ヴィレットの眼の秘密

「姉御、今のやつもっかいお願いします」




「あはは、味しめたのかい?まぁ、便利な力だしやってても見てても面白いからねぇ。ほいよ」




 そんな俺の口元に嫌な顔一つせず肉を運んでくれる姉御が好こです。もぐもぐ。


 あ、そこでヨダレ垂らしてながら目をキラキラさせたシラタマにもお願いしやす。忍びない。




「アタシの能力(ちから)はこれだけじゃないけど…まぁ、それは今やる事じゃないね」




 すっぽんすっぽんと、俺とシラタマの口に放り込む姉御。


 成る程、これが雛鳥(ひなどり)の気持ちか…悪くない!




「姉貴の『あの技』はここでやるにゃあ狭ぇししょうがねぇだろ」




 不貞腐(ふてくさ)れたようにジト目をしながら酒をガバガバとヴィレットが煽る。


 ド派手な技なのかな?


 つーか飲むペースよ。




「…良くそんなにガバガバ飲めるな。そんなに度数の低い物でもあるまいし」




 そうなのだ。


 この果実酒、飲みやすいが結構アルコール度数が高い。


 飲んだ感じ20%程だろうか。


 酒に弱い俺にはキツ……いやまぁ食ってるおかげか全然キツくはないが度数が強いのは分かる。


 そんなお酒をヴィレットは注いでは飲み干し、注いでは飲み干しとガバガバと飲んでいる。


 俺からしたらとんでもねぇ化け物だ。




「ああ、我は〝酔わねぇ〟んだよ。能力と違ってな」




「んえ?」





 極めて酔い辛い体質なのか?ザルなのか?それとも枠(わく)なのか?


 焼酎を水のようにカパカパ飲む人を見た事はあるが、ヴィレットのペースはそれ以上でやばい。


 あれだ、汗だらっだらになるまで運動して水をがぶ飲みする人みたい。


 いやそれはそれでやばいけど。




「レトは本当に酔わないんだよ。左眼のお陰でね」




 そんな事を考える俺に姉御が補足してくれた。


 左眼?怪我してるんじゃないの?




「ああ、この左眼はワザと『封じて』んだ。まだ我には使いこなせねぇからな……ああ、そうか。そういやお前達異世界人にはそういうのが無かったか。魔眼(まがん)なんだよ、この左眼は」





「厨二乙(ちゅうにおつ)」




「意味は分からんがバカにしてんならぶん投げんぞ」




「済まんかった」




 思わず口に出してしまった。


 いやしょうがないじゃない。


 俺の封じられし左眼が…とか現実に言われたら…ねぇ?




「…ほんとにバカにしてたのかよ。まぁいいけどよ。話しを戻すがこの左眼は狂爪(きょうそう)の魔眼っつってな。身体の強化に加え、全てを切り裂く悪魔の如き爪が生える……〝らしい〟」




 相手がかち合った後のヴィレットで良かった。


 初対面なら確実にぶっ飛ばされてるわこれ。

 



「んぐんぐ。〝らしい〟とは?」




「我はまだ使いこなせねぇと言ったろ。親父に聞いてくれ。この眼を寄越した張本人だからな」




 ほう、だから親父さんの眼はヴィレットと逆の眼が隻眼なのか。


 右眼を左眼の方に移植して大丈夫なん?とか思うけど問題無いんだろう。




「ガキの頃に左眼を魔物に抉られてな。命に別状は無かったがそれじゃあ不憫だと思った親父が眼を寄越したのさ」




「移植を施したのはアル?」




 聞きながらサラダをむしゃあ。


 凄く瑞々(みずみず)しくておいひいでふ。もぐもぐ。




「ああ、そうだ。過去に経験もあるらしいからな」




 ぐびーっと酒をまた飲みながらヴィレットが答える。


 成る程ね。つまりはこの一族が個々に住み着く前から関係持ってた訳だ。


 まぁ、文明一つ出来るぐらい生きてるらしいしそんな事あっても不思議じゃないか。


 ん───待て待て。一つ腑に落ちないぞ。




「それと酔わない事になんの関係があるんだ?」




「それも魔眼の影響だよ。カナタ殿」




 俺の問いに答えたのはヴァサーゴさんだ。




「楽しんどるかね?隣失礼するよ」




「どぞどぞ。お陰様で楽しませて頂いてます」




 にこにことしながらヴァサーゴさんが左隣りへと座る。


 ヴィレットの親だけあって強面(こわもて)ではあるがその笑顔はとても優しげだった。


 なんか既視感があると思ったらあれだ、友人の親父さんに似てる。


 元走り屋だったらしいし結構強面だったけどめっちゃいい笑顔するんだよなぁ…




「狂爪の魔眼には身体の強化があるのだがな?それは魔眼から発せられる成分による物で…つまりはドーピングなのだ」




 成る程分かりやすい。


 ふんふんと頷きながら果実水を一口。


 続けてヴァサーゴさんが口を開く。




「その成分の作用が強力な物でな。毒や薬などは容易く分解してしまい無効化してしまうのだよ。薬も言ってしまえば毒にも成り得る物だからな」




 ほぇー、そんなに強力なのか。


 まぁ、身体強化される訳だから弱い筈はないか。




「それだともし怪我を負った場合大変なのでは?」




「封印か、制御をしてしまえば大丈夫だよ。その場合病魔なぞにもかからなるメリットがあったり、酒に酔う事は出来なくなるデメリットもあるがな」



 なぁに、酒独特の味わいは残るよとヴァサーゴさんが笑う。


 意外とメリットはあるのね。


 ヴィレットが俺と会った時に話してた事はこれなのか。


 病弱で酒に弱いけど酒好きな俺からしたら羨ましいメリットだわ。




「慣れてない者はその作用を制御できずに力が尽きるまで破壊の快楽に溺れる狂戦士(バーサーカー)となってしまう。だからこそ封印をヴィレットはしておるのだよ」




「ケッ、いずれ制御してみせらぁ。おう、すまんが替えの酒樽を頼む」




 ごぶりごぶりと酒を飲み干して近くの牙狼族の男におかわりを頼むヴィレット。


 いやほんと羨ましいな。つかどんだけ飲むんだよお前。




「…俺もおかわり下さい。肉の方の」




…対抗心じゃないぞ。お肉が美味しいからだぞ。むぐむぐむぐ。




────────────

カナタ


「決して対抗してる訳じゃないぞむぐむぐむぐ」




シラタマ


「むぐむぐむぐ」




ヴィレット


「…いずれ制御してみせらぁ……ングッ…」




ヴァネッサ


「…あの頃はレトもあんなに可愛げがあったのにねぇ……はーあ……そいっ」




ヴァサーゴ


「ふむ。修行のレベルを上げてやるとしよう」

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