宴 そのに

 ではでは早速頂く事にしよう。


 箸あるかしら?などと思っていると、しっかりと用意されていた。


 何故だとも思ったがヴァサーゴさんは着流しを着ていたので俺のような異世界人の文化も分かっているのだろう。


 用意された木で削り出された箸を使い、切り取られた大鷲の肉をひとつまみ。




「おお…これが姉御が狩って来た魔物の肉か」




 一口に食べるには少し大きく切り取られた肉。


 肉汁によって照り輝いたその肉はまるで大トロのような艶やかで、優しげに光を反射する。


 辺りを照らす火の明かりも相まって、とても綺麗な黄金色(こがねいろ)のように見えた。




「頂きまーす…んむ」




 口に含んだその瞬間、俺の脳内に駆け巡ったイメージは───密林だった。


 それもただの密林ではない、肉の密林だ。




 おおお!?何だこの重厚だが優しげなこの味わいは!!




 噛み締めた途端に溢れる濃密な肉汁、そして程良い歯応え。


 その後に広がる濃厚な肉の薫りが口元だけでは留まらず、鼻腔へと流れ、満たされていく。




 噛み続ける度に濃厚な味が波のように来る…!


 飲み込むのが惜しいと思えるのなんていつ振りだろうか…!




 惜しむ気持ちを抑えながら、ごくりとその肉を飲み込む。


 いつの間にか言葉は自然と溢れ出ていた。




「うんッッッめェなぁコレェえええ!!」




 やはり鶏肉の類いだからだろうか。


 後味はクドく無い、しかし、味の濃厚さは脂の乗った豚肉以上。


 猪の肉や羊の肉などの獣臭さに似た味もあるが、それはそこまで強く無く、ヴォルグに手渡された果実水が掻き消してくれる。


 気付けば皿に盛られた肉は次々と消えていく。


 これは……止まらんッ!




「なっははは!良い喰いっぷりだねぇ!美味いだろう?そいつの肉は」




 俺の食いっぷりに姉御がご機嫌に飲み物を煽る。


 どっかりと片膝を立てながら座る姉御の飲み物は恐らく酒と思われる。


 だって姉御の顔が本の少し赤くて色気出ておるもの。


 ああ、シラタマ?一心不乱にふんにゅふんにゅ言いながら肉食ってるよ。


 ところで全く汚れないその不思議なほわほわおててはなんだと小一時間尋ねたい。




「そいつはいっつも獲物(えもの)を掻(か)っ攫(さら)って行くが捕らえてしまえば儲けもんなのさ。今回はアタシが取っ捕まえたけどいつもはレトが捕らえるんだけどな」




 にぃ、と鋭い犬歯を覗かせながら笑う姉御はちらりとヴィレットを見て再び酒を煽った。




「姉貴、勘弁してくれ。折角の酒が不味くなっちまう」




 ぐぬぅ、と顔を歪めるヴィレットは心底嫌な思い出になっているようだ。




「自業自得だろ。あれ程基礎を抜かすなって親父もアタシも言ってるだろう。…んっく」




「ぬぐ…」




 ため息を吐いた後、ぐびりと姉御は酒を飲むとその言葉にヴィレットはたじろいだ。




「いくら基本すっ飛ばして空脚(くうきゃく)が出来てたからって調子乗ってちゃダメだろーが。早く瞬動(しゅんどう)止まりから抜け出して縮地(しゅくち)まで成長しな」




 おお、気になる単語が出て来たぞ。


 聞いてみねば損だろう。




「姉御それはつまりどういう事なんです?」




「ああ、そうだね。丁度良いからアタシ達の能力とかも説明するとしよう」




 トクトクと、コップに追加の酒を注ぎながら姉御はさらに言葉を続かせる。


 飲み干すペースが早い、姉御お酒結構強そうですね。




「レトが使ってる空脚は瞬動、縮地の派生みたいなもんでね。コイツは身体系で【風】属性の能力を持ってるもんだからたまたま空中でごり押ししたら出来た技なのさ」




 あれごり押しの技なんか。


 いいねぇ、俺も基本脳筋だから親近感が湧いて来たわ。




「本来なら基本の瞬動を覚え、熟練を要して縮地にし、果てには虚空(こくう)へと至る…つまりは空をも駆ける事が出来るんだが───このバカたれはそれを最初っからやりたくてね。持ち前の身体と能力(ちから)で空を跳んじまったのさ」




 はぁーん。つまりはごり押しで出来た産物だから失敗もあり得る訳だ。


 そらそうか、ごり押しはあくまでも力技だし技術を勢いで誤魔化(ごまか)してるから連続でやろうとしても続かない。


 だからヴィレットは『跳ねる』止まりなんだろうな。


 てか俺も覚えたい。




「…ケッ!いいだろ別に出来んだからよ」




「ヴォルグの奴はもうそろそろ縮地に行きそうな領域だぞ」




「ぬぐっ」




 そう言って姉御がジト目で再びお酒をくぴりと飲むと、ヴィレットが固まる。




「アタシは別に飛べるから縮地までで辞めたけど…あんたその内抜かれるよ」




「ぬぐぐぐぐ…!」




 このままのヴィレットを肴に飯を食うのもいいが後々面倒になっても困る。


 助け船を出してやるか。




「ちなみに姉御達の能力はなんなんです?」




「ああ、アタシは【無】属性だけど放出系さ。珍しいだろ?」




「希少な放出系すか流石姉御パネェっす。そんで俺と同じ【無】属性なんすね」




 放出系が珍しいのは習っていたが、早速御目にかかれるとは思わなかった。


 あ、ヴィレットがヤケ酒のようになってる、ほっといてやろう。




「そうなのかい?見た所あんたは身体系だね?【無】属性の放出系ってのは簡単に説明すると……」




 ついーっと、姉御の指先が肉の盛られた皿へと向かう。


 何だろうと思っていた俺は『その現象』に目が点になっていた。




…ぷわり───一切れの肉が、水面(みなも)に揺蕩う葉の様に浮いた。




「へあ?」




「にゅあ?」




「そのまま口開けてな」




 ぽかん、と思わず口が開いた俺に向かって姉御は指先を───ひゅん、と振るう。


 ふわふわと、肉汁を滴らせながら浮いた肉が───俺の口の中へと、〝放り込まれた〟。




「…むぐむぐ」




 おいひい。




「───とまぁ、こんな感じの能力(ちから)さ。アル先生曰(いわ)く超能力とかって言うんだって?」




 超能力とか姉御パネェっす。肉うめぇっす。


 ちょっともう一回やって貰ってもいいすか?


 あとシラタマのキラキラした目線が辛いんでコイツにも。




────────────

カナタ


「むぐむぐむぐ」




シラタマ


「にゅ………っ!」




ヴィレット


「修行めんどくせ…」




ヴァネッサ


「なはは、二人とも目が輝いてるねぇ…」

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