プルタブ

おじさんが亡くなった。四畳半のアパートで孤独死したらしい。おじさんの部屋には何度か遊びに行ったことがあった。部屋はいつも片付いていた。


第一発見者の父が葬式を出すことになり、葬儀屋を呼んだ。父は親類へ案内を出すのに忙しい。葬儀屋の手伝いでアパートへ行く。部屋はいつも通り片付いていて、おじさんは布団の中で眠っているみたいだった。


「ずいぶん片付いた部屋ですね」葬儀屋が独り言を言いながら押し入れを開ける。

「と、そこはちょっと……」前にそこを開けようとして、おじさんから叱られたことを思い出す。遠慮なく押し入れの中を覗き込む葬儀屋。

「押し入れの中も片付いていますね。——ん。なんだ、こりゃ?」

「勝手に開けないでください」と言いながら、葬儀屋の肩越しに押し入れの中を覗き込む。奥の壁に缶ジュースのプルタブみたいなものが埋まっているのが見える。


「なんでしょう、これ?」

「やっぱりプルタブですかね」

「ちょっと引っ張ってみたくなりますね」

「あの、ですから、勝手なことはやめてください」と言いかけるが、葬儀屋は壁のプルタブに指を掛けていた。プシュっと音がした。


どういう訳か四畳半の部屋が震えだす。壁に亀裂が入る。ガタゴトガタ、ゴトンゴトンゴトン。調子の悪い洗濯機のような音を立てながら、部屋が回り始める。壁の亀裂が大きくなって剥がれ落ちる。壁の奥にはビニール袋に包まれた塊がいくつも転がっていた。いつの間にか部屋は静まり返っている。袋をひとつ開けてみる。


「これ、やっぱりおじさんが集めてたんですかね」

「さあ」葬儀屋の手からプルタブを取り返し、ビニール袋の中に戻す。私はプルタブの山に合掌した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る