ふぁんたじーさんおいでませ




「おお……こらスゲェ…」




「にゅおお…」




 そこは研究所とは思えない程にだだっ広く、高い所だった。


 実験場とでも言うのであろうか?綺麗に整備された洞窟の岩肌に、等間隔で証明が付けられている。




「驚いたかい?ここはゴーレムに作らせた実験場さ。この研究所は山と地下を丸々くり抜いて作られた所なんだ」




 なるほど、洞窟と繋がってたのも、日の光で目が覚めれたのもこれで合点がいった。どんだけデケェんだよここ。


 ちなみに大量の料理を運ぶのもゴーレムが手伝っていた。


 なんか丸っこいつるつるの簡易なゴーレム。少し可愛い。




「来る途中で使った転移魔法陣にも驚いたけどな」




 まさかふつーのエレベーターだと思いきや、ボタン押したら魔方陣出てくるとは予想外デス。


 なお、ここは全てアル一人で作り上げた手製らしい。とんでもねぇ。




「こちらの世界だけのものばかりじゃつまらないし不便だからね。私はお互いにいい所を取って行く主義なんだ」




 簡単に言ってるが元社畜だった俺はそれが如何に難しいかを知ってる。


 良い所を取ったとこでそれが出来る状態がなければ作業が無駄になる。


 良い所を取ったとこで現在のと噛み合わなければやる事が増える。


 良い所を取ったとこでやる時間が増えたら意味がない。


 良い所を取ったとこで成果が変わらなければ意味が無い。


 まだまだあげればキリが無いが───つまりは1人で全てやって仕舞えば問題ないのだ。


 言うは易し、行うは難し。


 俺も無駄な作業ばっかり教えたクソ先輩のいい所だけ取って作業を最適化すればサボったと言われる始末。


 ならば、最初から一人でやって仕舞えばいい。


 一人でやり方を考えて仕舞えばいい。


 一人で好きにやって仕舞えばいい。


 そんな安易な考えをアルは地で行ったのだ。それがどれだけ凄いかは誰でも分かるだろう。


 例えるならば『誰にも頼る事なく、己の力だけでスマートフォンを作った』ようなものだろうか?


……異世界ならではの考えだな。前の世界なら頑固な職人やらで作業は止まるだろうし、サボりたい奴が適当にやったりするからな。


 それは俺が──『とても良く知っていたから』。




「…アンタはスゲェよ、アル」




「さーて?なんの事かな?はっはっは」




 あっけらかんとした顔でアルは手をひらひらと振って誤魔化した。


……俺には無理だな。そこまで出来ねぇわ。




「角の方にトレーニング器具は一応用意してあるが……おそらく使い物にならないだろうね。ゴーレムを用意しよう」




 す、とアルが片膝をついて右手を地面に置く。


 薄茶色に光る魔方陣が現れ、その前方数メートルからめきめきと何かが形作られていく。


 料理を運んでいた簡易なゴーレムとは違う、【本物のゴーレム】を。




「おお…!」




 そのファンタジーな行動に思わず感嘆の声が溢れていた。


 これだよ。ザ・ファンタジーって感じのものはッ…!!


 ぎゅ、と自分の胸の前で両手の拳を握りしめているとアルが口を開いた。




「強さと強度は一般的な魔物レベルにしておこうかな」




 音を立てて何かを形作られたそれは約2m程の物に変化していく。


 めきめきと形作られたそれは、俺も見たことがある【猪】にそっくりだった。


 着いた手を離して立ち上がるとアルは俺の方を向いて口を開いた。




「…ボアファング。主に食用の肉としても狩られてる魔物……を模したゴーレムだよ」




 俺の目の前にはどう見ても生きてるとしか思えない【それ】が息を荒くして大地を踏みしめていた。




「うおおおお!!すげぇ!!すげぇなアル!!!」




 思った時にはもう叫んでた。いやそうでしょ、どんと来い超常現象、かむひやふぁんたじー!


 そんでもって魔方陣!召喚?なにあれ岩じゃねぇの!?なんであんなに生き生きとしてんのアレぇ!?


 アルすげぇなこのイケメンめッ!!顔も良くて高身長で頭いいとかどうなってやがるッ!!これが異世界かッ!!!


 おそらく違うだろうがもう自分でも興奮してて良く分からん。鎮痛剤はいらんが。


 そしてボアファングはこちらに襲いかかってくる事は無かった。やっぱりアルの言う事を聞くんだろうな。




「ははは、ありがとうカナタ。……用意した服は問題ないみたいだね。そっちが良ければいつでも始めていい」




 そう、俺の服装は変わっていた。


 靴は頑丈な黒のブーツ、ズボンは動き易く、丈夫だが伸縮に富んだ藍色のカーゴパンツ。


 上は灰色のノースリーブシャツの上にモノトーンマルチカム柄のミリタリージャケット。


 捲りあげた腕にみっちりと筋繊維が詰まった腕がとても映えていた。それにしても……




「…アル。会った時から言いたかったが…服、良い趣味してんな」




「それは私もだよカナタ。機能性、性能製が良い服は好みだ」




 くっくっく、とアルと俺は目を合わせて笑った。


 本当に運が良い、こんなアホな事でも笑いあえるのだから。




────────────

カナタ


「ええのう、これだよこれ。これぞふぁんたじー」




シラタマ


「ふにゅー……ZZZ」




アル


「まぁ、カナタならそう言ってくれると思ってたさ」

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