第4話特製弁当

 「それに狼姉妹と話すことなんてないし、こっちは忙しいんだから!早く出ていけぇ!」


「わ、わかりました……行きましょうかスコルさん」


「は~い。それじゃあね~、シーちゃん~」


「もう来ないでよー!」


 そうして少女達は弁当屋を後にし、他の獣人にも挨拶をし終えた。


「さてとそれじゃあ行きましょう」


「れっつご~!」


 太陽が頂点に達した頃、少女達は獣人の森の入口に立っていた。漸く挨拶も終わり、今から長い道のりを歩き、人の街ミズガルズに行くためである。


 だが少女達以外に同行する者もいなければ見送る者もーーいや一人だけ見送りにその場に現れた。


「狼姉妹!これ……持っていきなさい!」


「わわっ!……これは~?」


「み、見ればわかるでしょ!お弁当よ、お・べ・ん・と・う!……べ、別にあなた達のために作ったわけじゃないんだから!ただあなた達が途中で行き倒れなんてしたら、色々と困るから!それだけ!本当にそれだけなんだからねっ!?」


 現れたのは先程出て行けと少女達を追い出した弁当屋のケット・シー。あんなにも悪態をついていたのにも関わらず、布巾で包まれた弁当持ってやってきた。と思えば持ってきた弁当をぐっとスコルの身体を押すように強く差し出す。


 直後、顔を赤らめつつ「たまには戻ってきなさいよ」と小さく言うと、この場から逃げるように自身の店へと走り去って行く。まるで嵐のようなケット・シーだが、悪態を言いつつ、後々には優しい言葉をかけるツンデレ属性なのは、昔から変わらない。


「相変わらずですね、本当に……それじゃあ行きましょうか!」


 かくして少女達は獣人の森ミュルクヴィズに一礼して目的地に向かった。


 ーーそれから数分後、二人は大きな山へと差し掛かる。獣人の森ミュルクヴィズに負けず劣らず木々が生い茂る険しい山だが、越さなければ人が住む街に入ることはできない。


 この山に囲まれた人の街ミズガルズはある意味隔離されていると言っても過言ではない。他国の交流があると言えど、異種族がその場で暮らすには辛いことしか無いと言われるほどなのだから。


 その人の街ミズガルズを囲む山は四体の守護獣が存在する。


 と言っても少女達が通る山にいる守護獣は、正しき道を通れば、野生の動物感のある守護獣は襲ってこない。もし出くわしても蜂などと同じく、こちらから何か仕掛けなければ怖くはない。


 そんな危険そうで危険ではない守護獣がいる山に入り、正しき道を数分歩いたところで、少女達はぽかぽかと日が優しく差し込む大きな切り株がある場所にたどり着く。


「ここでお弁当食べちゃいましょうか」


「そうだね~この後は休憩できそうにないしね~」


 大きな切り株がある場所はこの山の休憩所のような場所、山にまで木の実を取りにきた獣人が一息つけるようにと、大きな木を切り倒し設けられた場所である。


 故に周辺は獣人の森ミュルクヴィズの族長が毎日手入れをし、居心地の良い広い空間になっていた。


 切り株に、すっと腰を下ろし、地面に重たい荷物を置くと布巾で包まれた弁当箱を開く。


「おいしそ~」


「本当ですねってあれ?蓋の裏に紙が……」


「あ、私の方にもある~」


 弁当箱を開くと、出来立てほかほかのように香ばしく焼けた肉の匂いがふわっと鼻をくすぐり、食欲を湧き上がらせる。だが弁当箱の蓋の裏に貼ってあった紙に目を奪われた。


 すぐに剥がして開けば、二人とも同じ文で、


『本当は嫌だけどあなた達狼姉妹のために特別に作った特製弁当よ。

 ちゃんと感謝して食べなさいよ!残したら承知しないんだから!

 ケット・シーより』


 と書いてあった。弁当の名を手紙に書き、弁当箱の蓋に貼るとは流石弁当屋といったところか。


「特製弁当ですか……てことはいつもの牛肉を使った弁当ですね!」


「わーい!」


 特製弁当といいつつも、それがなんの弁当なのか、どんな材料を使っているのかは少女達はわかっている。母親が亡くなった当時も元気づけにこの特製弁当を差し出されたり、生活するための金稼ぎで弁当屋の手伝いをした際にも昼食として出されていたのだ。


 その特製弁当は特製タレが程よい甘さ、シャキシャキと、されどもほくほくとした一口大に切られた人参や、彩り野菜であるピーマン、こんがりと飴色に炒められたタマネギ。これら三色の野菜は本来の甘さをだしている、とても豪華な弁当。


 ちなみに引きこもり状態だったスコル曰く、一口食べればもう一口食べたくなる程美味しいらしい。


「あ、ハティ~ほっぺにご飯粒ついてる~」


「ふぇ?」


 食べ始めた頃、不意にそう言われスコルの方へと顔を向けると、口に柔らかい感触が伝わる。というのも、ハティの頬に付いたご飯粒を口で取ろうとしたスコルなのだが、運悪くーースコル本人にとっては運良くだがーーハティが反射的に振り向いたのだ。


 故にスコルの口はハティの口へと接触してしまう。


「ハティの口、お肉の味する~」


「な、何をするんですかっ!?」


「不可抗力だよ~嬉しいけど~」


「もう……ご飯粒くらい自分で取りますから……早く食べてしまいましょう」


 ーー暫くして弁当を食べ終わった頃、程よい風がその場を吹き抜ける。それに導かれるかのように森の奥からコロコロと半個体のぶにぶにした何かが転がってくる。見たところそんなに大きくはなく、手のひらサイズ位の大きさだ。


「なんでしょうか?これ?」


「なんかぶにぶにして気持ち悪いぃ~!」


「って何勝手に触ってるんですかスコルさん!?」


 興味を引かれたスコルは、転がってきた何かをつい触ってしまうのだがーー

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