第16話 自由なふたり


気持ちが乗らない時でも、人は動き出してしまえばなんとかなるらしい。


突然決まったお泊まり。夢花はいたって普通なのだが、いつも無理矢理こいつの土俵に乗せられている気がしないでもない。


希依夏のほうは、気がつけばそこにいるみたいな感じになってるから無理矢理感は薄いのだが、侮ることなかれ。言質を取るのが上手いのだ。だから俺から下手なことは言えない。


俺としては、自分からこの姉妹に積極的に関わっているわけではない。なのに、なぜこうして変わらずそばにいてくれるのかが、さっぱりわからなかった。


「湊兄、一緒にサラダ作ろう?」


いつものゆっくり調子から少しテンポアップしている声の希依夏。テンションが上がっているようで、その瞳はキラーンという効果音が聞こえそうなくらいやる気に満ちていた。


そして、夢花もそれは同じなようで、じゃがいもを俺の目の前に突き出してくる。


「肉じゃがを作りまーす!実はうちはちょっと味濃いめなんだけど、湊大の意見を聞きますかっ」


「昼飯の弁当くらいの味で良いと思います」


「そんなの軽く超えちゃうゾ?」


「あっ、おべんと・・・」


「!?」


ノリノリの夢花は台所のガス台近くにいるから、希依夏の顔が見えない。


だが、俺は希依夏の顔を見て固まってしまった。


希依夏が顔を赤らめて、嬉しそうな顔をしている。


その顔は、まるで・・・


「ねぇ、湊大?どっち手伝うか決まった?」


夢花が腕まくりして俺の顔を見てくる。


「お、おう。俺は洗い物でいいや」


「じゃあ、食材洗ってね。わたしもやるから。ちょっと!?希依夏?何洗ったレタスをもぐもぐしてるの?」


「・・・精神統一」


うさぎみたいにガジガジレタスを食べている希依夏。


おまえが食べる専門がいいなら流し台の前に立ってたら邪魔だろ。


「希依夏、楽しいね?湊大と一緒に料理するのは久しぶりだなー」


「・・・半年前くらい?」


「いや、いつだって俺は洗い物しかしてないからわからん」


「・・・片付けも料理に含まれる」


「片付けもさ、洗い物とかだと水を豪快に出す人もいれば、節水する人もいるよね。湊大は水出しっぱなしとかしないから助かってるんだよ?」


そういうもんだろうか?水をあまり出さないのは、単に水滴が色んな場所に飛び散るのが嫌なだけなんだが。


「水出しっぱなしって誰がするんだ?」


「きーかはたまに地球に優しくないことをしている」


おまえかよ、と軽く右肘でつつくが、知らぬ顔の希依夏。しっかりしているようで抜けているんだよな。


「だから、希依夏が料理する時はわたしがいないとダメなの」


「・・・そう」


それじゃあ、先日の希依夏のお弁当は夢花と一緒に作ったというのだろうか。


だが夢花の弁当には、毎回決まって野菜おかずが2種類は入っているのだ。希依夏の弁当には野菜など入っていなかった。そんな弁当を夢花が許すとは思えない。


実は希依夏はめちゃくちゃ早起きして作ってるんじゃ・・・


「・・・お姉ちゃん、にんじんイヤ。にんじんだけはイヤ」


「肉じゃがだよ?入れちゃうよー」


「ああああああ」


叫びも空しく、ゴロッゴロの大き目サイズにカットされていくにんじん。


カレーの時とかのにんじんはどうしているんだ?


「味がダメなのか?」


「・・・ザ・野菜って感じが苦手」


なるほどわからん。


「圧力鍋借りますよー?」


「好きに使って―」


リビングのソファーで寝たふりしている母親がムカつくわ。今日は嫁に任せるってよ。嫁ってなんだよ。母親が積極的にでしゃばって嫌な姑になればいいのに。そうしたら、こいつらも来なくなりそうだ。


「・・・きーかはもう一品作る。何が食べたい?」


「わたしもあと一品作るよ」


「そんなに食材あったっけ?」


「好きに使ってー」


うちはいつもおかず一品プラス味噌汁なのに、なんだこの扱いの差は。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る