嫌な予感がぷんぷんするぜ

 あれからたわいの無い雑談をしながらなだらかな丘を数分進むと、目の前に茶色がかった建造物達が見えて来ていた。




「見えたぞ。あれが私達の暮らす村だ」




 ヴォルグの言うそこには丸太を組み合わせた…まぁ、見事なウッドハウスの村が健在していた。




「おお……!……ん、村の中央に人混みが出来てるぞ」




 感嘆の声を上げれたのもつかの間、俺はその異変に気付いてしまった。


 悲鳴としか聞こえない叫び声、そして土埃が舞う空間。




 おんやぁ…嫌な予感しかしないぞぅ?もしかして悪い条件揃っているのではないかい?




 ちらりと右横のヴォルグを見てみるとあちゃーと言わんばかりに目を片手で伏せた。


 おい、ヴォルグさんや、分かり易すぎでは?


 さらにちらりと左横のヴェリスリアさんに視線を向けると、こちらも目を伏せながらため息をついているのを確認。




「あ!おじちゃん暴れてるにおいがする!」




 はい、鼻をくんくんとヒクつかせてヴァインくんが答えを言ってくれました。


 負のビンゴ完成ですね!おめでとう俺!


 つーかそんなの良く嗅ぎ分けれたなヴァインくん。


 さすが獣人。あと可愛い。




「…すまないカナタ。回避の道は無くなったようだ」




「もう諦めた」




 勇者は逃げられなかった!いや待て誰が勇者じゃボケぃ。


 私は旅人Aでお願いします、ダメですか、そんなー。







「おお!帰ったか!」




「ヴォルグ!待ってたぞ!」




 村の入り口には槍を片手に持った牙狼族の男が二人、対極になるようにしていた。


 おそらく見張りだろう。


 ヴォルグ達と似たような毛並み、どうやら牙狼族は寒冷色の毛並みが多いらしい。


 性格にもよったりするんかね?知らんけど。




「すまない、遅くなったか?」




「いや、それは大丈夫だ。流行り始めの時に向かってもらったからな」




「お子さん連れて行ってこの時間だろ?むしろ早い方だ。治ってよかった」




「ああ、ありがとう。それより早く行かないと不味いだろう」




 ちらりとヴォルグが村の中央の人だかりに目配せをしてため息をついた。


 あぎゃーと時折り悲鳴が聞こえてくる。




「すまん。狩りはしたんだが大鷲の魔物に幾らか掻(か)っ攫(さら)われてな。戦士長がダメージは与えたがそのまま逃げられてしまったんだ」




 ああ、だから荒れてるのね。空飛ばれたら流石に打つ手がないものね。


 つーかダメージ与えてるだけでもすげぇなおい。




「だからいつもの組手でストレス解消してるのか……姉御は?」




「姉御なら単身で大鷲を追っていったらしい」




「あの人ぐらいだからな。遠距離の魔道具使えるのはよ」




 姉御?……姉御……とりあえず強そうな気配。


 まーさか荒れてる戦士長の姉だったりしてな…いかん、フラグを建ててしまった。




「姉御が居ればなんとかなっただろうにな…仕方ない、私が話そう。ああ、そうだ。後ろの男はアル先生が荷物運びに寄越してくれた異世界人だ。人格は私も保証する、優秀な男だよ」




 そんなんで納得するんかね?いやそんなあっさりと───




「「ああ、なら大丈夫だな。村へようこそ」」




 声を揃えてにこやかに歓迎する見張り二人。


 いや納得するんかい。アル先生とヴォルグの信頼すげぇなおい。




 などと、簡単過ぎる検問を受け、薬を持った俺達は村へと入って行くのだった。







「皆!待たせた!特効薬を持って来たぞ!!」




 ヴォルグがそう叫ぶと、一斉に人だかりがこちらを振り向いた。




「ヴォルグさん達だ!!」




「おい!症状の重いのが家族にいる奴から先に受け取れ!」




「助かった…姉御がいないから歯止め役居なかったんだよな……」




 駆けつける者、呼びかける者、安堵の表情を浮かべる者……


 三者三様な反応をしている中、いそいそと背負った荷を降ろして薬を配り始める用意をする。




「この人間は異世界人だが害は無い。アル先生にも認められているし私も保証しよう。こちらの言葉も理解出来るし、話せる優秀な男だ。欲しい分の数を告げて薬を貰ってくれ」




 おうおう、照れ臭いねぇ。まぁ、頑張って言葉を覚えた甲斐がある。


 お、この小さな竹製の入れ物に薬が入ってるのか。


 ヴァインくんに打ったのとは異なる飲み薬式か。


 風邪薬のシロップみたいな甘い匂いが微かにするぞ。




 頑丈な入れ物に収まっていたのは手の中にすっぽりと入る程の竹製の小瓶見たいな物だった。


 サイズ的にはペットボトルのキャップ二個分程だろうか?同じく竹っぽい物で蓋がされている。




 竹製にしたのは処分が楽だからだろうな。


 アンプルとか試験管みたいなガラス製だと処分が面倒だけど、竹製なら使ったら燃やしてしまえばいいもんな。




 などと薬をリュックから取り出しつつ考えていると、男性であろう牙狼族の声が聞こえた。




「チィッ、もう来たのかヴォルグ。よぉし!模擬戦はここまでだ!!薬を患者に届けにいけ!他の者は食事の用意!!」




 荒々しい声と共に聞こえる安堵の声が多数。


 チィッってなんだチィッって。まだ物足りないみたいに聞こえたぞ。


 多分あの人が噂の〔戦士長〕なんだろな。




「すみません。薬を4本貰えますか?」




 そうしていると牙狼族の女性がおずおずと俺に訪ねて来た。




「はいよー。4本ねー」




 とりあえずは薬を捌(さば)いてしまおう。


 他の事は二の次でいいや。


 ほいよほいよと次々に薬を渡していく。


 なお、シラタマはバックを経由して俺に渡す係である。落とすんじゃないぞ。




────────────

カナタ


「もふもふだらけやのー。犬好きの俺歓喜。いや狼だけどさ。…シ、シラタマ…お…落とすなよ?」




シラタマ


「ふ…にゅ…にゅ」




ヴォルグ


「姉御が居ないとなると…不味いな…」




ヴェリスリア


「困ったわね。満足してくれていれば平和に済みそうなのだけれど…」




ヴァイン


「はい!おくしゅりどうじょー!!」

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