毛玉と…?そのに
「ふにゅっ!ふにゅにゅー!」
音のする方向へと毛玉が返事と共にほよん、と頭上で小さく跳ねる。
少し薄暗い向こうから、コツコツと何者かがこちらへ来ているようだ。
「……やっぱりここに居たね。また外に行って……おや?君は?」
足音を立てながら何者かが毛玉に返事をして歩いてきた。
毛玉とこの場所の主人だろう。
優しげな、それでいて何処か心を掴むような声の通りに、 その人は優しげな表情して俺にも語り掛けてくれていた。
「…おお、言葉が分かる……助かっ…た……?」
息をついて一安心…とはならなかった。
俺はそこ人の全体を見て言葉を失っていたからだ。
……その人はとても……奇抜な格好をしていたのだった。
なぜ、ドレッドヘアーに白衣を……しかしぃ!カッケェなこの人ぉ!めちゃめちゃ似合ってるやないかぁッ!!
褐色の肌をした男は奇抜な格好ながらも素晴らしく男前だった。
インナーは暗く見えるがTシャツっぽく、ズボンは動きやすそうだがシンプルな薄い肌色。
靴は頑丈そうな黒いブーツを少しゆるく履いていた。
パッと見、軍医にも見えるな。黒人にも見えるけど…違うな、なんか違う。
なんとも言えぬ感覚が今の俺にはあった。
確信はないが何か違う、雰囲気が〔人間ではない〕ような感覚が俺の中に渦巻いていた。
「ああ、失礼。私はアルメス・シュードレイクと言う物だ。ここでひっそりと暮らしてる」
「あ、ども。俺は
あ、しまった。つい条件反射で普通に名乗っちまった。社畜根性ォオオオオ!!
そんな俺の心境も知らずにアルメスとやらは優しげな、それでいて申し訳なさそうな微笑みを浮かべた。
「カナタか。そいつの相手をしてもらった見たいで悪いね。つもる話もありそうだ、とりあえず着いてくるといい」
そう言ってアルメスと名乗る白衣の男は身を翻して先ほど自分が来たドアへと足を運んだ。
……色々思う所はあるけど素直に着いて行った方が良さそうだな。毛玉の主人ならそう悪い人じゃないだろうし。
つい、と目線を頭上の毛玉にやる。見えんけど。
「にゅ?」
行かないの?と、少し考え込む俺に毛玉がくいくいと髪を少し引っ張る。
やめ給え、ハゲる。ハゲないけど。
「せかすな、行くわい」
へいへいと、少し離れてしまったアルメスに追いつくように、俺は脚を前へと進ませた。
…
「ほう、異世界人か。君は運が良いよ。ここなら魔物は居ないようなもんだからね」
居ないようなもんなのか。通りでこの毛玉以外に出会わない訳だ。猛獣に出会ってがぶーは勘弁だし。
アルメスに着いていった先は至って普通の家の応接間だった。和風などは無く、西洋の。
しかし、所々の張り物や置物の文字が異世界と言う事を再認識させた。
そこで軽く緊張しながら事の現状をアルメスにつらつらと話していた。
隠したまま、あやふやにしても良かったが、ありきたりな能力や強ーい武器など無い今の俺にはそのままを話した方がいいと思った。
嘘つくの下手だし、下手に勘繰られるのもやだ。
俺は嘘をつくと顔に出る。馬鹿正直でもあって色々とトラブルに巻き込まれたもんだ。あーもーやな記憶ね。
そだ。色々聞いて現状整理しよう。
「アルメスさん、この世界について教えてもらっていいですか?」
「アルで構わないよ。敬語も無しでいい。まずはこの世界の基本的な知識を教えようか。まずは───」
アルから教えてもらった事は衝撃的だった。
この世界は異世界から来た住人が多々おり、文化は結構栄えているらしい。
アルが俺を見ても同様もせずに言葉も通じたのもそのせいだった。
この世界は獣人も…所謂〔亜人〕と言う生命体や、無機物生命体…〔ゴーレム〕や、自然生命体〔精霊〕もいるようで、無害な魔物は家畜として取り扱われているらしい。
あ、ちなみにドラゴンもいるってよ。ひゃっほう。
今俺とアルの目の前にあるコップに入った黒い液体はやはりコーヒーだった。
最初に来た時に見た机の上のカップの液体も恐らくそうだろう。
一通りの事を教えてもらった俺はずっと気になっているこの毛玉についても教えて貰おうと思う。
「なあ、アル。ところでこの毛玉は一体なんなんだ?」
手元にあるコップを置いて頭上の毛玉を指差す。
ちなみにこの毛玉、俺とアルが話してる最中だが鼻提灯をぷかぷかと作って爆睡中である。可愛い。
────────────
カナタ
「やっと名前がぁあああああッ!!!!……あ、ども神凪彼方です」
毛玉
「…すぴょぴょ……」
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