第5話スライム合戦

「なんとなく?」


「なんとなく?じゃないですよ!?得体の知れない物体には触ったらダメって言ってるじゃないですか!」


「ケチ~」


「ケチ~じゃないです!万が一なんかあったらどうするんですか!」


 よく子供は好奇心旺盛で初めて見たものはとりあえず触れてしまうと言われている。スコルも似たようなもので、初めて見たものや興味を持ったモノをとりあえず触れてしまう癖がある。それも幼き頃からの癖でこうして注意されることが多々あった。


 だからといってなんでも触る訳ではなく、本当に気になったものにしか触れることはない。


 対してハティは真面目が故に警戒心が強く、相方のようにあれやこれやと、見ず知らずのものに触れることは無い。少女がまだ子供であってもだ。


 そんな正反対の少女達がいつもの如く姉妹喧嘩していると、スコルが触れていたぶにぶにした物が唐突にうねり始める。さらには連動して他のぶにぶにした物も動き始めた。


「うひゃぁぁぁあっ!?動いたぁぁ!!」


「ちょっスコルさ……止め……ひゃぁぁ!!くぁwせdrftgyふじこlp!?!?」


 唐突に動いた事で、心臓が口から出てしまうほどの驚きをみせた瞬間、ハティに向かって触れていたぶにぶにした物を投げ始める。


 最初は優れた動体視力と身体能力で難なく回避するハティだが、わざわざ周りの物まで投げつけるため次第に回避できなくなり、ぶにぶにした物が体に当たる。刹那、驚きの余り呪文のような、はたまた今まで聞いたことの無い声で叫んだのか……その場にいたスコルですらも、何を言ったのか分からない言葉が、ハティの口から発せられていた。


 こうして互いがぶにぶにした物を拒絶した結果、ハティですらも、ぶにぶにした物を投げるようになる。が、この状況が故に、そのぶにぶにした物がスライムだということは、全くもって知ることもない。


 しばらく投げ続けられたスライムは、着弾の衝撃で弱点の核が割れ、破裂する形でスライムの生命は消えてなくなる。


「はぁはぁ……スコルさん!?いい加減にしてください!」


「そ、そっちだって……投げてたじゃん~」


 気付けば少女達の身体はスライムの残骸だらけ。ねっとりと、されどもネバネバと粘り気のある液体が身体に纏わりついている。手で落とせるものの衣類は濡れ、粘り気もあり居心地は悪いだろう。


 と、少女は今の丸いシルエットに、そしてある程度手で落とした粘り気のある液体を見て、ふと魔導書のあの試練を思い出す。


 名前がわからないとはいえ、記されていたシルエットに特徴が当てはまったからこそ――


「妖精さん!」


 と荷物にしまっていた本を取りだし妖精こと〈誘導の妖精サーチ・フェアリー〉を呼ぶ。


「――で、急に呼び出されて外に出てみれば……なんなのこの状況は」


 例の如く、光の粒となって出てきた妖精は疲れ果てた少女達の様子を見て呆れ顔を浮かべた。


「あ~聞いてよ〜、ハティが気持ち悪いやつ投げてきたの~!」


「スコルさんが最初に投げたじゃありませんか!……それはそうと魔導書の試練のやつって……」


「まぁそうね……で、その討伐対象のスライム投げあって楽しかった?」


「え、スライム……ですか?」「スライム〜?」


 妖精の口から出た魔名を聞いても、二人はイマイチわかっていない様子だ。わかると言えば、それが零の魔導書三ページの討伐試練の魔物であることと気持ち悪いのみ。というのも少女達は、実際に魔物を見るのも、魔物との戦闘も初めてなのだから。


「全くスライムもわからないなんて……いい?よく聞きなさいよ?」


 魔物のことを殆ど知らないという事実に溜息を短く吐くと、嫌そうにスライム……魔物の事を話し始めた。しかしその間の時間はもったいないと、人の街へ移動しながらの説明となる。


「さっきのは魔物のスライム。核を壊さないと倒せないし、変色で擬態もできるとてつもなく厄介な魔物よ。ま、見たところ運良く擬態しないまま遭遇して、核も破壊したみたいだけど。ちなみに、記された魔法は〈擬態カモフラージュ〉。三ページに記されてるから後で見ておきなさい」


 その後も、次の条件の事やスライム以外の魔物、更には知識として人の街の事などを淡々と説明し続けていた。どうやら妖精はお喋りが大好きなようだ。


 しかしながらこうして淡々と言葉を聞かされると、一部の人は頭を痛くする。理解が追いつかなくなるからこその症状だが、スコルも例外ではなく、途中から聞いているようで聞いてない状態だった。その証拠に、少女のおおきな尻尾は、ぶらりと垂れ下がっている。今が楽しくない証拠だ。

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