医療班の二人

 ヴァサーゴさんに諭(さと)されてわいわいと皆んなで宴を楽しむ。


 雑談やお互いの質問を交えながら。


 もちろん美味い肉をもっしゃもっしゃ食いながらだから会話のペースはゆっくりである。


 というかみんなが肉やらサラダやらを進めてくるのでひたすら食っている。


 その合間に会話という感じだ。


 シラタマ?牙狼族の女性と子供にもふられながら飯食ってるよ。


 なんでも毛並み良く手触りが良いらしい。


 子供に指先でもにーんと摘まれながらも怒らずに飯を食べるシラタマは偉いと思う。


 と、そんな事を考えながらうんまい肉を頬張っていると一人の牙狼族の男性が声を掛けて来た。




「カナタさん食うねぇ!酒もガッツリいけるクチかい?」




 翡翠色(ひすいいろ)の毛並みだが鼻先から首元に掛けて白く、腕の先も手袋のように白い毛並みをしている。


 ちなみに牙狼族の人々の服装は男女関係無く半袖にズボンかハーフパンツというう非常にラフな物だ。


 彼は藍色の半袖を肩まで捲り上げているので恐らく暑いのだろう。


 下も藍色のハーフパンツで色合いは地味だが彼自身の毛並みが鮮やかな為により際立って見れた。


 そんでもって……おや?確かこの人は…ヴィレットと取っ組み合いする前に見た二人組みの一人だ。


 たしかヴィレットの事かるーく茶化してたからよく覚えてる。


 もう一人はどうしたんだろうか。




「酒は弱い方なんで果実水を合間に飲んでますねー。たしか二人で居ませんでした?」




「なんだオイラと同じか!ヴェイロの奴は今肉取りに行ってらぁ。…あんなにガバガバ飲めるのは戦士長だけでいいよなぁ!」




 パシパシと軽く俺の背中を叩いて彼はカラカラと笑った。


 ヴィレットには及ばない、程々の筋量と体格、大体ヴォルグくらいかな?


 もう一人はヴェイロって言うのか。


 ほんでこの人の名前はなんざんしょ?




「聞こえてんぞヴェイール。お前後で模擬戦な」




「ゲェッ!?戦士長!?」




 いつの間にかヴィレットが小タルのジョッキを片手にぐびぐびと飲みながら後ろに存在していた。


 自分の言葉を聞かれたヴェイールと呼ばれた彼は自分の体毛より明るい翡翠色の眼を白黒させながら驚嘆の声を上げていた。


 なんとややこしい、しかしそのくらい驚いてたと言う事で。




「お前がヴェイロに我を山賊と貶(けな)してたのが聞こえてねぇと思ってたのか?ああん?」




「…も、模擬戦だけはぁ!!お慈悲を!!お慈悲をォ!!!!!!」




「却下。ング…ぷはぁ…」




「あああ……」




 ヴェイール渾身の糾弾の声は冷めた目をしたヴィレットの一声に轟沈した。


 素知らぬ顔で酒を飲みながらスタスタとどっかへ行くヴィレットと裏腹にヴェイールは連休中に「明日仕事ね」と電話をもらった俺のように哀愁に満ちていた。


 やっぱり聞こえてたのね。あれ。


 相当嫌なんだろうなぁ……模擬戦。




「肉持って来たぞー♪……あり?どうしたのヴェイール?……ああー…なるほど」




 そこへホクホク顔で両手一杯に肉の皿を持って来た彼は崩れ落ちているヴェイールを見るなり察した顔を浮かべた。




 ヴェイールと同じく翡翠色の毛並みをしているが額に白いひし形のような模様が入っており、腕にも白く流線模様のような毛並みが彩られていた。


 恐らく彼がヴェイロなのだろう。


 体格はそこで頭(こうべ)を垂れて四つん這いになっているヴェイールよりも細め、しかし毛並みは少し長毛だった。




「やっぱり聞こえてたん?前もあったんだから学習しなよヴェイール」




 眉をしょいーんと八の字に下げてヴェイロはお肉のお皿を俺の側に置いてそう言った。


 なんだかこの人達見てると和む。




「おおぉん…ヴェイロ。オイラの回復が間に合わなくなりそうな時は頼む…」




「はいはい、ヴェイールは付与系だもんね。そん時は放出系の僕に任せてといてよ。ほらお肉食べよ」




 ほらほらと涙目で轟沈(ごうちん)している彼を起こしながらヴェイールは「うぅ…」と小さく唸りながら元の場所、つまりは俺の隣に戻った。




「回復…?」




「どうもお見苦しい所を見せてすみませんねカナタさん。回復ってのは僕達二人は医療班なんですよ。ちょいとお肉失礼……うーんおいしー♪」




「…肉美味い」




 なるほど、医療班なのか。


 どーりでデフォルメキャラよろしく見てて和むわけだ。




「回復属性なんて初めて聞くな。むぐむぐ。サラダ食います?」




 そう聞きながらサラダをむぐむぐ。




「あ、頂きますー。厳密には違いますよ。僕達二人は水と地属性を併せ持つ複合属性なんです」




「ほあー、そんなんもあるんですねぇー。という事は体組織の活性化的なもんですか?」




「その通りですよ。ヴェイールは付与系なんですぐに回復させる力ではないので放出系の僕が治療した方が早いんです。範囲も広いし。あ、このサラダおいし。ヴェリスリアさんが作ったんかな?」




 まぐまぐとサラダを口に放り込みながらヴェイロがそう説明してくれた。


 つまりはヴェイールは持続性の回復が出来てヴェイロは範囲回復が出来ると。


 あとサラダ作った人良く分かるな。ヴェリスリアさんが作った奴だったのか。




「オイラは付与系だから前線に出てみんなの援護も兼ねてるんだ。…だから戦士長が元々ひ弱なオイラに目をかけてきつーい訓練を……うぅ…」




 なるほど…そりゃあ悪口の一つも出る訳だ。


 中々の筋肉が付いてるみたいだけど……ううん、相当頑張らせたみたいだ。


 元々、虚弱体質だった俺には良く分かる。


 ところで……




「お二人ともヴィレットの悪口言ってた時と口調が違うような気が?」




 そうなのだ。お二人とも悪口を言ってた時はもっとチンピラ臭がしてたような…


 そんな疑問だがそれに対して二人は条件反射のように口を揃えてこう言った。




「「口調変えないとやってられない」」




 どんだけ辛い内容やねん…と言いたかったが口には出せずにいた。


 いやぁ…だってね…そん時の二人の目を見たら言えんでしょ。


 二人揃って白目向いてるんだもの。


 ヴィレットよ…もう少し部下の事考えてあげてぇ……




────────────

カナタ


「しかし和むなこの二人……俺も回復魔法使えんかなぁ……」




ヴェイール


「うぅ…お肉おいしい……」




ヴェイロ


「サラダもおいしーい♪」




ヴィレット


「お、そのいい感じに焼けてる肉くれ」

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