流石職人




「…ぜぇ…はぁ…しぬー、勘弁してくりー」




「もっかい!もっかい!」




「こんどあたしとるのー!」




「いやいやボクとるの。渡さないの」




「子ども達ー夕飯だぞー」




「「「「はーい!」」」」




「…姉御…ッ!…あなたが…ッ!輝いて見える……ッ!!!」




「おおぅ。お疲れカナタ。恥ずかしいから普通にしな」




「はばぁーい…」







「うーん…いやぁ、昨日は子ども達の体力を舐めてたな…うぬおお……」




「ふにゅぅうう……」




 頭に乗ったシラタマと共にぐいーんと伸びを一つ。


 まさかあそこまで終始元気だとは思わなかった。


 結構頑丈に作った筈の玩具二つも既にボロボロである。


 ブーメランは計三つ作ったが人気があったのはエックスジャイロの方だった。


 木の皮で作った簡易的な物だった為、筒……とは言い得ない物になっていた。


 穴あき、所々が欠けーのぼろっかす。




「1日遊んでコレだもんなぁ……」




 すっかりボロっちくなってしまったソレをひょいと持ち上げる。


 シラタマがぐってりしてた理由が身をもって良く分かった。


 ヴァサーゴさんが言っていた事も。




「プラスチックでもあればもっと丈夫なのが出来るだろうけど……まぁ、無理だろ」




 石油を繊維にする技術がこの世界に定着してる筈はないだろうし……いや待てよ【それ以上】の素材があれば───




「あだっ」




「にゅ!?」




 考え事をしている俺の後頭部に軽い衝撃が走り、ぱこんと良い音が鳴った。


 その突然の事にシラタマがびくりと震える。


 痛くはないけど気持ち、痛い。なにごと。




「ぶははは!見事命中ってか?」




「ヴァルカンさんじゃないすか。一体何を投げて───エ、エックスジャイロ!?」




 そこまで痛くは無い後頭部をさすりながら足元を見てみるとそこには綺麗な琥珀色をした、半透明の筒があった。


 側面には斜めの溝が薄く彫られており、片側のみ薄緑色をした少しの鉄枠が嵌め込まれている。


 俺が試作した物とは比べ物にならない程の立派なエックスジャイロがそこには転がっていた。




「どうよ、あんちゃんが持って来てくれたトレントの樹液を加工して作ってみたソイツは?」




「はぁ〜良く1日で出来ましたねこれ。軽さも丈夫さも程よいですし俺の理想通りですよ」




「ぶははは!あんちゃんがトレントを狩って来たお陰だがな!そう褒められると職人冥利に尽きるぜ!」




 豪快に笑うヴァルカンさん。




 あのトレントからこんな樹液が取れるのか。


 プラスチックよりも肌触りが良いし温かみがある。


 前の世界にこんなのがあれば革命的な物になるんだろうなこりゃ。




「鉄枠は魔鉄鋼(まてっこう)で作ってある。取り敢えずソイツは水属性の魔力を練り込んで弾性を付けといた。ガキ共の玩具にゃあぴったりだろ」




「【魔鉄鋼】?」




 これまた知らない用語が出て来た。


 名前と説明から予想するに魔力で加工出来るみたい。




「あん?見た事ねぇのかあんちゃん?アル先生とっから来たんだろ?あそこは魔鉄鋼の採掘場所でもあるぜ?」




 なんだと。……ああ、そういえばアルと会う前に有り得ない材質で出来たドアを見てたな。アレか。




「ああ、見てましたわ。湿気のある洞窟で風化もせず、錆びもしないドアが有りましたもん」




「ああ、そのドアが魔鉄鋼製で間違いねぇ。ちなみにヴァネッサの武器にも使われてるぜ。───で、コイツが」




 ───がしゃん。と乱雑に置かれたのは大量のブーメランとエックスジャイロだった。


 え、どっから?




「大人用の試作品だ。で、頼みがあるんだがコイツをよ」




 がしっ。


 ヴァルカンさんが話し終わるのを見計らったかのように誰かが肩を組んで来た。


 ───あっ、やな予感。




「我率いる部隊と一緒に狩りに行くぞと言う訳だカナタよ」




 ───わー、凶暴な笑顔ー。




 がっしりと肩を組んだのはヴィレットだった。


 そしてヴィレットと組手をよくやられてる面々達。


 みんなギラリと凶暴な牙が光り、とても恐ろしい。




「つーわけでよろしく頼むあんちゃん。なぁに心配ねぇさ。ぶはははっ!オメェらよろしく頼むぞぉ!」




「「「おおおおお!!!」」」




 えっ、死ぬん俺?




「ふにゅー」



 がんばろーとぺしぺしとおでこを叩くシラタマ。

 

 とほほのほ。まぁこれも経験という事か。







 所変わってとある道端。


 大きく、風変わりな荷馬車に乗る二つの影があった。


 荷馬車…と言うには少し違うだろうか、後方は屋台のような作りでありながらその半分は馬車のような形をしている。


 さながら移動式の出店のようなものだろう。


 そしてそれを引くのは一体の大きな黒馬…いや確かに馬の見た目をしているが脚は【八本】。


 スレイプニルと言われる幻獣であり、その力強い脚は自分よりも大きな荷を感じさせない、軽やかな音を立てながら道中を引いていた。




「はー…平和ですねぇ店長。天候も穏やかで僕眠くなって来ました」




 くああと大きな欠伸(あくび)を一つするその男長い舌をぴろんと出して元から薄い目をより細める。


 男を覆うものは鮮やかな翡翠の鱗。


 彼は【リザードマン】と呼ばれる亜人種であった。




「そうねぇ…ネッサちゃんの村まであと数時間だから何事も無ければ良いわねぇ……」




 それに答えるのは黒いウルフヘアをした男前。


 サイドはハートのラインで刈り込まれ、服装は黒を基準にピンクの装飾が少し。


 人種としては白過ぎる白磁のような肌が彼も亜人種だと言う事が分かる。


 側(はた)から見たら口調も合わせて随分とキワモノにしか見えないだろう。


 まぁ、既にこの亜人種の組み合わせの時点でキワモノなのだが。




「ランちゃん中で寝てても良いわよ。ゲールちゃん居るから魔物には心配しなくていいから」




 ね、ゲールちゃんと呼ばれたスレイプニルは小さく唸って返す。


 幻獣ならばその気配で多少の魔物は寄って来ない。


 また馬とは比較にならない程の身体能力は想像よりも遥かに遠い距離を走り続ける事が出来る。




「うーん、それじゃあお言葉に甘えて休ませてもらいますねぇ…いやーこの天気は種族柄心地良くて……」




「良いの良いの。ランちゃんは優秀だしいずれこの店を継いで貰うからね」




「起きたら変わりますねぇ…店長も無理はしないで下さいねー」




 きぃ、と中へと通じる真後ろのドアを開けて彼は眠そうにしながらこう続けた。




「いくら【悪魔族】でもね。疲れはするんですから」




「あら、それは言わない約束でしょ?早くおやすみ」




「はぁい」




 物語の歯車は確かに進んでいる。


 ゆっくりと、だが確かに。



────────────

カナタ


「あー良い天気だなー。はっはっは、これこれシラタマ何故に頭を叩く」




シラタマ


「にゅ!にゅ!にゅ!」

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