勘違い
…
「おお、カナタ殿。おはよう、朝から随分と大量だな」
村の出入り口でばったりと出会うのはヴァサーゴさんである。
ずるずると『見知った何か』をヒモで引きずっているが気にしてはいけない。気にしてはならない。
牙狼族の姿をした紫色の毛並みなぞ気の所為だ。
ズッタボロの力無いぬいぐるみのようになってるハズがない。
「おはようございます。このトレントと枝どうしましょう?ヴォルグに居れば倒して欲しいと頼まれたので持って来ましたが……あと光るキノコもついでに」
今現在の状態は右脇にトレント、左脇にその枝、頭の上にはキノコをこんもりと乗せたシラタマがスタンバイ。
うむ、誰が見ても大量である。
「おおそれは助かる……ぬ?おお、それは『安心きのこ』ではないか」
「『安心きのこ』?」
とても異世界とは思えない名前に思わず聞いてしまった。
安心て。おま。
「味はほとんどないが栄養価が高くてどんな土、石の上で育ち、一本植えておけばすぐさま増えてくれるきのこでな。生えたては周囲の微々たる魔力を吸って発光し、取っても半日は光り続けるので旅のお供に最適なのだよ」
それは確かに『安心』だわ。コイツがあれば食料、光源には困らないって事だからな。
俺も洞窟ではお世話になったし。
「どれ、それで朝食を拵(こしら)えてやろう。食感が良くて癖になるぞ」
「おお!是非お願いします!」
癖になる食感かー。楽しみだな。
「ふにゅー!」
良かったなシラタマ。いつものきのこより美味しいのが食えるぞ。
…
「大丈夫かヴィレット?」
包帯で所々ぐるぐる巻きのミイラもどきに声をかける。
所々滲んだ包帯が痛々しい。
あのズッタボロのぬいぐるみのように引きずられていた紫色の物体はヴィレットだった。うん、知ってた。
「…大丈夫とは言えんが…慣れてる……おー、痛ぇ…」
どうやらとても良いお灸を据えて貰ったようだ。
自業自得とは言えこう見ると少しだけ可愛そうではある。
いやまぁ、しょうがないっちゃーしょうがないんだろうけど。
こいつをここまで消沈させるヴァサーゴさんのお灸…恐るべし。
「喋れるだけまだマシだろう。前見たく寝て過ごしたくなきゃ少しは懲りとけ馬鹿たれ」
「あだっ!ヤメろ姉貴!そこ殴んな!!!」
ポカりと軽く一回頭を殴る姉御。
包帯の巻いてある場所殴るとか流石です。
そして家族でご飯ちゃんと食べるんですね。
「改めておはようございます姉御」
「ああ、おはようカナタ。朝から自主練してたらしいじゃないか?性が出るね、この馬鹿にも見習わせてやりたいよ」
ヴィレットを指差しながらカラカラと笑って姉御はそう茶化した。
今日もお麗しくて何よりです。
「いやいや、そんな。身体強化もロクに出来ないですから俺。3分持続させるのが精一杯でしたよ」
「……ちょっと待ちな。アンタコイツと組み合ってた時も使ってたんじゃ無いのかい?」
「そんな実戦で使える程慣れてませんよ。はっはっは、魔力に慣れてませんからねー」
早く手足のように慣れたいもんじゃのー。
その前に身体をすんなり使いこなせるようにしないとなー。
そんな俺の言葉に姉御はきょとんとしていた。
おろ?どうしたんでやんすか。
とりあえずきょとんとしてても姉御は美人でしたまる。
「「ぷっ」」
二人は同時に吹き出した。
俺は何かおかしな事を言ってしまったのだろか。
「あっはっは!あんたも馬鹿だね!身体強化をそんな長時間使ってどうするつもりだい!?あっはっはっは!!」
「ぐはははっ!!カナタよ、笑わせてくれる!そんなに長時間力を込める時が『何時(いつ)』ある!?お前は採掘でもする気か!?ぐはははっ…あだだ!傷に響く…!くくっ…!」
お二人揃って大爆笑された。解せぬ。
ヴィレットの脇腹だけ小突いたろか。その身体強化した力でよ。
そんなこんなをしていると、足音が聞こえてくる。
「何やら楽しそうだな。飯が出来たぞ」
コトリ、とまあるいちゃぶ台に物の乗ったおぼんを一つ置く。
その上には何やら良い匂いが漂う大きな鍋が一つ。
「安心きのこを入れたすき焼きだ。朝からとは思うが運動後でもあるしな。しっかり食うと良い」
ぱかぁと鍋が開かれると共に立ち昇る湯気。
ふわりとしながらも暴力的な程の香りが鼻腔へと入って来る。
様々な野菜に程よい脂身の乗った肉、そして様々な切り方をされた白いきのこがその鍋という湖へと満ちていた。
「…へぇ、安心きのこなんて良くあったね。随分と久しぶりに見たよ」
「あ、俺が運動ついでに見つけました。光ってたんで見つけ易かったっスよ」
感嘆の声を出す姉御に小さく手を挙げてそう言った。
ぽわーんと光ってたからね。ぽわーんと。
分かりやすい事この上なし。
「運が良いねぇ、そのきのこは見つけてしまえば増やすのはカンタンだけどまず「生えない」からよほどの運が必要なんだよ」
ほう?「生えない」とな?
「まぁ、その事は食べながらでも良かろう。冷めてしまうぞ」
「そうだぞ姉貴。はよ食わせろ」
「…ほう、愚弟。後でマッサージでもしてあげるよ。逃げんじゃないよ?」
「…ぐっ…!」
ニヤァと不気味ながらも微笑む姉御にヴィレットはびくりと身体を震わせた。
え、何そんなにヤヴァイの?
「おお、カナタ殿も後でしてもらうといい。なぁに、安心せよ。絶叫上げるのはヴィレットだけだ、わはは」
わあい。マッサージだー。
ヴィレットよ。お前は何故懲りないのだ。哀れな奴め。
────────────
ヴィレット
「姉貴…せめて胃にダメージ無い程度で頼む…」
ヴァネッサ
「親父、内臓以外ならね ん い り に!やっていいかい?」
ヴァサーゴ
「うむ、程々にな」
カナタ
「ところでもういいですかね。シラタマのよだれが滝の様なんですが?」
シラタマ
「に゛ゃああ…」
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