可愛い(迫真)

「やあ、いらっしゃい」




 気さくにアルが声を掛けた二人は凄く───もふもふしていた。


 人間のような顔付きはしておらず、イヌ科の特徴であるマズルもしっかりとあり、そこからは鋭い犬歯が顔を覗かせている。


 まごう事無き、『獣人』がそこには存在していた。




「先生、お久しぶりです」




「先生、ご無沙汰しております」




 ぺこり、と二人の狼の獣人の男女が礼儀良く頭を下げる。


 男性の方は藍色の体毛、女性の方は青色。


 二人共動きやすそうな枯れ葉色のカーゴパンツ、上着は浅葱色(あさねぎいろ)のTシャツ着ており、足には靴などは無く、もふもふとした体毛の生えた素足だった。


 荷物は見たところ軽装。それどころか背中に小さめの袋を背負い、腰元のベルトには水筒など数個だけ小物が付いているだけだ。


 そして女性らしき人の腕には男性よりも明るめの、青に近い体毛をした小さな子供らしきもふもふが見える。


 言葉からしてどうやら結構親しい仲らしい。


 アルと勉強した甲斐あってばっちり言葉が分かる。よく頑張った俺と褒めたい。




 うおー、獣人だー。知人が飼ってる大型のハスキー犬は見た事あるけど獣人の存在感すっげーわ。


 藍色っぽい毛並みとかめちゃめちゃカッコええ。青に近い毛並みは奥さんだろうな、毛並みツヤッツヤじゃん。


 おろ。子供かな?なんか顔色って言うか苦しそう。


 元気になったらもふもふしたい。元気になったらね。




 色々頭に浮かべる俺を尻目にアルは口を開いた。




「久しぶりに話したいが後にしようか。〝いつもの病〟だね?」




「ええ、そうです。話しが早くて助かります」




「うん、じゃあリビングへ行こうか。カナタもいいね?」




「問題ねぇよ」




「「…!」」




 まぁ、俺の事とかその他諸々は後よね。子供の方が大事だわ。


 なんか獣人のお二人がびっくりしてるけどまぁ、後で分かんべ。








 くったりと顔色の悪い獣人の子供にアルが手を翳(かざ)す。


 掌より少し大きめな、鮮やかな翡翠(ひすい)色の魔方陣が現れ、ゆっくりと回転する。




「…ふむ、今回はこのタイプか。どれどれ、ちゃちゃっと特効薬を投与しよう」




 話しから推測すると毎回の事らしい。


 机の上にある注射器と、黄色い液体が入った小瓶の1つが棚がふわりと浮き、アルの手元へと運ばれてくる。


 どうやらあれが特効薬なんだろう。


 手早く特効薬を注射器に入れ、子供の小さな腕にいつの間にか投与してアルは笑顔を見せた。




「…ほい、終わり。もう大丈夫だよ、良く頑張ったね」




 苦しそうな顔が無くなった子供の頭を優しく撫でながらアルはそう声を掛けた。




 魔法で診察も出来るのか。つか手際良すぎだろアルの奴。


 そんで決まったタイプの病状があるわけね。インフルエンザみたい。おぉ…子供の顔色がみるみるうちに良くなった。




 気付けば子供は目を覚ましていた。


 黄色い虹彩に、円(つぶ)らな瞳をぱちくりさせてきょとんとしている。


 大方びっくりしているのだろう、自分を蝕んでいたものがいつの間にか消えているのだから。




「ヴァイン!」




 その子供の名前なのだろう。


 目を覚ました子供の名を呼びながら彼女は優しく抱きしめながら頰を擦り付けた。


 よほど心配だったのだろう、その閉じた目元には涙が溜まっていた。




「おお…!先生!ありがとうございます!!…このご恩は決して…!!」




「いや、何。気にする事はないさ」




 あたまを下げる男性に対してひらひらとアルは手を振った。


 その顔は相変わらずの微笑を浮かべている。




 えがった、えがった。(良かった、良かった)


 やっぱ親子はこう言う愛に溢れてないとなー。




 こういうの見ると相変わらず目頭が熱くなる。


 年の性ではない、ガキの頃からだ。


 ええ、泣き虫でしたよ、ええ何か?




「治療も終わったし、君らに紹介しよう。そこでもらい泣きしそうになってる男はカナタだ。異世界人だが人格は私が保証しよう。優秀な男だ」




 もらい泣きしそうで悪かったな。


 しかし、優秀な男と言われたからチャラにしてやろう。


 うーむ、我ながらチョロい。


 そして異世界人という括りがなんかもにょもにょする。




「あ、どもカナタです。この頭にいる毛玉はシラタマというマスコット」




「ふにゅっ!」




 どーも!とでも言うように俺のどたまにいるシラタマは誇らしげに鳴いた。


 見えんが恐らく堂々と胸らしきものを張っているのだろう。




「…アル先生が言うなら信じよう。私はヴォルグ。牙狼族の戦士だ。こちらは私の妻と息子だ」




 少し溜めがあったがヴォルグと名乗る牙狼族の男は顔を妻子の方へ向ける。




 やっぱり親子でしたかー。


 そしてアルの信頼が厚い。普通はもうちょい警戒するわこんな筋肉ダルマ居たらさ。…俺運良かったな。




 そんな事思ってると、続きざまに彼女と子供が口を開く。




「ヴェリスリアです。確かに優秀だわ、私達の言語が理解出来てるし、喋れてるもの」




 ヴェリスリアさんが俺を褒めてる。…物凄くくすぐったい。褒め慣れてないの辛い。




「ゔぁいんです。はじめまちて」




 可愛い。




 ヴァインの紹介にそれしか浮かばなかった。

 いや、仕方ないでしょこれ。これで可愛いと思わない奴いたら連れてこい、ぶっ飛ばす。




「彼等は近くの村に住んでいてね。私が治療する代わりに度々食料を見返りに貰っているんだ」




 なるほどね。持ちつ持たれつの関係な訳だ。




「治療をするなら王都に施設があるんだがそこは私達の村からは数週間は掛かってしまう。アル先生が此処に研究所を作ってくれて本当に感謝しかない」




「なぁに、この世界に生きる者として助け合うのは当然さ。私も場所を提供して貰っているしね」




 ほーん、王都は遠いのか。いいね、行ってみたいね。美味い飯あるかな。




「ヴォルグ。今回の感染者は多いんだろう?」




「ええ、先生の言う通り今回の感染は以前よりも倍近くになります。以前は老人や身体の弱い者のみでしたが今回は子供まで感染者が…正直私共で運び切れるかどうか……」




 苦虫を噛み潰したような顔を伏せてヴォルグはそれに答えた。


 だったら───と、アルは口を開いて言った。




「荷物持ちにカナタを連れて行ってはどうかな?」




……おっとぉ…?




────────────

カナタ


「もふもふと子供と舌ったらずとか最強か。文句?ぶっ飛ばす……お、どーしたシラタマ」




シラタマ


「にゅぐぐぐぐ……」




アル


「いやぁ、カナタが居て助かったなー、あっはっはー」

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