これからの事

「ほあーっ、満足満足ぅ」




「ふにゅふぅ」




 たらふく食べて満腹中枢が満たされた俺とシラタマはぽんぽんと軽くお腹を叩いてはさする。


 シラタマの膨れたお腹なのか動体なのか分からないふわふわぼでーはふよん、よよよよん、と揺れていた。


 いやぁ、食った食った。ばんばん持って来てくれるからってのもあるけどめちゃめちゃ食った。




「はっはっは、満足して貰えて何よりだよ」




 にこにことしながら俺に語りかけてくるのはヴァサーゴさんだ。


 いやぁ、美味い飯を好きなだけ食える事に満足出来ない奴はそういないですよ。




「カナタ殿、もう少しで宴も終わるがどうするかね?最後まで参加するか、それとも先に戻ってアル先生に連絡を入れるかね?」




 あー、そういえばそうだった。


 最後まで宴に居たいのも山々だがアルに連絡はせねば。




「最後まで参加したいですけど戻ってアルに連絡します」




「うむ、ならば行くとしよう。着いておいで」




「ほれシラタマ行くぞー」




「ふにゅいー…」




 あぁ、シラタマが満足してとろんとしてやがる。


 なんだ『とろけるもふもふ』っておい、新しいな。


 仕方ないのでシラタマを抱えて行くとしよう。




「にょふー…」




 むにゅふわんっ、と腕に収まる膨れ毛玉。


 溶けかけの雪見大福のようだなコイツ。


 まぁ、弄らないようにしておこう。


 振動でもにゅもにゅして気持ちいいし。







 少し薄暗く、動くのに支障はない程度に付けられた四隅の灯り。


 中央には腰元程高さで、お盆程度の丸いテーブルが置いてあり、その上には八角系の鉄枠と三重の丸枠を組み合わせたような物が置かれていた。


 丸枠にはそれに合わせた青い宝珠が等間隔ではめ込まれており、中央にはこれまた青い、手のひら大の宝珠が設置されていた。




「では少し待たれよ」




 ス───と、ヴァサーゴさんがその真ん中の宝石へと手を翳(かざ)す。


 それをキーとしているように宝珠が光を放つ。




───かちり。




 心地よい音が響くと、三重の丸枠が互い違いに回り始め、霧のような朧(おぼろ)げな光をふわりと浮かべた。


 なんだろうか、見覚えのあるその光。


 いや実際はみたことは無いがそれは───『オーロラ』───のようだった。




 やがてそれはある風景と人物を映し出した。


 そして出てくる人物は言わずもがな───アルだった。




『やぁ、ヴァサーゴ。村の様子はどうだい?』




 相変わらずの優しげな微笑を浮かべながらアルは椅子に腰掛けてそう言った。


 背後を見るに場所は俺と始めて出会ったあの大量の本がある部屋っぽい。


 この通信機っぽいやつあったのね。しかもカラー映像かよ。




「ええ、お陰様で村の皆も全快になり宴を開いてた所です」




『はっはっは、それは良かった。毎度の事とはいえ医師をやってた者として冥利(みょうり)に尽きるよ』




 カラカラと相変わらずの様子のアル。


『医師をやってた者』ね、他に何をやってたのだろうか。


 それはアルのみぞ知る。




「おう、アル。俺はこの後どうすりゃいいんだ?とりあえずそっち戻りゃあいいんか?」




 流石に今から戻って来てとかは言わないで欲しい。


 俺は重度の方向音痴なんだからな。迷うぞ、正しく。


 森なんて尚更だ、地図があっても迷いそうだ。




『うーん、そうだな…今日はそっちで泊まってもらうとして……カナタ、君はどうしたい?』




「俺?…うん…まぁ、そうだな……」




 今から戻るという心配は稀有(けう)に終わった訳だが……ふむ。




 アルの所へ戻るのも得策ではあるがそれはそれで甘えてしまいそうな気もする。


 この世界で生き抜く為には新しい知識と対応出来る力が必要だ。


 確かにアルは長命種であり、様々な事を知っているだろう、教え方も上手いし。




 しかし俺はこの世界で新しく生きる事を決めた。


 幸いにも大抵の魔物なら倒せると太鼓判を貰った身体だ。


 ならば『万が一』の時の為の術(すべ)を知る必要がある。


 幸いにもヴァサーゴさん達牙狼族は狩りをして生活する人達だ。


 この世界で生き抜く術を学ぶにはうってつけだろう。




 となれば……




「…ここで生きる術を学びたい。俺がこの世界で新しく生きる為に」




『へぇ……良いのかい?私の所でも一通りの事は学べるよ?』




 案の定帰ってきた言葉はそれだった…これは俺の心の問題だからな……




「それも良いけどやめておく。…甘えちまいそうだし何より……いざこの世界を生きる時の『感動』が無くなっちまいそうだ。出てくる飯やら何やらが希少過ぎんだよ」




 ぶっちゃけアルの飯は楽しみではあるが出てくる物がどれもこれも珍品かつ希少なものばかりで困る。


 いや美味いんだけどさ、それらは自分の手で食べたい。


 新しい物を自分の目で見て、触る。それはまた楽しいものだ。




『はっはっは!それはすまない!そうか私には当たり前過ぎてその感覚を忘れていたよ!』




 いや笑い事じゃねーんだけど…長命種の弊害(へいがい)がここにもか。




「カナタ殿がそれで良ければ私達牙狼族は喜んで歓迎しよう。息子も世話になったようだしな」




『ほう、やはりやりあったのかいヴァサーゴ』




「結果こそカナタ殿の負けだが互角に取っ組み合ったらしい。いやはや私も観たかったものだ」




『はっはっは、それは同感だ』




「おう、人のトラブルを娯楽のようにしないでくれぃ」




 盛り上がっている二人を止めるかのようにつっこむ。


 このままだと長くなりそうだし。




────────────

カナタ


「ところでお前はいつまでとろけてるんだシラタマよ。…寝てやがる」




シラタマ


「…すぴょぴょ……」




ヴァサーゴ


「いやはや誰ぞ映像は撮っていないものかのぅ」




アル


『カナタとヴィレットの取っ組み合いか…いやぁ見たかったなぁ…』

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