第2話覚悟

 そして現在。二人は魔導書を見つけ何気なしに魔導書に従っていたのだが、何も書かれていなかった魔導書に二人の名前が記載されるのと同時に魔導書はさらに強く光る。


 と、思いきや、光は球となり、魔導書から飛び出て、部屋中を飛びまわり始めた。


 飛び回る手のひらサイズをしたそれは、小さく軽い身体を浮かせ、空を飛ぶために生えた半透明の綺麗な羽を持ち、尖った耳が特徴的な、妖精と呼ばれるもの。


 その妖精こそ、少女達の前にある魔導書の持ち主である、双子の母フェンリルがこの日の為にと契りを結んだ妖精。そんな妖精は双子達の目の前に戻ってくるやいなや、


「貴女達ね。フェンリルの子ハティとスコルは。私は〈誘導の妖精サーチ・フェアリー〉フェンリルが貴方達のためにって、試練を与える妖精よ。それよりも一つ確認したいのだけれど、手紙はちゃんと読んだ?」


 と現れてそうそう話を始めた。妖精を見るのは初めてな少女達は驚きつつも、少女達は見たことを、母親の夢を継ぐことを決意した旨を伝える。


「そんな簡単に……多分書いてなかったんだろうけど、これからこの世界の……ユグドラシルの様々な所行ったり、小さい魔物から大きな魔物まで討伐したり、なんなら国から狙われるかもしれない大変な道のりになるのよ?もしかしたら死ぬかもしれないのに……本当にそれでもいいのね?」


 「確かに二つ返事で簡単にと思われるかもしれません……死ぬのだって怖いです。旅だって嫌です。できれば平和に過ごしたいです」


 「なら、悪いことは言わないわ、諦めな――」


 「それでも諦める訳にはいきません。ここで諦めたら、お母さんの夢……いえ、私達の夢は叶いませんから」


 そう言い放ったハティの目からは、確かな覚悟が感じられる。だがこの選択がどれほど危険で、生死の境目を歩かなければならないのかなんて、少女にはわかったことでは無い。それでも、母が残したものを大切にしたいと、できることならば母がやり残したことを成し遂げたいと思っているのだ。


 隣で話を聞いているスコルも同じ思い。真っ直ぐな目で、やると決めたからにはやると言わんばかりに訴えてくる。


 それには流石に何も言葉が出ない妖精は、小さく溜息をつき、「……わかったわ」と呟く。


「でもそもそも兵器って……それにこの魔導書を完成させるってどうやるんですか?」


「兵器については……知らないわ。魔導書を完成させるなら、私が綴る試練を達成するだけよ。因みに私を呼ぶ試練は達成したから、次の試練はもう書いてあるわ」


 兵器と手紙に書いてあったものの、どうやらその事までは知らないようだ。


 それに確かに魔導書を見れば、先程名前が刻まれたページの次、二ページには〈誘導の妖精サーチ・フェアリー〉の呪文式がいつの間にか刻まれている。ページを捲り、三ページを見れば生物のシルエットと『擬態者の核を砕け』と文字が刻まれていた。


「早速命を賭けなければいけない討伐試練よ。脅すみたいであれだけど、命を賭ける覚悟が中途半端だとすぐ死ぬわよ?それだけ魔物は危ない存在。本当にやるのね?」


「何度も言わせないでよ〜。それだけこっちは〜本気なんだよ〜?。いつかは〜外に出なきゃならないって気もしてたしね〜」


「何度もって……言ったの私ですけどね」


 妖精の心配を受けつつも、大丈夫だと言い張るスコル。ハティもまた然り。何度心配しても無駄だと確信した妖精は、


「そう……ならいいわ。あ、その魔物はどこにでもいるし、今からでも行けるけど?」


 と妖精が尋ねてくるが今は掃除、片付けをしていた最中。故に今すぐには行くことはできず、準備も兼ねて数日後挑戦する旨を伝える。


「ーーわかったわ、それじゃあ用がある時は呼びなさいよ?」


「わかりました」


 ――妖精が魔導書の中に戻り数日、少女達は掃除を終わらせ、荷物も早々と纏め終わっていた。それに今の少女達には折角外に出るのだからと、あの地に向かうことにしていた。


「さてと大掃除も終わりましたし、荷物も整えましたし、皆さんに挨拶してから出発しましょうか」


「ハティ〜、今日もハティ成分補給させてよ〜」


「あ、あれは連日やると頭がおかしくなりそうなので……だ、ダメです!それより、スコルさんは大丈夫ですか?」


「うん〜。やっぱり怖いけど〜ハティが一緒なら大丈夫〜!ちゃんとエスコートしてね〜」


「はいはい、それじゃあ行きますか」


 少女達は家に向かって今までお世話になったと、そして天の母親に挨拶をし外へと一歩を踏み出す。


 だが、スコルはあの日からずっと外に出ることに恐怖でしかなかった。それは今もそうで、外に出る事など絶対にできない。


 しかしそれは一人ではの話だ。今こうして外に出れたのは、唯一の家族で最愛の姉妹兼恋人であるハティと一緒にいるから。家から出る時は少し震えていたものの、ハティと一緒だからか恐怖心は不思議と消え去り、二人は笑顔で旅に出るのだった。

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