目覚め そのに

「いいかいカナタ。異世界からこちらに来た人間は例外無く己の枷から解き放たれる。……簡単に言うと能力(ちから)に目覚めるんだ」




「ほう」




 アル先生の異世界講座、始まりました。受講者はわたくし、カナタとシラタマでございます。




「能力はこちらに来た初日に見た夢の内容によって決まると言っていい。後天的に目覚めるのもあるか今回は前者を話そう」




 後天的なのもあるのね。アイテム的なのとかかね。


 なおこの間シラタマは頭上でふにふにと小さく弾んでる。暇つぶしか、または腹ごなしだろうか。


 頭をマッサージされてるようで気持ちいい。構わん、続け給え。




「能力は己の細胞や得意な事、または強い思いによって様々だ。身体系・放出系・付与系・精神系の主に四つに別れる」




「強い思いも関係するのか?」




「ああ、トラウマや尊敬などの強烈に根付いている者が能力として出る事が多いね。大抵の異世界人の能力は身体系と付与系が多いかな?対して放出系と精神系は珍しい」




「こっちの世界に住んでる人でも珍しいのか?」




 そんな俺の問いにアルはもちろんと答える。なるほどね、珍しいのか。俺の能力はどうなんざんしょ。




「珍しいといって必ずしも強いとは【限らない】。炎を放出出来る能力者がいるとしよう。雨の中ではどうなる?水の中では?」




「まぁ、普通に使えんわな。使えたとしても凄く弱そうだ」




 熱線みたいに高圧縮して放てるならまだ分からんけど……その間にやられそうだしな。




「逆に弱いと思う能力も使い方次第では凄まじい能力に【化ける】。まぁ、その人次第だからずっと【弱いまま】にもなるやも知れないけれどね」




 そりゃそうだよな。相手に雷ドーン!なんてすぐに使えたら強すぎだわ。




「とりあえずは理解したけど……アル、俺の能力はなんなんだ?」




 そう、一番大事なコレを知りたい。ていうか空飛びたい。それか念動力的なの使って楽したい。ファンタジー能力ぷりーずみー。




「いいかいカナタ。これは重要な話だ。良く聞いてくれ」




 なんか思考読まれた感。すまん、アル。




「…恐らく君の能力は身体系だ。それも〝かなり強力な能力〟になる」




 なんだよファンタジー要素無いやんけ。真面目に聞いてた俺の期待がー。




「…残念そうにしてるね?いいだろう、詳細を話そう」




 顔に出ていたか。やめいシラタマ、同情するかのようにその手のような物をぽふぽふするな。痛く無いが痛いわ。主に心が。




「…コレは異世界人の能力の資料だ。この資料には夢に出て来る予想が書かれてる。私が取りまとめて作った物たが予想といっても的中率はほぼ確か。沢山いる能力者によって作られた信憑性のあるデータだ」




 とさっとアルは複数の資料を机の上に置いた。うむ、全く読めん。


 あとさらっと〝私がとりまとめて〟って言ったぞ。


 ほんと何者なんだあんた。




「後で文字は教えよう。それじゃないと色々不便だ」




 筒抜けである。おやまぁ、今日も良く顔にでるわね。参ったよシラタマくん。




「このデータから君の能力を予想すると……『我ラノ』で数カ所の細胞の目覚めて活性化してるが分かる」




「ん?その言い方だと普通は数カ所じゃないのか?」




「普通は大概一部分だけだ。長年の練習してや修行によって少しずつ他の細胞の活性化を増やしていくんだ」




 てっきりこの世界に来た人間の全部の細胞が活性化するもんだと思ってたわ。




「続けよう。『同胞はらからヨ、今コソ成長ノ時ナリ』これは数カ所の細胞が同時に、一斉に成長する事だと思う。カナタ、君はある時に成長が止まった事や筋肉など増加が止まった筈だ」




「ぎく。何故それを」




 図星だった。俺の身長は低い方で現在164㎝。高校生でぴったりと止まってしまった。


 筋肉もある時にいくら鍛えても食べても増える事が無くなった。てっきり俺は筋トレの仕方や食事が悪かったかと思っていたが……




「恐らく今も身体の調子はいいだろう。こちらの世界に来て何か変わった事は無かったかい?」




「おう、有るぞ。洞窟で石投げたら壁に深く減り込んだ」




「……それは凄まじいな。一応ここの洞窟の材質は硬い分類でなまくらで出来たツルハシが簡単に砕ける程なんだが……」




 マジかよ。俺の身体が覚醒した。おういえ。




「まあ、それは一旦置いておこう。『我ラノ主人ノ為ニ』これは君に対する忠誠のようなものだと思ってくれていい。我を忘れるという事は無くなるはずだ。散々歯痒い思いをしたようだねカナタ」




「……否定はしない」




「最後の『コノ五体ト五臓六腑ニ本来ノちからヲ』……全くとんでもないなカナタは。君の能力はまだ序の口、それも身体の前身、神経に至るまで成長するようだ」




「なにそれすごい」




 つまりはこの空腹は未だ成長中の俺の身体がエネルギーと栄養を欲しているというのか。……もしかして?




「…身長伸びる?」




「伸びる──高い確率でね」




「イェッッッッッスッッッッ!!!!!!シャアッオラッ!!!」




 非常に見事なガッツポーズだったと自分でも思う。これぞ無駄に洗練された無駄の無い無駄な動き。


 しょうがないじゃない、同級生には軽く抜かれ、女性にも抜かれて背の順では前をキープ。


 童顔とこの背の低さで社会人になってから何度年齢確認と職務質問をされた事かッ……!!!


 分かるまいッ!背の低い者の苦しみがッ!!!




「…号泣してるようだけど大丈夫かいカナタ?」




「おう大丈夫だ!!気にしないでくれぃッ!!!」




 ぐわっしぐわっしと両目から溢れる涙を腕に拭う。


 アルの優しさが目に滲みるぜッ!!俺より身長が高いが優しい奴は許すぅ!!!!




「よし、カナタ。まずはその空腹を満たそう。食料は心配しないでくれ」




 ぱちん、と1つ手を叩いてアルが立ち上がる。おう、シラタマ。食料と聞いた瞬間にヨダレ啜るな。




「いいのか?めっちゃ食うぞ今の俺。昨日の比にならんぐらい」




 今の俺ならバイキングのエリア全て食べ尽くせそうじゃぞ?アルの料理めっちゃ旨いし俺としては万々歳だけど。




「ははは、伊達に長生きしてないよ。カナタレベルの大食らいは久しぶりに見るけど問題ないさ。それに……身長伸ばしたいだろ?」




「あんたが神か」




 なんだこのイケメン。好き。




────────────

カナタ


「身長がッ!…身長がッッ!!…身長がッッッッ!!!」




シラタマ


「ふにゅー♪」




アル


「さて、作りますかね」

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