朝ごはんよー
「では頂きます」
「ふにゃっ」
合掌をぱちんと一つ。シラタマやちょいと待っておれよ。
用意されたおたまを拝借してささっと器によそう。
「ほいシラタマの分」
「ふにゃー♪」
「ちょいと待ってなシラタマ。お前卵割れんだろ」
「に゛ゅっ…」
箸を両手に万歳して嬉しそうにしてたシラタマが俺の言葉に固まる。
お前そのもふもふのぼでーでどうやって割ろうというのか。
その内に自分のもささっとよそっていく。
おっほ、良い肉の輝き。このきのこにも肉の脂が付いててめちゃくちゃ美味そうだ。
「あっくそ。殻が入りやがった」
「レト、あんたやっぱり不器用だね。人化も早く覚えな」
俺がよそってる間にヴィレットと姉御の二人は卵を割っている様だ。
慣れていないのか、ヴィレットは砕けた殻の破片を取るのに苦戦している。
箸で摘めずにもたもたと。
「姉貴、能力(それ)で割るのはズルくねぇか?」
ふわーりと卵を器の上 の浮かばせてぱかーりと割る姉御。
便利だなぁ。そこまで器用にやるのは相当難しそうだし。
ちなみにヴァサーゴさんなんかは罅(ひび)を指で入れて片手で割っていた。
流石です。
「ふにゃっ!にゃっ!」
「ハイハイ卵ね」
シラタマに急かされながら卵を二つ手に取っておでこにばちこん。
「ほいよ卵だ。まぜまぜして食べ物を潜(くぐ)らせて食べるんだぞー」
両手に罅(ひび)の入った卵を俺とシラタマの器の上持って行って片手でぱかーり。
鮮やかでかつ暖かい色合いをした黄身がぽとん。
うむ、良い黄身の色だ。上質な卵とお見受けした。知らんけど。
ちゃっちゃっかちゃっちゃっかと卵を素早くかき混ぜて頂きませう。
シラタマはただぐるぐるさせているだけだが俺は箸を斜めにして空気を含ませながら混ぜる。
この方が良く混ざる。おかん直伝。
「器用だなお前。でこで割るのはなんでだ?」
「綺麗に殻を出さずに割るなら少し球体の方が良いんだよ。でこならいつも同じ硬さだしまるいだろ?テーブルとかで割ってもいいけど硬さとかスペースの関係もあって割りにくい」
箸でちまちまと殻を取っているヴィレットにそう答えた。
殻も出しにくく、硬いおでこなら一石二鳥なのである。かしこ。
「この身体じゃあ…でこで割り辛ぇしなぁ……」
「ほっ。おおこりゃ確かに割りやすいねぇ」
姉御なんか俺の真似をしておでこで軽く卵を割っていた。
二個目だから器たっぷりになってる。
「嫌味かよ姉貴。…くっそ。人化頑張るか…?くぅ…よし、やっと殻を取り除けた」
「うんまっ!すき焼きうんまっ!」
「おめーはマイペースかこの野郎」
芳醇な香りと肉の脂身による甘み、卵によるコク、コイツは止まらん。
ようやく殻を箸で取り除けたヴィレットがなんか言っているが知らん。
俺は今忙しい。堪能しているからそんな事知らん。
細切りにされたきのこは卵と脂身の溶けたツユと絡み合い、束ねたエノキのような食感で非常に美味しい。
また、ブツ切りにされたきのこはエリンギのようなもぎゅもぎゅとした楽しい食感が楽しい。
味が染みやすいのか、噛む度に旨味の溶け合ったダシが浸み出るかのようだ。
「ふはははっ!相変わらず良い食いっぷりだなカナタ殿!どうだね?食してみて安心きのこの方は?」
「いやぁ美味しいですねコレ。汁が染みてて美味しいし切り方でこんなに食感が変わるのは楽しいですし」
もっぎゅもっぎゅと咀嚼しての会話…ではなく、口に物がない状態で返答してるのでマナー違反ではない。
それと食べながらだと聞き取り辛いでしょ?
「それは良かった。私も久しぶりに食べるがやはり美味いな。これを薄切りにして食べるとまた違ってな。酒が捗(はかど)る一品に早変わりするのだよ」
ほう、それはまた便利な。
メインからツマミまでこなせるとは肉とは違った万能さがあるな。
「『安心』と付くだけはありますね。コレさえあれば飯の共には困らない」
「うむ。だが欠点としては栄養価が高い為に何もしないでこれだけ食べてるとすぐに肥満体になってしまうのだよ」
おおう…それは恐ろしい。まぁ、動いていれば大丈夫なのだから大したデメリットではない訳だ。
「逆に言えばロクに動けなく飢餓になりそうな人達にとっては有り難い物になる訳ですね」
「左様。食べなければ動けぬ。この世界では動けぬ事は死に通ずる。そういう者達にとってこのきのこは正(まさ)しく『安心』なのだ」
俺がいた世界でもそういうのがあれば良かったのにな。
いや、無理だな。あの世界は生きているだけでも地獄の様だから。
と、そう自分で思っては否定をする。残念ながらあの世界では『安心』とはならないな。
「ところでカナタよ。『安心キノコ』はどれくらい手に入った?」
「うん?両の手の平一杯から少し溢れるぐらいだな」
ヴィレットの言葉に両手でこんくらい、と仕草をしてみせる。
ふにゃふにゃとご機嫌でシラタマが大量に取ってたからな。
♪(おんぷ)マークが見えそうなぐらいにご機嫌だったぞ。
「お前達運が良いな。王都でもじゃあ滅多に見ない物だぞ。そう言う俺も数年ぶりに食うぐらいだ。……うむ、やはり旨いなこのきのこ」
そう言ってきのこを頬張るヴィレット。
そうか、そんなにレアモノを大量に見かけている俺はどうなのか。
そして肉じゃなくきのこを頬張る牙狼族はどうなのか。
いやまぁ、狼もきのこ食うだろうし問題ないと思うが昨夜に肉と酒かっ喰らってた奴がやると違和感が凄い。
とまぁ、そんなこんなで美味しい朝食だった。
シラタマがそんな希少なきのこを食い尽くしそうで怖い。
主食だっただろうから管理しとかねば。
────────────
カナタ
「今思えば贅沢な生活してたのではないかこの毛玉?食い意地すげーけど」
ヴィレット
「うめーけど傷に染みるな…イチチ……痛ぅ…うんめ」
ヴァネッサ
「んー♪おいしっ」
ヴァサーゴ
「後で村の皆にも配って栽培するとしよう。いやはや助かる」
※シラタマは食事に夢中な為割愛されました。
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