村で不足しているモノ

「ふにゅにゅにゅ〜」




 上機嫌に鳴き声を出すシラタマ。


 風呂上がりの為、拭き取りも兼ねてタオルで捏ねくり回す。


 この工程……まるで熱い餅を纏めてるかのようだ。熱くないけど。


 ドライヤーほしー…まぁ、ある程度はコイツ自身の体温で乾くだろ。


 地面跳ねてても汚れないクセに濡れるとはどうなってるんだろうか。




「まぁ、こんなもんでいいだろ」




「ほにゅ〜…」




 あぁ、気持ち良かったーとばかりに目を細めてシラタマがほよーんとしている。


 うむ、ならば俺の番だろう。




「シラタマ、今度は俺も頼む」




 ごろりと座敷にうつ伏せで寝っ転がる。


 畳の上に寝っ転がるのっていいよね。




「ふにゅ!」




 任せろ!とおててを万歳させると、よしよじと背中へと登ってくる。


 うちの子が可愛い。親バカまっしぐらなう。


 自分が気に入って相手が好意的だととことん気を許してしまうのは俺の悪い癖でもある。


 人間相手には気を付けていかねばなるまい。


 動物はともかく魔物はどう───




「にゅっ、にゅっ、にゅっ!」




 懸命に重量魔法を駆使しながら背中をマッサージする毛玉を見てその予想は吹っ飛んだ。




───うん、人間だけ気にかけとけば良さそうだ。こんな賢明な奴なら騙されてもいいや。




 気持ち良くて和むというダブルの癒しに微睡(まどろ)む俺であった。







「所でカナタ殿。手先は器用な方かね?」




 突然俺に尋ねてくるのはヴァサーゴさんである。


 さて、今日はなんのトレーニングにするかと思っていた俺にそう聞いてきた。




「〜ぬぅお…どしました?何か問題でも?」




 ストレッチの途中だったので背伸びをひとつしてから答えてしまったが大丈夫だろう。


 シラタマや、お前のそれは背伸びなのか?


 万歳にしか見えないぞ。顔だけは頑張ってるが。顔だけは。




「ああ、それ程大それた物ではないのだ。少しアイデアを貰えればと思ってな」




 アイデア?……この一般人でありこの世界ではひよっこ同然の俺に一体何のアイデアを求めているのだろうか……




「…役に立つか分かりませんが俺で良かったら大丈夫ですよ」




 自分の評価を低く見積りながら答える俺だったがその心配は無用だった事を後に知る。




「聞いてからでも構わんよ。この村の子供たちの遊びはしっているかね」




「あーっと、基本駆けっことかですよね?最近はコイツがおもちゃになってますけど」



 ぽりぽりと頭をかいて子ども達の遊びを思い出す。


 そういえば玩具で遊んでいるところを見た事が無い気がする。


 姉御は相手してくれるだろうがいつもって訳じゃないだろうし。


 ヴィレットはやらんだろうな、間違い無い。




「ふにゅへ〜…」




 揉みくちゃ状態を思い出したのかシラタマが頭の上でへんにょりと力無く鳴く。


 お前はあんだけやられても文句言わんし怒らんから偉いよ。


 少し爪の垢をヴィレットに……コイツ爪無かったわ。




「そこなのだ。ここは王都から遠い上に我らではすぐ壊れてしまってな……」




 ああ、成る程。獣人の力だとすぐ壊れる上に補給が追いつかないのか。


 獣人だと子どもでも体力が半端じゃないし力もあるからな。




「つまり異世界から来た俺に何か考えはないかと」




「うむ。我らだと知識より体力バカでな。私の考えだとすぐに修行のようなものになってしまう」




 ええ、凄く分かりやすい例が居ますもんね。


 ふーむ、玩具か……シラタマをいつまでも玩具扱いにさせるのはあんまりだし……あ、丁度良いのあるやん。




「ならブーメランとエックスジャイロはどうでしょう?」




「ふむ?それはどのような物なのだ?」




「ええとですね───」







「まぁ、簡単に作るとこんなもんか」




 ぽりぽりと頬をかいて手にした二つの物を見る。


 そこには竹を加工した板を十字に合わせ、丈夫な蔓(つた)で固定して出来たブーメランが一つ。


 薄い木の皮を短い筒状にし、片側の淵(ふち)に重り変わりに鉛(なまり)を薄く塗って加工したエックスジャイロがあった。


 鉛や道具は村の鍛治師から拝借した。


 ブーメランは火と水でしならせ、曲げて同方向に逸(そ)らせてある。


 器具なんて物で曲げてはいない、脳筋なので全て手作業である。びば脳筋。




「器用にけったいなもん作るねぇあんちゃん」




 燃えるような赤い毛並みをしたガタイの良い牙狼族の男がそう零した。


 この人が鉛もろもろを貸してくれた村の鍛治師であり、ドワーフとアルから技術を学んだ人でもある。


 名前はヴァルカン。


 そんな名前の鍛治の神居なかった?気の所為?


 鍛治師は気が難しい人や頑固な人が多いがヴァルカンさんはガタイに寄らず気の良いおっちゃんであった。


 鉛や道具を拝借する時も二つ返事で了承してくれたし、なんなら俺がやる事に興味があるらしく協力してくれるらしい。




「一つは狩猟具でもあるしヴァネッサの魔道具とも似てるがその筒はなんだい?初めてみらぁ」




 鍛治で自ずと鍛えられたであろう逞しい腕を組みながらしげしげと俺の持つ物を見てそう言った。


 流石鍛治師。ブーメランは分かるみたい。


 姉御を呼び捨てで呼んでる辺りから関係が分かりますな。




「見たほうが早いっすねー。ちょいとやってみせますわ」




 どんなもんか俺も仕上がり見たいし。


 懸念の一つとしては俺がぶっ壊さない程度の力で投げないとな。


 気を付けよう。




────────────

カナタ


「俺が投げてぶっ壊れなけりゃ御(おん)の字でしょう。なぁシラタ───寝てやがる」




シラタマ


「……すよすよ」

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