目覚め そのさん




「ぐおお!食う度に身体が熱い!全身の細胞で消化してるみてぇだ!!」




「ふにゅおー!!」




 ひたすらそれを口へと運ぶ。


 肉を、野菜を、筋を、茎を、皮を、根を。


 綺麗に、美味しそうに盛り付けられたであろうそれは何とも豪快に、勢い良く口へと運ばれる。


 種類は関係ない。〝求めている〟のだ。


 この身体、全身が、栄養を。




「まだまだあるよー」




 暴食の化身となった俺の前にどんどんと並ぶ皿。そして積み上がる空っぽの皿。


 食っても食っても足りん!なんじゃこら!?そして旨い!最高か!?


 確かに食べた筈なのに俺の腹はすぐに消えていく。そしてその度に駆け巡る熱(エネルギー)。


 物理法則を無視するかの様に大量の食料が胃袋へと入っていた。


 なお、シラタマも顔を器に突っ込み、ふにゅおーと雄叫びを上げながら負けじと喰らっている。


 まて、呼吸出来てるのかお前。




「「ぬおおお!!!(にゅおおお!!!)」」







「いやー食べたねぇ。昨日の何倍かは知りたくないねこれは」




 あっけらかんとアルは笑いながら食器を片付けている。俺も知りたくない。




「…俺はアルの調理スピードに驚いたけどな。いやぁー食った食った、ご馳走様でした」




 そう、俺の食うスピードもさる事ながらアルの調理スピードもヤバかった。


 皿を平らげそうになったら既に次の料理が置かれているのだ。





「ふにゅにゅにゅーにゅ」




 ぱちんと両手を合わせて食わせてくれたアルに感謝。シラタマも手のようなものを合わせて感謝している。偉いぞ。




「友人に教えてもらってたからね。ノウハウや早く作る技術(わざ)も。彼1人で1000人分は賄えるんじゃないかな?」




「なにそれ凄い」




 とんでもねぇ友人だ。良い意味で。名も知らない友人さんあざっす。


 尚、今現在ツナギの上半身を捲り、腕部分を紐のようにして腰に結んでいた。熱いのだ、全身が。


 今が真冬なら全身から湯気が立ち込め……いや、もう立ち込めていた。インナーの黒のノースリーブからもゆらゆらと。




「アル、俺死なない?」




「死にはしないよ。…だがもうすぐ〝死に近い〟ほどの激痛がくるかも。はいタオル、ちゃんと噛み締めてね」




 食器を片付けたアルが黒い笑みを浮かべて俺に丸められた白いタオルを手渡す。え、死に近い痛み?




「それってどういう───ッッッッガァッ!!!」




 それは俺がアルに聞く途中に、突然始まった。


 手渡されたタオルがぽてんと落ちていく。


 ぴしり、と全身に稲妻が走った。


 実際には走っていないだろう。しかし比喩としてはこれ以外の例えが見つからなかった。


 筋肉という筋肉、内臓という内臓、骨という骨、神経という神経。それらがズタズタに引き裂かれ、無理矢理癒着される……そんな痛みが全員を駆け巡り続けた。




「ほいタオル」




「……ッッッッ!!」




 手からこぼれ落ちたタオルを拾い、俺の口の中に投げ入れる。この為のタオルかッッッッ!




「ほら、シラタマ…だったね名前は。危ないからコッチにおいで。よしよし、良い子だ」




 肉が───裂ける。血管が───爆ぜる。細胞が───壊れていく。


 痛みでのたうち回る俺を尻目にアルはビビって固まっていたシラタマに呼び寄せた。




「……ッッッッ!!!」




「ほらほら、我慢だよカナタ。君はしばらく無かっただろうから教えておくとその痛みは成長痛さ」




「ッッッッ!?」




 納得がいった。そういう事か。


 先程まで俺の身体は大量の食料を腹に入れた。それも、物理法則を無視する程に。


 それらのエネルギー、栄養素が取り込まれ…今、成長しようとしているのだ。


 冷静に分析は出来てはいるが現在とんでもないレベルの成長痛の最中でござる。ああ、だめだ。




 もう、しこうすら、まとまら…な…い…




「…あー、気絶したか。…成長に必要な栄養素は用意したからね。一体どんな肉体に変化するのか研究者としては楽しみではあるね。…さ、シラタマ、ちょっと着いてきてくれ」




「ふにゅ」








 あれからどれくらいの時間が経ったのだろうか。


 十分ぐらいかも知れない、一時間かも知れない、もしかしたら一日?いや一年?


 時間感覚がなんか変だ。…ああ、そろそろ起きて仕事に行かないと。




「…知らない天井だ」




 デジャヴを感じる。…ああ、そうか。俺は異世界にいるんだっけ。




「ええと俺は確か…アルの飯を大量に喰らって…そっからとんでもない成長痛を……おぉ!?」




「おお、良いタイミングだったね。おはようカナタ。この世界二度目の起床はどう……これは凄いな」




「ふにゅぅ!?」




 俺が自分の変化に気付くのと、アルとシラタマが来るのは殆ど同じだった。


 そして、目を丸くしたのもほぼ同じ。




「…おお、アル。あれからどのくらい経ったんだ?それと全身が映る鏡はないか」




「あれから二十分ぐらいかな。丁度シラタマと一緒に鏡を持ってきた所だ」




「ふにゅにゅ」




 どす、と重力感のある音が聞こえると、大男でもすっぽりと覆い隠せる程の物を地面に置く。シラタマお前何気に力持ちだな。




「二十分…か。なんか時間感覚がおかしいけどまぁ、いいか。鏡、助かるよ」




 そして俺は驚愕する事になった。


 時が止まっていた身体の成長に。

────────────

カナタ


「……視線が高い…ような気がする」




シラタマ


「…に゛…に゛ゅ……」




アル


「…こらこらシラタマ、毛を膨らませないの。…これは楽しくなりそうだ…ふふふふふ」

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