないんだがな。


 ヴィレットが「うぐっ」とか言っているけど気のせいだな。たっぷりとジト目しといてやろう。じとー。




「ああ、彼はカナタ。訳あってここで修行をしている異世界人だよ。アル先生の所から来ている、人格はお墨付きだ」




「あ、どもカナタです」




 ヴォルグの声にすかさず頭をぺこり。


 はっ!つい条件反射で普通に挨拶を。悲しき俺の性格の定めぇ…




 などと自分の事を軽く責めているとにっこりと彼は笑いながらぱちん、と手を合わせた。




「あらやだ!アルちゃんの所からなの!?」



 ずびゅんと効果音がなりそうな勢いで彼が近づいて俺の手を取ってぶんぶんと握りしめた。




───は、早い。




「やだそうなら早く言ってよぉ!あたしはバルム。しがない移動式屋台の店長よ!アルちゃんとは古い中なのよ!」




 あうあう、振る手が強い。ぶんぶんいってるがな。あうあう。




 普通の人なら取れてしまうんじゃないかと思うほどに手を上下に振られ、両腕がその急激な加速により痺れがやって来ていた。




「あー、良かった。異世界人って聞いちゃったから少し不安だったけどアルちゃんのお墨付きなら安心だわ。さ、こっちにいらっしゃい!御馳走を振る舞うわ!」




 手を離してはほっとしたかのように胸を抑えるなりくるりと踵(きびす)を返して俺達を呼んだ。




 うーん、良い人っぽいなー。


 そしてここでもアルの全面的信頼。


 悪い事出来ませんなー…まぁしないし、しようとも思わないけど。


 ああ、おててがびりびり。




「良くやったカナタ。褒めて遣わす」




「何様だボケィ。香辛料入れてもらえお前」




「あーあー二人共とりあえず行きますよ」




「「うぃー」」




(((((仲良いなやっぱ)))))





 何故だ。またみんなの目が生暖かい。何故だ。







「おー、お前ら来たかー。先食ってんぞー」




 数ある大きな四角いテーブルの一つに座っているのは姉御だった。


 その近くのテーブルには子供達が仲良く美味しそうにご飯を食べてる。


 一緒に遊んでたんかな?




「狩りはどうだったよカナタ」




 むぃー…ぶちんと骨付き肉を噛みちぎりながら姉御が聞いてくる。


 わー、旨そうなお肉。俺も食いたい。




「狩り自体は無事に終わったんだがな姉貴…カナタの奴が……いや、これは後にしよう。バルム、狩ってきたモートンを何匹か使って飯を頼む。血抜きは済んである」




「あら良いの?じゃあすぐに用意するわ」




 お、流石ヴィレット。飯には礼儀があるようだ。


 俺がおぼろろした事はここでは言わないでくれるらしい。


 てかモートンって言うのかあの生き物。




「あっはっは、何となく察したけど後で改めて聞くよ。ああ、そうだカナタ。あんたの教えてくれた玩具は子ども達の相手をするのに助かったよ。なー?アンタ達ー?」




「「「「楽しかったー!」」」」




 カラカラと相変わらずの素敵な笑顔をしながら姉御は向こうでご飯を食べてる子ども達に手をやった。


それに気付いて万歳してる子ども達がとても可愛らしい。




 流石姉御、なんかを察したようだ。ありがたい。


 うーんと?確かヴァルカンさんが試作品として作ってきてくれたのはブーメランだけだった気が……




「ブーメランだけで子ども達満足できました?あれの他に作ったもう一つの玩具の方が人気あったんですが」




「ああ、3つ程纏(まと)めて動かして遊んでやったからな。ありゃあ良い修行になるよ、はははっ」




 流石姉御、その手があったか。


 というか姉御しかその遊び方出来ねぇわ。大道芸かよ。




「はぁ〜いおまちどー!モートンの肉々造りよー!」




 どん、とバルムさんが元の姿を丸々模した生け作りならぬ焼き造りが乗ったバカでかい皿をテーブルに置く。


 香ばしい匂いと食欲をそそる油のぱちぱちと弾ける音が耳へと届く。




 え、もう出来たの?




「作るのはっや」




「あったりまえよぉ?あたしには高々数十人程なんて寝癖直すより簡単よ。1000人ぐらいならあたしだけで賄(まかな)えるわ」




 当然よとばかりに胸を張るバルムさん。


 バルムさんの言葉で頭のピースがカチリとハマった。



 あっ、アルが言ってた料理教えてもらったっていう友人ってバルムさんの事か!




────────────

カナタ


「アルの所にいた事が最早懐かしいなシラタマや。まて、よだれを垂らすなよ?」




シラタマ


「じゅる」




ヴィレット


「さっさとメシ置いてどっか行け」




ヴォルグ


「姉御、うちの子の相手までありがとうございます」




ヴァネッサ



「良いの良いの。子どもは遊ぶのが仕事さ。はっはっは!」

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