第3話挨拶
「……外大丈夫ですか?」
「ん〜ハティは心配症だな〜ハティが一緒だから大丈夫だって〜」
「そうですか、なら良かったです」
愛するスコルの外恐怖症を心配しつつ、重そうな荷物を背負い
双子が歩く
またこういう種族専用の土地は様々ある。
例えばこの
「お、狼姉妹じゃないか。そんな大荷物を持ってここまで降りてきてどうした……って、スコル外に出て大丈夫なのかい?」
「ハティと一緒だから大丈夫だよ〜?」
「あ、それとですね――」
少女達が最初に訪れたのは万屋。基本的に何から何まで揃う店でライラプスと呼ばれる店主ーー薄茶のボブショートに、特徴的な肉厚でもふもふな犬の垂れ耳、そして透き通った茶の瞳を持ち、ラフな格好をしているーーは旅商人をしている。それ故か珍しい品もある
また親を亡くした少女達を世話していた本人でもある。しかし昼時には彼女は人狼の家にはいなく、自らの仕事をしている。だからこそこうして仕事場まで少女達は訪ねたのである。
そして旅に出るため事情を話すと。
「――なるほどね。事情はわかったけど、行かせないって言ったらどうする?」
「振り払ってでも行きます」
「はぁ……流石あいつの子だな……んじゃそうと決まれば!」
やはり旅のついでに
フェンリルに頑固な部分があり、血を引き継いでるなら、絶対に曲げないだろうと予想してたのだ。
それにハティ、スコルの母親、フェンリルは口癖のように、
ーー人を憎むな
ーー人を恨むな
ーー人を殺すな
と口煩く言っていた。
だからこそ双子は大丈夫だと信じ、無理に止める必要はないと判断したのだ。しかし義母として心配にもなるため、万が一を考え店の奥から小さなナイフを二人分取り出してきた。
「護身用だ!あんたらに何かあったらあいつに合わせる顔ないしな」
「ありがとうございます!」
「ありがと~……ヘボいナイフだなぁ~」
「おい、うちの物になんか言ったか?」
「なんも言ってないよ~」
ボソリと護身用として渡されたナイフに文句を言うが、けろっとして誤魔化す。なにせ旅商人から物を“無料”で貰えるのは有難く、受け取らなければ失礼に当たる。最悪機嫌を損ねて有料にされる可能性があるためだ。
しかし文句を言うのも無理はない。受け取ったナイフの刃は欠け、所々錆も見て取れたからだ。よくまあこれで護身用と言えたものだ。
「で、見たところ挨拶しに回ってんだろう?ここで時間潰してないでさっさと行きな」
その言葉を聞き「今までお世話になりました」とハティは律儀に、「それじゃね~」とスコルは軽い挨拶をすると、踵を返し万屋を後にする。
バタンと店の扉を閉められたあと、ふぅと一息つき、カウンターの中に隠していた一つの本を手に取ると。
「まさかあんたと同じ道を選ぶなんてね。……フェンリル。天から自分の娘達を見守んなさいよ……さーて私もそろそろ次の場所に行かないとなぁ」
と涙を浮かばせつつ一人呟くのだった。
ーーそれから数分経った頃、ハティ達はもう一つの店へと足を踏み入れていた。
肉や野菜などが炒められ香ばしい匂いが漂う店、つまり飲食店とも言えるが、ここは弁当を作る専門の店、弁当屋だ。
そんな店のカウンターには暇なのか、仕事中なのにも関わらず眠りについている一人の獣人がいた。
獣人は薄い水色の髪を持ち、頭には獣人特有の耳が生えている。しかし少女達やライラプスとは違い、薄くピンと立った耳は猫を想像させる耳だった。いや、想像というより本当に猫の耳だ。それの裏付けに、背後にはヒョロリとした細長い尻尾がゆっくりと揺れている。
「シーさんこんにちは」
「……はっ!ね、寝てないわよ!……ってあら?狼姉妹じゃない、久しぶりね。なんかよう?」
「あ、えーとそれがですね――」
寝ている所を起こされた一人の獣人は、顔を上げた瞬間寝ぼけてのことなのか、はたまた仕事をサボっていると知られてしまうからか、寝てないと言い訳を付く。しかし双子の顔を見た途端、ほっとした表情を見せると、まるで上から目線の様な話し方に変わり、少女達との会話が弾み始めていた。
「――ふ、ふーん。ま、私からしたら?あなた達がいなくなるのはとても嬉しいことだけどね!てか冷やかしはごめんよ!挨拶程度で来たんならさっさと出ていきなさい!あなた達がいると商売できないわ!」
「そんなこと言って~暇だからもうちょっと話がしたいんじゃないの~?寝てたし~」
「したくないわよ!ってか寝てないから!?それに……」
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