毛玉と…?そのさん




「ああ、ソイツはスライムの希少種だよ」



「希少種?コイツが?」




 希少種と言われて頭に浮かんできたのは倒すと経験値がいっぱい手に入る某ゲームの金属スライムが俺の頭には浮かんでいた。




「スライムと何かの妖怪の間に産まれた希少種だと私は踏んでいる」




 まぁ、スライムっぽいとは思ってたけどね。


 スライムと妖怪の間に生まれた希少種ねぇ……この平和に眠りこけてる奴がねぇ……


 まぁ、実際に希少な可愛いさではあるな!




「恐らく妖怪の方は毛有毛現(けうけげん)だと思うが……なにぶん妖怪の方は詳しく無くてね」




 ははは、とアルは頰を右手でこりこりと掻きつつ、コーヒーを飲む。


 まぁ、そうか。アルは俺と違って日本人じゃなくこの世界の住人だ。


 魔物には詳しくても妖怪はそう知らない物ばかりのはず。


……毛有毛現(けうけげん)が出てきただけでも凄いと思うが。


 ちなみに毛有毛現とは毛むくじゃらの妖怪である。


 コイツのようなのーてんきな愛くるしさは無い。


 ふと、思ったがアルは何者なのだろうか?


 普通の人間がこのような場所に居るわけがない。


 白衣を着ているのだからやはり医者か研究者とかなのだろうか?


 予想ばかりしても埒(らち)があかない。聞いて見よう。




「アルは何者なんだ?何となく普通には見えないんだが……」




 何となく、本当に何となくなんだが……アルはとんでもない奴なのではないだろうか。


 隙が……見当たらないとでも言うのだろう。


 俺は格闘技を経験した事は無いが、スポーツで言う、死角のような物が無い。


 真横から野球のボールが飛んで来ても軽く空いた手で捉えていそうな、そんな感じがした。




「……ふふふ、気になるかい?」




 微笑みを浮かべたまま、楽しそうにアルはカップをテーブルに置いた。


 にゃろう、反応を楽しんでやがる。




「当たり前だろ。そんな何時、何が起きても対処出来そうな医者…研究者がいるかよ」




 苦い顔してアルと互い違いになるようにカップのコーヒーを口にやる。


 俺の顔と対照的にコーヒーは甘い。アルは甘めのコーヒーが好きらしい。やはり頭を使う仕事をしているのか?




「……ほう?やはり君は面白い。ところでお腹は空いているかい?食事でもしながらお互いに色々と話そうじゃないか」




「乗った」




 腹の減っていた俺はアルの提案にすぐ答えていた。我ながら単純である。







「───ほんでここには一人で住んでるのか?お、この肉うっま」




「ああ、少し頼まれ事でね。詳しくは言えないがある研究をしている。一応君の言ってた通り研究者で合っているよ。ちなみにその肉はオークの肉だ」




「おお!これがオークの肉か!うんめぇなコレ!…研究者にしてはガタイが良すぎるだろ。アルは亜人って奴なのか?お、このサラダも美味いな」




「まぁ、長い時間を過ごして色々やってるからね。ちなみに猿の獣人の一種とでも言っておくよ。そのサラダは知り合いのエルフからもらった野菜から作った奴さ」




「エルフキター。てか知り合いかよ。長い時間ってちなみにアルっていくつ?このお茶も美味い」




「文明が一つ出来上がるくらいかな。それはマンドラゴラの葉っぱから作ったお茶だね」




「さらっと言うなさらっと。めちゃくちゃ歳上じゃねぇか。そしてマンドラゴラかよ」




「気にしたら負けだよカナタ。あ、そこのサラマンダーの生き血取ってもらえる?」




「これ醤油じゃなくてサラマンダーの生き血かよぉ!? 肉にかけたら美味かったよぉ!!」




「はっはっは、いやーカナタはいい反応してくれるなぁ」




「お前の性格がどういうのか良くわかったわ」







「だっはー、もう食えねー」




「ふにゅー」




 飯をたらふく食べて満足した俺等はアルから空いてる部屋を貸してもらう事にした。現在、ふかふかのベッドに毛玉とごろ寝中である。


 部屋を借りて迷惑ではないかと聞いてみたが「他に当てでもあるのかい?」と言われてぐうの音も出なかった。ちくせう。


 まぁ、久しぶりに人と話せたらしいので問題もないとも言っていた。遠慮なくその親切にあやかろう。アルはいつからここに居るんだろうかね?




「お前の名前も俺が決めていいとよー。うりゃうりゃ」




「にゅっ、ふにゅっ、にゅっ」




 ごろりと方向を変えて、だらんとした毛玉を指先でつつく。ふはは、愛い奴め。




「…シラタマでいいかね?どうよ」




 ふにーと、指先を毛玉の頬辺り?を沈める。あ、コイツ避けやがる。


 ぐにょんと形を変えて指先から逃れると俺の顔面へと毛玉が向かって来た。




「ふにゅー♪」




 すりすりと上機嫌で毛玉は俺の頰に身体を擦り付けた。どうやら問題ないようだ。愛い奴め。




「そろそろ寝るかねシラタマよ」




「にゅ!」









「…さて、カナタはもう寝た頃かな。一体彼はどんな能力が目覚めるのかな?ふふふ」




 ぎしり、と椅子の背もたれに体重を預けてアルこと、アルメス・シュードレイクは楽しそうに微笑んだ。


 久しぶりに出会えた人間、それも〔神〕とやらに出会った異世界人と来た。心が踊らない訳が無い。


 人懐っこいとはいえ、あそこまで魔物に懐かれる男がどうなるのか?


 もしかしたら自分の研究の終わりが見えるかも知れないね。


 そんな思いを僅かに浮かべながらアルは明日の準備をして寝る事にした。


 全ては……自分の成すことの為に。

────────────

カナタ


「飯回だな。ファンタジーと言えばロマンと飯」



シラタマ


「…げっふー」←満足気



アル


「さてさてどうなる事やら……」

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