どうしてこうなった

 はい、ここは牙狼族の村でございます。


 おかしいですねぇ…今、俺の目の前には紫色をした隻眼でムッキムキの獣人が手をゴッキゴキと笑顔で鳴らしております。




「さぁ、始めようぜぇ……見せて貰おうか。あのアル先生が認めたテメェの実力をなぁ!!」




 べきべきと手を鳴らしながら強面の獣人が鋭い牙を光らせ、俺を見ております。




───どうしてこうなった。




 ではここまでの回想をどうぞっ!




………




「荷物持ちにカナタを連れて行ってはどうかな?」




 おっとぉ…?突然何を言っておるのかこの男は。

 



「おお、それは助かります。我が子に持たせるのも考えましたがそれは文字通り荷が重いと思いましたからね………」




 いやそら確かに荷が重いわ。何人分か知らんけどそれよりは俺が行ってあげたい…けどさ。


 ちらりと母親の腕にいるヴァインを見てみる。


 ほわほわの青い尻尾をふりふりしながら母親を見ていた。


 僕頑張るよっ、とでも言わんばかりに眉をきりりとし、顔は輝いていた。


…うーん、可愛い、じゃなくてそれは可哀想だわ。あ、目が合った。可愛い。




「いや俺が手伝ってもいいけどさ。…大丈夫ですかヴォルグさん、俺が村に行っても」




 照れ隠しのようにヴォルグさんに聞く。


 話しを聞くに異世界人って毛嫌いされてるんじゃないの?


 こんな見知らぬ男が行って襲われない俺?




「アル先生のお墨付きがあるから大丈夫だと思うが…まぁ、そこは私が話そう。ヴェリスリアもそれでいいか?」




 おお、助かるぜヴォルグさん!もしかしてヴォルグさんって結構上役の人なんかな。




「ええ、助かるわ。良かったわねヴァイン。お兄さんが荷物持ってくれるらしいわよ」




 にっこりと素敵な笑顔をしながらヴェリスリアさんが腕の中にいるヴァインを見る。


 ふわふわの腕に収まったヴァインがこれまたとても無邪気な笑顔でその小さな両手を挙げた。




「わーい!お兄さんありがとー!」




 天使かよ。今なら重機ですら持ち上げれる自信があるわ。多分。




「なら決まりだね。それじゃあ食料の補充と薬の準備をしよう」




「ありがとうございますアル先生」




 くるりと踵(きびす)を返して部屋を出て行くアルの方を向いてヴォルグさんが顔を伏せる。


 食料もなのね。ヴォルグさん達結構ギリギリだったんだろうか。


 病気の子供連れて来たんなら足も遅くなるだろうしなぁ…


 そう考えると牙狼族は仲間思いな一族なんだろか。


 狼って孤高のイメージ強いけど実際は物凄く仲間思いだしね。


 それと同じく仲間との結びつきが強いのかね。




「カナタ…だったな?すまないが村まで宜しく頼む」




 思考に老けていた俺にヴォルグさんが手を差し述べてくれた。


 そうですカナタです。覚えて頂いてありがとうございます。おお…肉球がある。




「こちらこそ宜しくお願いします。足手まといにならないように頑張ります」




 スッとその手を握る。


 ふわふわと心地よいその右手は、肉球のぷにぷにとした心地良さもありながらも力強さを感じられた。




「ああ、宜しく頼む。敬語はいらない、俺の事はヴォルグで構わないぞカナタ」




 改めて見てくっそイケメンだなこの人。そらこんな美人さんと夫婦になれる訳だわ。


 敬語いらない言われたけど慣れないうちは敬語になってしまうんよね……頑張ろ。







「この量なら十分足りるはずです。すみません、食料まで補充して貰って……」




 頑丈そうに括り付けられた背中の積荷をちらりと見ながらヴォルグはそう申し訳なさそうな顔をした。


 ここは何処かと言うと、外から差し込む陽の光の通り、外に面した洞窟の出入り口である。


 ちなみに俺の背中には黒い、これまた頑丈な素材で出来た大きめのスクエアリュックが装備されている。


 中身はほぼ薬で、しっかりと緩衝材に包まれたケースに入っていて飛んだり跳ねたりしても平気な仕様、素晴らしい。


 異世界とは───と思ったのはご愛嬌。


 アル曰く、この技術が出来るのは自分だけだから勘違いしないでくれとの事で少し安心した。


 素材もナイロンとか綿とかじゃなく、この世界の素材で代用されているらしい。


 素材の詳細はとても聞くのが面倒だからスルーしておく、決して怖い訳ではない…ごめん怖い、値段うんぬんとか。


 とりあえず奪われないようにしっかりと守らねば。


 そんでもって無事に返さねば。


 ちなみにヴェリスリアさんにはヴォルグと同じく背中に積荷があるが中身は食料ではなく俺と同じく薬である。


 スクエアリュックじゃないのは種族に合わせたのだろう。




「なぁに、気にしない、気にしないの。子供にはしっかりと食べさせないとね。ああ…そうだカナタに渡すものがあるんだ」




 めっちゃ考えてる俺にアルが灰色と白のスプリット迷彩が施された小さめのポーチを差し出した。




「なんぞこれ?」




 受け取ってみたがそこまで重くはない。


 重くはないだけで明らかにポーチ自体の重さだけじゃないのは分かるがそれだけだ。




 「まぁ、困った時に見てみるといいよ。大丈夫、きっと役に立つ物だから」




 役に立つものねぇ…まぁ、腰に付けて置くとしよう。


 腰に付ける俺に向かって「それに…」と、アルが続け様に口を開く。





「証拠は必要な筈だからね」





「証拠?今見ていい?」





「ほらほら、病人が待ってるからそろそろ行くんだ」




 ポーチの中を見ようとする俺を遮り、ぐいぐいと背中を押された。


 しょうがない、困ったら見るかね。





「コイツは連れてっても構わないのか?」




「ふにゅー」




 そう、頭の上にはシラタマがセットアップされている。


 なにお前も行きたいのか、愛(う)い奴め。




「ああ、構わないよ。随分と気に入られたようだしね。ねぇシラタマ」




「ふにゅっ!」




 ほよんと小さく弾んでシラタマが答える。


 まぁ、確かに俺の頭の上を定位置にするほど気に入られているからな。




「では行こうカナタ。先生、ありがとうございました」




「ああ、気をつけて。魔物でも出たらカナタにぶっ飛ばしてもらうと良い」




「おいこら」




 冗談なのか分からん会話をして俺達はアルの研究所を後にした。


 この後村であんな事になろうとは思いもしなかった。

 いや、思うまい、『ああ』なるとは。




────────────

カナタ


「おまえそこだと落ちるんじゃね?そん時はうまいとこに移動しろよ?……しろよ?」




シラタマ


「にゅ」

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