いとかおす




 こちらカナタ、ただ今死んだ目で狩り場へと移動中。


 何で移動か?ばかもの、自らの足で走ってに決まっているじゃないか、はっはっは。


 …おかしいな、こんなにも良い天気なのになぜ俺は飢(う)えた狼に囲まれているのだろう。


 ふはは、我ながら美味い事を思ってしまった。


 おらおら、獲物(えもの)にとっての死神の軍勢ぞー。ふははははは。




───と、思考を逃避しようがこれは現実なのだ。実に無常。


 首すじにひっしと捕まるシラタマだけが今の俺を辛うじて支えている。


 いえあもふもふ、ちょっとこそばゆい。




「にゅ?」




「ぬ?」




 やけくそに成りかけた思考をしていると目に優しい色合いの二人組が走りながら近づいてきていた。




「おーカナタさーん。やっほー」




 間伸びしたのほんとした口調に額にある菱形のような白い模様。


 そしてお目々に優しい翡翠色の体毛とくればあの人しか居なかった。





「おお、ヴェイロさん何時ぞやぶりで」




「オイラも居るぜー」




「ヴェイールさんもお元気そうで」




 腕の流線模様が特徴的なおんなじ翡翠色の体毛をしたヴェイールさんも俺の横に並んでくれていた。


 あー、少し心が落ち着いた。


 見知った顔がいるのは助かる。




「オイラ達に『さん』はいらねぇよカナタ。…おいおい顔が死んでんぞ大丈夫か」




「死にもするわー折角喰える食べ物が毒だったらどう思う?」




「あー把握。まぁ、安心しろよカナタ。戦士長もいるしオイラ達もいるから」




「怪我うんぬんやバックアップは任せといてよ〜」




 有難や。まぁ、この結果になったのは俺のせいでもある訳だし受け入れるかね。


 敬語を手早く捨てて話す俺だが、初対面は年齢関係なく使ってしまう癖があったりする。


 まぁ、戦闘は任せて投げ方を教えればいいだろう。




「二人とも有難き…平和に終わりますように」




 この時俺はまだ気付いてすらいなかった。


 『狩り』という言葉とはどういう意味かというのを。




………一方姉御ことヴァネッサはというと………




「ん?なんだいヴァルカンのおっちゃん。そのアタシの武器に似た物は?」




「カナタが教えてくれた玩具だよ。やり方はなぁ……」




「……ふーん。なるほどねぇ…ちょっと貸してみせておくれ」




「お前3つも───」




「あははは!なるほどこりゃあ良いや!面白いし良いコントロールの修行になるねぇ!」




「あーっ!おねぇちゃん!ぼくたちもあそぶー!!」




「いいよ〜ほら取ってみな!」




「「「まてまてー!!!」」」




「…流石ヴァネッサだぁ…3つも能力で操ってやがる」




───子ども達と楽しく遊んでいた。







「───で、これの使い方だがカナタよ」




「こう持ってこうぶん投げる。…とりあえず投げてみればいいんじゃない?投げる力によって飛距離変わるし」




「適当かお前。…まぁ我が投げてみるとしよう───フンッ」




───ブォオオオオオオオスパッ




 狩りとは即(すなわ)ち、命を奪う事。


 つまり───




「あらー凄い斬れ味。平和そうに草を食べてる牛みたいな生き物のお腹が裂けて臓物がおろろろろろろろろろろろろろ!!!」




 生々しい物を初めてみる俺、盛大にリバース。




「うわー!カナタが吐いたー!!」




「馬鹿!?ここで吐くんじゃ───」




「戦士長!余所見しては───」




 ヒュヒュヒュスカンッ




「───ぐおおああっ!!」




「帰ってきたブーメランが戦士長の後頭部に刺さったー!!!」




「「医療班ー!!大至急!!!!!」」




───とてもカオスな事になっていた。







「───で、様子を見に来てみたらこの有様───という訳か」




「ずばないヴォルグ。俺が耐性ないばっがりに…ゲホっ」




「ほれ」




「おぼろろろろろろろろろろ!」




「ぐはははっ!!不甲斐ない男だなカナタよ!!臓物程度がぶち撒かれた程度で吐くとは!!」




「戦士長───動くと血がまた吹き出ますよ。オイラ達が居て正解だったなぁ…」




「───ゲッホゲホ、くぬぅ、おのれヴィレット。そのツラぶん殴っ───」




「ほい」




「てろろろろらろろろ!!」




「ぐははははははっ!!!───あっ、傷が」




 ぶしゅうっ




「「カナター!!!戦士長ーーー!!!」」




───この後無事獲物を狩って帰りましたとさ。







「おう、ヴィレット。村着いたら覚えとけよ。その治った頭を重点的にぶん殴ってやる」




「受けてたとう───が、しかし」




「「腹が減った」」




((((なんだかんだで仲良いよなぁ…この二人……))))





 なんだかみんなの目が生暖かい気がする。


 気のせいだと思い込もう。


 お腹が減って力がでない。おっといかんいかん。




「おお、みんなご苦労様。丁度いい時に来たな。『アイツ等』が来てるぞ」




「腹も減ってんだろ?行けば分かるさ」

 



 ニィと良い笑顔で門番の二人はそう言った。


 『アイツ等』?行けばわかるとな?




「───ああ…忘れてたな。もうそんな時期か」




「ああ、そういえば時期的に今日ぐらいでしたね戦士長」




 おお、もうそんな時期か。


 病やら宴やらで忘れてたぜ。


 助かった!腹減って堪んなかったんだ!




 やんややんやと嬉しそうに沸くみんな。


 俺以外のみんなは何か知ってるみたいね。


 うーん、この疎外感、いと寂し。




「ううぬ。『アイツ等』かぁ…腕は確かなんだがな……」




「戦士長は彼が苦手でしたね。そろそろ慣れては?」




「メシだけ寄越せと言いたい。我にはあの手の人種はどうも不得意だ。───ああ、見えて来た」




 ぐあっしぐあっしと、ヴィレットがすっかり治った頭を心底嫌そうに掻くと何やらとても良い匂いと見慣れない馬車のような物が前方に見えてくる。




「ふにゅう〜♪」




「あー、美味そうな匂い。なんぞなんぞ?屋台?」




 がやがやとしてきたその屋台馬車?のような周りには簡易的なテーブルと椅子があちこちに並び、村のみんなが賑わっていた。


 みんなの前、手元には様々な料理が並んでいる。



 そんな状況の中、一人の人物がこちらへと気づき近寄って来た。




「あら?懐かしい顔と初めている顔がいるわねぇ?」




 この出会いがとても長い付き合いになる事をまだ俺は知らない。




────────────

カナタ


「あっ、あいつすっげぇ嫌そう顔してやがる」




シラタマ


「ふにゅん?」




ヴィレット


「……ヴォルグ後は任せた」




ヴォルグ


「諦めて下さい戦士長」




ヴェイロ・ヴェイール含むみんな


「「「「「戦士長を逃すな」」」」」

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