慣れない事

「そういえば姉御はどうやって飛ぶんです?」




「ああ、忘れてたよ。そういえば話す予定だったね」




 よいしょと側に置いてたそのブーメランらしき物を手に取る。


 骨と鉄の素材が組み合わさった、三ツ羽根のブーメラン。


 俺が良く知る玩具の物と大きく違うのはその大きさ、そして羽根の各末端に掴み易いようにか、鉄枠の穴が空いている。


 中央にも丸く取っ手が付いており、個別に回るようだ。


 骨組みはその名の通り動物の骨だろうか?


 滑らかな曲線を描き、ほんのりと赤く染まっている。


 この赤色は血肉で染まったのだろうか……




「コイツはアル先生に作って貰った物でね。私の能力で動かせるのさ。それも軽く見せてやるよ」




 そう言ってこの場から少し離れた姉御が中央の取っ手を持ちながら頭上へとそれを翳(かざ)した。




「そーれっと」




 意外と可愛い姉御の掛け声と共に───ブーメランが高速回転をし始める。


 俺が感嘆の声をさらに大きくさせるのは早かった。


 何故かなんて言うまでもない───既に姉御はふわりと宙へと舞っていた。




「おおおおおおおお!?」




「よいしょっと、まぁこんなもんかね」




───とん、と軽い足音をさせながら着地をした姉御はそれを背中へと背負い込んではニッとはにかんだ。




「飛ぶのは対した理屈じゃないよ。コイツをアタシの能力でぶん回して飛んでるだけさ」




 いや姉御、充分凄いと思うんですが?


 その人力ヘリコプターをやるのにどんだけの力が必要

なんですかね……


 そもそも能力が無い人には届かぬ領域でしたわ。


 いいなぁ、俺も飛びたい。




「いいなぁ、俺も飛びたい」




「あっはっは!親父の修行でも受けるかい?親父はレトと違って何回でも飛べるよ!…ええと、何て言ったっけ〝アレ〟。なんとか瞬動」




 にゃ。心の声漏れてたみたいだわ。


 お恥ずかしい。




「虚空(こくう)瞬動だぞヴァネッサ。そろそろお前も覚えてもいい頃だと思うがな」




 おお、聞いた事のある名前が。


 聞いた事しかないけどさ。


 ぬ?シラタマや飲み物かい。俺の果実水をあげよう。よしよし。




「アタシよりレトに縮地覚えさせるのが先だろ親父。そうだカナタにも稽古つけてやんなよ」




 なぬ!?俺も習えるのか!!!


 いやでもしかしアルになんも言ってないしな……




「おお、それも良いな。……所でカナタ殿。今日はここに泊まるとしてその後はどうするのだ?」




「ああ、そうですね。特には考えてないですがアルの所へ戻ろうかと思ってます」




「ならば後で通信機を使うとよい。私の家にあるから宴が終わったら連絡の用意をするとしよう」




 おお、有り難い。


 これで懸念(けねん)の一つが消えたな。




「ありがとうございます。アルへの連絡手段をどうするか困ってたんですよ」




 素直にぺこりと頭を下げる。




「なぁに気にせんでよい。引き続き宴を楽しむが良い。ほれ、お前さんに礼を言いたい者共が来おったぞ」




 カラカラと笑うヴァサーゴさんの目線が俺の後ろへ行く。

 

 するとそこに居たのは子供やお年寄りを連れた牙狼族の人達であった。


 ちっこい子供達もいる。


 ヴァインくんと同じくらいかな、すごく癒しのもふもふ状態。




「んあ?あんた達は…薬を受け取りに来た人達か」




 そう、よくよく見てみればその顔ぶれの中には俺が薬を手渡した面々がチラホラといた。


 にゃるほど。知らない顔はその人達の家族って訳だ。




「ええ、貴方のお陰で私達の家族は全員助かったわ」




「聞けばヴォルグ達親子三人じゃあ村の者全員に行き渡らなかったかもしれんらしいじゃないか。間接的だがあんたはオレ達の命の恩人だ」




「ありがとうのぅ。儂も再び孫達の顔を見る事が出来たわい」




「「お兄さんありがとー!!」」




 おお…俺はどうすればいいのか……




 こんなに大勢から感謝された事など人生で一度も無い為、分かりやすく困惑せざるを得なかった。




「いやいやあの俺は大した事はしてないですって。そもそもあんた達が回復したのもアルの薬のおかげですし───」




「謙遜をするなカナタ殿。嫌々では無かったのだろう?」




 否定をする俺をヴァサーゴさんは嗜(たしな)める。


 いや確かに嫌々引き受けた訳じゃないしこんな事で役に立つのなら───と軽い気持ちで受けただけだし……ぬぬぬぬぬ。




「慣れんかね?…ひとまず受け入れるといい。お主が薬を運んだお陰様で助かった命がある。過程はどうあれ結果としてカナタ殿は我らを救ったのだ。……ふむ。ならば簡単に言おう」




 未だに小難しい顔をしている俺に対してヴァサーゴさんは一息いれるとス───と、指を一本立てた。


 そしてこう言ってくれた。




「一緒に飯を食べて宴を楽しむといい。それでいい」




「…そうします。───そこにいないで一緒に飯を食おう!全快を喜ぼうじゃないか!!」




 コップを片手に俺はそう、彼等に言った。


 今はこれでいい。


 まだ…俺には受け入れるのは早い。


 ヴァサーゴさんの言う通り慣れて行けばいい。


 まずはこの現状を互いに楽しもう。







────────────

カナタ


「もふもふがもふもふしてもふもふしてる」



ヴァネッサ


「人にまじまじと見せるのなんて久しぶりだからちょいと恥ずかしいねぇ…」




ヴァサーゴ


「うむうむ。若人よ徐々に慣れるがいい」

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