第18話 ※希依夏の夏②


揺れる君の眼に見惚(と)れてしまった。

寂しさも強がりも全部消えた。これは偶然じゃ無い。


この距離で君が良いと言うならそうしよう。


「なあ、火を起こして見ないか?」


「・・・ガビーン」


カラッカラで熱々の砂浜で大きな流木を見つけた彼はそんなことを言う。


普通の人だったら無視しそう。こんな真夏に火おこしなんて、自殺行為だし。


日焼け止めを塗ったけど、汗がとめどなく流れて効果は期待できなさそう。


「そこで見ててくれよ。今奇跡を起こしてやる」


湊兄がタオルで汗を拭うと、原始的な火おこしをし始めた。


湊兄が言うには、人間が火を自分で使えるようになったことは奇跡らしい。


何回も力説してくるから、だんだんうんとかそう、としか言えなくなって、それでも奇跡だねって。美味しいものって全部火を使ってできるね。ってだんだん湊兄の言いたいことがわかってきた。


だけど、今、この灼熱の砂地でやることじゃないと思っちゃう。湊兄はきっと砂漠にいる気分なのかもしれない。ほら、飲めないけど冷たい海水のオアシスはもうちゃんと見えてるのに、さっきから湊兄は見ないふりで。


「・・・湊兄、麦茶飲む?」


「・・・・・・もらおうか」


格好つけたいお年頃なのかもしれないけど、それならお姉ちゃんにやれば良いと思うし、・・・まぁ、きーか相手だからこんなに自由なのかなって思う時もある。


きーか的には、こっちの湊兄のほうが好き。


「ぷはぁ。うめえなぁ。麦茶考えたやつは神だ」


「・・・砂漠では何でも神に見える」


だんだんノリがわかってきて、水を求める砂漠の浮浪者の気分だ。


「逆立ちすると、キリアツメみたいに水滴を生み出すことができるぞ」


「・・・虫の気持ちにはなれない。ごめん」


「こんな話してわかってくれるのおまえだけだよ」


暑さで頭がやられちゃったのか、砂漠で逆立ちして水分補給する虫の話までするようになっちゃった。せめて人間でいて。


あ、でも、そうか。


「・・・虫は泣かないから?」


「何の話だよ」


「・・・湊兄は涙が出ない生物になりたい感じ?」


「そうさなぁ。夏なんか、蜃気楼と共に二重で視界がぼやけるんだぜ。距離感が掴めなくて、しんどいんだよ」


「・・・距離感」


きーかも高熱を出した時に、部屋のカーテンが迫ってくるような幻覚を見た時がある。あれって、大丈夫だってわかっていても、実際に見えているのが全く違うものだから怖いんだ。ここまで心理的に解釈してわかっていても、具合悪い時は心も弱っていて怖くなっちゃうから不思議だ。


もし、そんな感じに湊兄もなるなら、多分辛いだろうなって。考えすぎかな。


「ん?流石に虫にはなりたくねーよ。でも生き物って不思議だよな。具合悪い時は目を回しちゃうし」


え?湊兄やばいんじゃない?


「・・・湊兄、今すぐ水浴び行こう」


熱中症になったら大変!湊兄、大丈夫?


「おっけい。オアシスはどっちだ?」


内心焦っているわたしの気持ちも知らず、目を瞑ってきーかに手を伸ばしてくる。


鼻をスンスンとさせて、湊兄は今度は水の匂いを嗅ぎたいらしい。


湊兄にまだふざける余裕があることがわかって、ホッとしちゃった。


「・・・水はあちらですよ」


「ガイドさん、連れてってくれ」


あ、きーかも一緒に旅してると思ったのに、きーかはガイドさんだったのね。


なんだか腹が立って、手を引いて連れていくと、湊兄を海の中に突き飛ばした。

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